本当はブラックコーヒー派
最上澪
朝
「せ~んぱいっ」
もはや見慣れた能天気な笑顔。
いつも通り、癖の強い茶髪には寝癖がついていて。
「今日もカフェオレ飲んでるんですね。
そんな苦いの俺ぜったい、一生飲まないです。」
「…カフェオレは、充分甘いと思うけど。」
えー、と笑いながら言っている彼の、学年と名前。
それと、苦いものは好きではない事。
私が知っているのはそれくらいで。
「…君は何飲むの。早く決めないと時間無くなるよ。」
「ん~…今日はココアの気分ですね!」
「今日はって…今日も、の間違いでしょう?」
あの日から。初めてここで顔を合わせたあの日から、
こうして同じ時間に、互いに何か飲みながらとりとめのない話をするようになって、
もうどれくらい経つだろうか。
その割に、この時間以外には会話どころかすれ違うことすらほとんどない。
それでも。
「やっぱり部活の後は糖分補給が大事ですよねー。
このあと小テストもあるんですよ…。」
「頑張れ。小テストならちょっと教科書見直せば大丈夫でしょう。」
「うわっ頭良い人のセリフじゃないですか!」
難しいことを考える必要のない、この穏やかな時間が心地よくて。
きっと私にとって、今一番大切な時間になっているのだろう。
「そろそろ時間だね。教室行かないと。」
「うぇー…テスト無くなんねえかなあ…。」
「ふふっ…良い点とれたら明日ココア奢ってあげようか。」
「えっまじですか!じゃあ頑張ります。目指せ満点!」
「無理はしない方が良いと思う。」
学生である以上、長くは続かない時間だけど。
願わくは、卒業までこの時間が続けばいい。
「…そろそろかな」
「何か言った?」
「いーえー。何でもないですよー。ただのひとり言です。」
そう考えていた数日後、
満点の小テストと、ブラックコーヒーを平然と飲む姿を見せつけられ、
卒業後もこの時間が続くどころか、寧ろ増えることになったのは、また別の話。
「甘いの苦手だったんですけどね。
ココア見た瞬間警戒ゆるめたから使わない手はないな、と。」
「聞いてない…。」
本当はブラックコーヒー派 最上澪 @mogamimmio
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