それは健康の証

新巻へもん

思い出と共に

 疲れた。死ぬほど疲れた。ミキの家で彼女の父と兄を前にして気まずい思いをするだけでも精神値がゼロになるのに十分だ。それなのに、そのときの様子をミキの母から知った実の母親から聞かされるとか、どんな罰ゲームだろう。まあ、ミキの母には色々とフォローして貰ったとは思う。


 お付き合いするに当たって、双方の母親同士が親しい友人というのも良し悪しだ。このまま結婚することになったらお互いに気兼ねしなくて済みそうだ。少なくとも俺は時期が来たらプロポーズしたいとは思っている。しかし、実の母親から、学生の間はちゃんとスキン付けるのよ、とか言われると何と言っていいか分からない。


「あら。何その顔。まだ自分は清いお付き合いをしているとか主張したそうだけど」

 俺は時間稼ぎの為に冷蔵庫から炭酸飲料を持って来る。その間にどう返事をするか検討した。

「まあ、親子でも相手のプライバシーは尊重して欲しい」


「そうね。でも、万が一のことが起きた時に現実に不利益を受けるのはミキちゃんなんだから。これ以上は言わないけど、あの子を泣かすようなことをしたらぶっ飛ばすわよ」

 俺は黙って頷くことしかできない。炭酸飲料を飲み終えると自室に逃げこんだ。


 ベッドに腰掛けてほっと息を吐く。まだ呼気の中にアルコールの靄が含まれていた。酔っぱらうほどではないが、全身の血管が熱い。精神的には疲れているものの、体が披露しているわけではない。そして、体に酒が残っている。さらに、生々しい会話。そこから引き起こされるのは強い欲求だった。


 部屋の入口の鍵を見る。指さし確認ヨシ。ちゃんとつまみが床と水平になっていた。これで万が一の事故は防げる。先日歩いていて貰ったポケットティッシュを机のところから取り上げてベッドに戻った。座るとスプリングがギシと音を立てる。その音が半年ほど前の記憶を呼び覚ました。


 ***


 ミキと一緒に行った金沢旅行。淡い期待を抱きながらチェックインをすれば、シングル2部屋だった。しょんぼりと部屋のユニットバスに入って、備え付けのぺらっぺらの浴衣を着たとたんにかかってきた電話。ミキから少し部屋で飲まないかというお誘いにすっ飛んでいった。


 風呂上がりのほんのり上気した艶やかな肌。微かに香る石鹸の香り。飲んでいるうちに我慢できなくなって、まだ少し湿り気の残る髪の毛にそっと顔を埋める。胸いっぱいに鼻から息を吸い込んだ。両手をミキの体に回す。顔を上げると目が合った。仕方ないなあ、というように笑っている。


 長い口づけを交わし、手を浴衣の合わせ目から差し入れる。パシッと軽く叩かれた。

「明かりは消して」

 2歩で壁のスイッチを叩きミキの元に戻る。


 バスルームから漏れる明かりの中で透かし見た。ぶつからないようにもう一度キスからやり直しする。手を差し入れると柔らかいものに触れた。ブラは付けてない。もうすぐに寝るつもりだったのか、それともこうなることを予期していたのか。そっと手を奥に進ませると熱いものに当たる。


 親指と人差し指の腹でそおっとそおっと撫でた。ミキが甘い吐息を漏らす。そっとミキを横たえて、薄い浴衣をくつろげる。指で愛撫しているのと反対側の突起に唇を寄せてついばんだ。舌を出してぐるりと一周する。ふうんという声が頭の上から聞こえ、俺は空いた手で浴衣の裾をまくり上げながら、内太ももに指を這わせた。


 ***


 気が付くと体の一部が痛いほど硬くなっている。それを握る手の動きが勝手に速くなり、ティッシュの中に熱い液体をぶちまけていた。快楽と共に罪悪感がこみあげて来る。ため息をついてティッシュを丸めると机脇のゴミ箱に向かって投げ捨てた。

 

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