冬
20××年某月。
やがて秋風が通り抜け、寒い冬が訪れた。
僕は暖かい家の中で、のんびりと暮らしていた。もう今年は働く必要はない、そう安心しながら。
そんなある時。
……トントン。
突然ドアを叩く音が家中に響く。
僕は多少の警戒をしながらドアを開くと、そこには霧切が立っていた。
すっかり痩せ、げんきがない。食料がなくて困って来たのだろうか。
「どうしたの?」
「食べ物が見つからないんだ。辺り一面雪しかなくて、探しても他に見つからないんだよね」
「知ってるよ。だから僕たちは働いていたんだ。そう、君が遊んでいる間もね」
僕は軽蔑するような眼差しで見つめながら言う。
それに気付いた様子の彼は、怖気付いたのか目を逸らす。
「そうなることはわかっていたんだよ。僕は警告をしたでしょ? でも、それを聞きいれるは疎か、僕と家族のことを嘲笑っていたよね?」
「そんなこと知らないよ! こんなことになるとわかっていたら、俺も真面目に働いていたよ!」
彼は声を荒らげて言い返した。
「君が、安藤さんが僕に強く言っていれば、僕は真面目に働いていたんだ!」
「何を言いたいの?」
「安藤さんのせいで、こんな苦しい思いをしているんだ。君の食料を少し分けてくれないか?」
意味がわからない。
何故、僕が頑張って集めた食料を、働いていない奴に分けなければならないんだ。
「無理に決まってるでしょ」
「……そうか。それならこうするしかないようだな」
彼は背後に隠していたナイフを構え、僕の首元に突きつけた。
「分けてくれないのなら、俺は君を殺す。今から間に合うぞ」
「お前に渡す食料はない」
「そうか、残念だ……」
彼はナイフを左手に持ち替えると、それを振り上げ、次の瞬間振り下ろした。
僕はナイフを躱し、彼の腹部を全力で殴った。すると、彼はそれと同時にナイフを落とした。
どうやら鳩尾に入ったらしく、彼は腹部を抑えながら倒れ込む。
「やりやがったな……」
「霧切さんが悪いんだよ」
「許さねぇ!」
彼は落としたナイフを拾い上げて、足を切りつけてきた。
「……!」
僕は驚きと痛みで後ろに倒れてしまった。
霧切から二回目の攻撃が来ると予想し、僕は立ち上がろうとした。しかし足に傷を負ってしまったからか、立ち上がることができなかった。
「残念だな。お別れだ」
彼は寂しそうな声音で言うと、逃げることのできない僕の胸元にナイフを刺した。
僕がうめき声を上げると、汚物を見るような表情をして言った。
「素直に聞いていればよかったのにね」
そう言うと彼は、僕の家に上がる。
止めようとしたが視界が段々と暗くなり、いつの間にか意識を失ってしまった。
僕らの冬は残酷だった。 赤坂 葵 @akasaka_aoi
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