ソロ語り:冒険者になりたいようだな

どこかのサトウ

ソロ語り:冒険者になりたいようだな

 よう、後輩。まぁこっち来て座れよ。

 俺の名はジェイ。しがない冒険者だ。

 この季節になると、いろんな事情を抱えた連中が冒険者になりに来やがる。

 家から追い出された、借金のカタに売られた、変な憧れを抱いていたり、一発逆転を狙っている奴もいるな。あと忘れちゃいけねーのは、お前みたいな奴だな。

 まぁ、とにかく数えればキリがねぇ。——ほら、あそこを見てみろ。

 さっきお前が入ってきた入り口にいる、……そう、普段着の上に皮の胸当てをしている少年だ。

 周囲を物珍しそうに見渡して、不安そうな顔をしているだろう?

 まぁそこは別に良いんだが、ギルドの入り口にいつまでもぼけっと突っ立っているのは良くない。他の冒険者とぶつかって揉め事になる。

 まさかとは思うだろうが、故意でぶつかってくる冒険者もいるんだよ。

 あー、言わんこっちゃない。

 まったく世話の焼ける。いきなりですまんが、ちょっと待っててくれ……


 よっこいせっと。すまん、待たせたな。

 ……で、どうよ? え……何がだって?

 かーっ! 俺の活躍だよ! 見事な仲裁役だったろ?

 あ、まだ言ってなかったか?

 俺はこの冒険者ギルドで、ソロ冒険者の見守り隊をしている。

 へへっ、こんな酔っ払いのような見てくれでも『ソロ冒険者を見守り隊』の一員なんだぜ?

 はっ? なんで笑ってんだよ!

 えっ、見守ってないだって?

 ばっか! お前、初心者のソロ冒険者なんて、目を離さなくてもすぐ死ぬのに、悠長に見守ってらんねーよ!

 この前なんて、久しぶりにダンジョンに潜ろうと思ったら、入り口で木の棒握ったソロ冒険者を見かけてな、もうダンジョンどころじゃなくなってさ——

 ——え? そりゃ見守ったよ! 思いっきり!

 そしたらそいつ、速攻でスライムに捕まって溶かされてやんの。

 まぁ、軽い火傷程度で済んだけど、普段は温厚なこの俺でもさすがに小一時間問い詰めたね。うん。

 でな、そいつはギルドが装備の貸し出しをしていることを知らなかったんだよ。俺たち冒険者からしたら大問題だろ?

 だからそいつの担当……ほら、あの入り口からまっすぐ進んだカウンターにいる一番左側の、そうあの可愛い猫耳の受付嬢な。クレーム入れたら、めっちゃ泣かれて、俺が悪いみたいな話になってよ。

 あいつの担当してる冒険者たちが正義面して、俺に謝れって言うんだよ。

 酷いだろ? お前もそう思うだろ? そう思うよな!

 でも俺は何も間違っちゃいない。だから言い返してやったんだ。

 こっちは遊びでやってんじゃねぇってな。命掛かってんだよってな。

 そしたら連中から総スカン食らってな!

 しかも俺と仲良くするとハブられて、パーティーが組めなくなるんだってよ。笑えるだろ?

 良い大人がとは思うが、パーティーが組めないとなると冒険者としては致命的だからな。ホームを移すくらいしか対応できねぇし。

 ——何? 俺のことが心配だと? 生意気な奴だなぁ!

 安心しろ。パーティーが組めなくなった俺に、ここのギルドの支部長がこの仕事を紹介してくれたんだよ。

 えっ、真昼間から酒を飲んでるただ酔っ払いだと思っただぁ?

 くくっ、残念だったな。これ、ただの水なんだぜ?

 おかげさんで見守り隊の効果は予想以上みたいでな、ここの支部が一番ソロ冒険者の死亡率が低いんだとよ。知らなかっただろ?

 まぁ、不器用なりに上手くやっている。ってか俺の心配するより、まずはてめーの心配をしろ!

 良いか、最初のうちはレンタル装備で良い。浅い階層のモンスターを狩れ。

 少しずつで良いから強くなれ。だが過信と無理だけは絶対にするな。

 これは他の見守り隊から情報を集めてわかってきたことなんだが、ソロのルーキーどもが、ダンジョンで命を落とす要因の大半がこれだ。

 つまり、過信と無理をしなければダンジョンで命を落とす確率がグッと低くなるってことだ。

 よし、良い目付きになってきたな。気が引き締まってきただろ?

 あぁ、ついでにもう一つ。

 信頼できると思った奴がいたなら可能な限りパーティーに誘え。

 ソロの冒険者じゃなかったら、命を落とさずに済んだって奴も大勢いるからな。

 分かったか? 分かったらこれで俺の話は終わりだ。ほら、受付へ行った行った! それじゃーな!


 〜 終わり 〜 

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