ソロそろ着くト思いマす

タカテン

『ピザ屋がこない!』裏エピソード

 それは一本の通信から始まった。

 

『えっとぉ、ソーセージモントレーとマルガリータのハーフ&ハーフと、ハワイアンデライトとイタリアンバジルのハーフ&ハーフをお願いします。住所は――』


 翻訳ツールがリアルタイムに通訳するが、元言語が遠く離れた太陽系第三惑星の地球、しかもその中でもごく一部にしか使われていない日本語なるものであるとモニターに記されると、デッキクルーたちから「おおー」とどよめきが起こる。

 

「艦長、通信トラブルかと思われますが、いかがいたしましょう?」

「うむ。久々に面白そうな案件ではないか。受けてやれ」

「は!」


 通信士は艦長に最敬礼するとモニターに表示された対応マニュアルに従って「ありがとうございます。ご注文繰り返させていただきます」と対応し、しばらくして通信を終えた。

 

「艦長、先ほどのはどうやら地球のピザって食べ物の注文らしいですぜ。今、メインモニターに映し出します」


 言うがいなや宇宙船のメインモニターにでかでかとピザが映し出され、その画像にクルーたちは思わず吹き出してしまった。

 

「ほう。まるでこのギャラクシーカクヨム号みたいではないか。ますます面白い。技術長、このピザっていう食べ物を再現するのは可能かね?」

「データを確認したところ、問題ないかと」

「副長、我々の予定は?」

「ご存じの通り、コロナ宇宙線の影響でしばらくヒマです。はやりの宇宙出前配達人ウーバーデマエカンでもやりますか」

「あれは距離に応じて報酬が上がるらしいな。諸君、今夜はその臨時収入で奢らせてもらうよ」


 太っ腹な艦長の言葉に、みんなから歓声があがる。

 

「進路変更! 目標、太陽系第三惑星・地球」

「は! ルート2及びルート41を経由し、太陽系へ30秒後にワープします!」

「艦長、ひとつ問題が! 地球はどうやらまだ銀河連邦に属していない発展途上惑星のようです。我々の存在を知られるのはマズくないですか?」

「ふむ。では『OUCHI時間』システムを使い、注文をしてきた者の居住空間のみをこのギャラクシーカクヨム号と時空同期させよ。我々が地球に着く頃には知的生命体が皆滅んでいるほど時間が進んでいれば、無駄に目撃されることもあるまい」

「了解。『OUCHI時間』システム、発動! 解除は我々がピザを届け終えた直後でよろしいですか?」

「それでいい。ピザを届け次第、我々は亜光速で地球を離脱する。航海長、予想航海時間は?」

「はは! おそらく2時間かと」


 2時間……それは宇宙の流れで言えばほんの一瞬ですらない、ほとんど無に等しい時間だ。

 が、ピザの配達においては、あまりに長すぎる。

 先ほどまでピザのことを知らなかったギャラクシーカクヨム号のクルーたちも、これはマズいのではないかと俄かに不穏な空気を漂い始めた。

 

「2時間、か……通信長、例の地球人から再度通信が入れば私に回し給え」

「え? それはどういう?」

「ふふふ。久々に『牛歩のジューゾー』の血が騒ぎよるわ」


 かくして地球へピザを届ける為、遥かなる2時間の旅が始まる。

 その間、何度も注文者から催促の電話が届いたが「ア、もうスグ出まス」「サッキ出まシタ」「ソロそろ着くト思いマす」と、ジューゾー艦長の流暢な「まだ日本語が危うい感じの外国人」の喋り方による絶妙な交渉術により、華麗にクレームを回避した。

 

 そして。

 

「スミマセーン! ピザ、遅くなりましター!」


 ついに彼らは遠く離れた地球へ無事ピザを届け、注文主の住む建物以外は荒野となった地球が『OUCHI時間』システムの解除によって数万年前の元の姿に戻る中、光の速度で離脱した。

 

 なおピザを届ける際に部屋の中で見た光景に関しては、地球人のプライバシー保護のため固くかん口令が敷かれており、正式な記録は残っていない。

 

 おわり。

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