第6.5話「厄災の母」

その龍は、どこまでも続く大空を自由に飛び回っていた。

優雅に、力強く、大きく広い翼で風を切りながら飛ぶ龍は、さながら空の王者のようであった。

もし龍に人と同じような思考があったならば、きっとこんな毎日が明日も明後日も続く、と思っていたのだろう。

––しかし、その命は唐突に終わりを迎える。


『ワ た シ ノ カ ワ イイ こ』


彼女が、見た。

彼女に、見られた。

龍の皮が、肉が、臓物が溶け出し、主の身体からずるりと剥がれ落ちた。

苦悶の声を上げ落下していく龍にはもう、骨と目玉しか残っていなかった。


『か ぞ ク を ミ つ け テ』


龍の骨から、新たな肉が湧き出て来た。

あまりにも醜悪。

いくつもの目玉がついたその肉は、龍の骨を折り、生やし、新たなる生命の形へと変貌させた。


『わ た し ノ モ と ヘ』


ソレが、大地に降り立つ。

あまりにも強大な力を持つソレが地面に足をつけた途端、まるで大地が少しでもソレから逃げるように大きなクレーターを作り出した。

人型に、龍の頭。

3Mほどある背丈。

全身に、血走った巨大な眼。

両腕からは、触れるもの全てを切り裂かんとする、鋭利なトンファーのような形をした骨が突き出ていた。


『ワ た シ の サビし サ ウ めて』


まさに怪物––いや、怪人。

龍骨怪人ドラグレードは何かを求め、音を超えた速さへどこかへ向かった。


『さび シ い さ び シイ の』


––彼女は泣く。無限に広がる闇の中で。

彼女は泣く。孤独が生み出す寂しさに胸を痛めて。

彼女は泣く。家族の温もりを求めて。

彼女は泣く。彼女は泣く。彼女は泣く。


––自分が、邪悪なるものに変貌したことに気づかずに。

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黒き勇者の転生英雄譚(リスタート) おぐら @ogra_blackbrave

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