番外1 神さま

神様なんて、きっと、いない。

だって、もしも居るならば────。


「ごめん、ね」


ぽつりと落とされたその声に、もう動いていないはずの胸がぎゅうと締め付けられる。

チラリと横目で盗み見れば、申し訳なさそうな、悲しそうな、そんな顔。

歩高は何にも悪くないよ、そう伝えられたなら。


『うん?なんて??』


聞き入れてもらえないのは知っているから、聞き流す。聞こえないフリで笑い飛ばす。

何も出来ないならせめて明るく。歩高の好きだった私でいよう。そう、いつかの日に決めたから。


「────幽霊の声じゃない?」


そんな軽口が少し震えている事に、彼は気づいているんだろうか。優しい彼は、きっと気づいていないんだろうな。平気なふりをしてくれている。


ごめん、ね。歩高。


そんな言葉は口に出来ない。

きっと傷つけてしまうから。


言いたい言葉を飲み込んで、軽口を返す。笑い合う。2人並んで道を歩く。歩き慣れた、帰り道。

茜に染まる道を行く、この時間が好きだった。

並んだ影法師を追いかけるのが好きだった。

いつまでも続いて欲しいと願うほどに。


それなのに、なんでこうなっちゃったんだろう。

夕日に染まる道の上、1人分の影が伸びている。


ねえ、神さま。

もし、居るんなら教えてよ。


何で、何で私はここに居るの。


優しさのつもりならひどい人、意地悪のつもりなら嫌な人。こんな『またね』は望んでない。


ああ、でも、そっか────。


『じゃ、また明日〜!』


立ち止まり、何かを逡巡する歩高に手を振る。

笑いかけて、玄関の方へ駆けていく。そんなフリをする。1人残された彼の表情が曇るのを見る。

泣き出しそうな彼を見る。


ああ、やっぱり。

ひどいのは、意地悪なのは、きっと私だ。

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灯籠流しの夜を、君と 紗倉雨 @skram

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