第4話

 ¶監督生¶


 1


「あの、先輩。視線集めちゃってるんですけど」

 そう声をかけるとハッと思い出したように俺から離れ桜川先生に向き直る。

「失礼しました!続けてください、桜川先輩」

「相変わらずお前は騒がしすぎだ。それと私は今年から教師だから先輩呼びはやめろと言ったはずだ」

「はい、気をつけます!先輩!」

「お前あとでぶっとばすからな」

 それから桜川先生がまた生徒の名前を呼び始めたので小声で少し話してみる。

「さっきはいきなりどうしたんですか?初対面ですよね?」

 すると、榊先輩はコクコクと頷く。

「うん、私も名前しか知らなかったんだけど期待以上にかっこよくてさ。ごめんね?」

「はい、またお願いします」

「え、今なんて言った?」

「またお願いします」

 するとまたぎゅーってしてくれた。

 え、こんなに可愛い生き物存在したんだ。

「お前らひっつくな、もう呼び終わったから次の説明するぞ」

「え、なに先輩妬いてんの?」

「せめて敬語で話せ」

「ッて!」

 桜川先生が榊先輩にデコピンする。

 その間に周りを見渡すと思っていた以上に周りの視線が冷たかった。とくに干支君の。

「少しバタバタしたがこれで今日は解散にする。このあとは監督生の指示に従って行動してくれ。明日は8時半にここに集合。遠西、寝坊するなよ」

 ぎくっと遠西が背筋を伸ばす。

 コイツ寝坊でそんなに有名なのか。

「では解散。くれぐれも今月中は不要な戦闘は控えるように頼む。零と干支君は残ってくれ」


 2


「先に帰る〜」って言ってた遠西がとにかくムカついたが、俺と干支君の招集。だいたい話の内容は検討が着く。

「明日だが団長会議がある」

 やっぱりそんなことだろうと思った。

 明日も居残りかー。

「そして一応、各国の団長の情報だけでも共有したいと思ってな」

「もうわかったんですか?」

「ああ、決まったら職員室へ報告にいかないといけないルールだからな」

 干支君の質問に桜川先生がそう答える。

「じゃあ、まず南国団長、姫音理澄めおとりずむ。使う魔法は『青炎せいえん』。青炎は発生した炎で周囲の温度を変えられるらしい。そして西国団長、千桐椛ちぎりもみじ。使う魔法は『緑炎りょくえん』。緑炎は発生した炎から生命体を召喚できるらしい。最後に北国団長、干支君戒えときみかい…」

「は?」

 視線を干支君に向ける。

 すると、少しうつむき口を開いた。

「ええ、戒は私の弟よ」

 桜川先生が顎を引く。

「嫌じゃなければ詳しく聞かせてくれ」

「二年前、内乱が起きたあの日。戒は今の北国の方まで友達と遊びに行っていました。でも内乱で家の周りは焼けちゃってそのあと会うことはありませんでした、それだけです」

 おそらく、そのまま北国で今まで過ごしたのだろう。

 だが重要なのはそこじゃない。

「なるほどな、血の繋がりのある家族か。それで、お前は戒を殺せるのか?」

「え」

「お互い国背負って立つトップなんだ。衝突がないなんてありえないだろ?もし、戦う状況になったときお前は殺せるのか?」

 大事なことなのではっきりさせておきたい。

 桜川先生には黙っててほしいので目で牽制しておく。

「わか、らない」

「そうか、なら俺が明日戒を殺す。団長会議で宣戦布告してみるよ」

 すると、二人は驚いた反応をみせる。

「え、どうしていきなり」

 どうしていきなり、ね。俺もなにをそんなに焦っているのか。きっと戒のその存在がイレギュラーだからだ。

 そして、干支君のこの反応だと十中八九殺せない。

「不安要素は早めに消しておきたい」

「待て、その件は私に預けてくれないか?」

 ここで桜川先生が遮る。

「零、たしかにお前は強い。だが、先にも言ったように今月の戦闘は控えてほしい。死にはしないだろうが怪我でもこの先、痛手になってくる。もっと手頃な相手なら話は別だが」

 そうだろうな。第4期は。そう簡単に殺せる相手ではないだろう。

「まあ、その考えも一理あります。わかりました。この件は先生に預けます」

「ああ、助かる。まだ続きだったので言っておくが干支君戒の魔法は黄炎こうえんと言って炎をとおして触れたやつの魔法をそのまま使うことができるらしい」

 やっぱり『炎』か。東国うちだけか、『炎』持ちがいないのは。

 まもなくして、それまで黙っていた干支君が口を開く。

「やっぱり明日、北国に1VS1を申し込みましょう」


 3


 時刻は午後8時すぎ。現在榊先輩の部屋に集合している。

 メンバーは俺、干支君、榊先輩。

「まず、いいですか?」

 二人が頷いたのを確認して話を続ける。

「干支君についてだ。榊先輩は適当に聞いててもらって大丈夫です。じゃあ、単刀直入に言うけど『王』って魔法はまだ使い道あるだろ?」

「というと?」

「そうだな、具体的には『洗脳』の類か?どちらにせよ精神関与系魔法だろ?」

「ええ、そうね。『王』には大きく分かれて二つの使い方があるわ」

「あっさり認めるんだな」

「一応、その考えに辿り着いた根拠を聞いてもいいかしら?」

「そうだな、まず一つ目、遠西達のトイレを待っているときだ。あの目眩の感覚、精神関与系ってのはすぐわかった。そして二つ目、俺たちは遠西と結城を待ってる間3回くらいしか言葉を交わしてない、それなのに遠西が『今回は長かった』といきなり弁解してきた。これがどういう意味かわかるか?」

「ええ、もちろん」

 榊先輩が疑問を覚えていそうなので一応言葉にしておく。

「俺の記憶がとんでるってことだ」

「なるほど」という榊先輩の反応を確認してさらに続ける。

「そして三つ目、お前はこの学校に詳しすぎる。先生を待つ間だってあの自己紹介がなければ明らかに俺たちはペナルティを受けてたし団長会議の存在を知ってることもそうだ。ここから俺の記憶がとんでる間に学校関係者と接触してたことも見えてくる」

 ぎくっと、榊先輩が背筋を伸ばす。

 遠西といい、ワンパターンなんだよな。

「先輩と接触してたんだな」

「ええ」

「そしてこれがわかるともう一つ、先輩との接触なんて隠すことじゃないだろ?なら、なんで俺の記憶を消した?もう一人、接触したんじゃないか?」

 これは初耳だと榊先輩も顔を上げる。

「放課後の様子を見るにそうだな、戒だろ?」

「全問正解。さすがね」

 ため息混じりに干支君がそういう。

「ここからは、榊先輩はついていけないと思いますがもう少しだけ続けさせてください」

 一応、断ってから口を開く。

「お前、俺の記憶をどこまで見た?」

 聞くと干支君は「そこまで知ってるのね」と小さくこぼし淡々と語りだした。

「まず、あなたが外から来たってこと。それと、あなたの魔法の本質。あとは、そうね。今、こんなことになってしまってる理由とでも言えばいいかしら」

 なるほどな。

 俺の目が冴えてからの干支君の反応。それから、俺の実力を全て汲んだ上での班編成。どこまでかは気になっていたところだったが全部か。

「すごいよ、あの記憶みて正気を保ててるんだな」

「正気とはほど遠いわね」

 視線を合わされずにそう言われた。

「まあ、聞けたいことは聞けた。ありがとう」

「いいえー」と棒読みで干支君がこたえ、続ける。

「なら次は私からいいですか?明日の1VS1についてです」


 4


「なるほどね〜」

 榊先輩が返事をする。

「一応、監督生として榊先輩から許可をいただきたいのですが」

「うん、私は賛成かな。話聞いてる限りだと負けそうにないし」

「そうですか、よかったです」

 時刻はそろそろ夜の九時をすぎようとしていた。

 これ以上、女子の部屋にいるわけにはいかないだろう。

「あ、じゃあ先輩。もう遅いので俺は戻りますね」

「え、一緒に寝ないの?」

「ぜひ、お願い…」

 言おうとしたが干支君の視線が恐ろしかったのでなんとか踏みとどまった。いや、踏みとどまれてないか。

「いや、さすがにまだ出会って数時間なので今日は見送りたいと思います」

 言いながら泣きそうなのは黙っておく。

「バレバレよ」

 干支君のツッコミがはいったがここは無視させていただこう。

 俺たちはその後、先輩の部屋を出て一年寮に向かって歩いた。

「干支君」

「どうしたの?忘れ物?」

「いや、違う。お前さ、不安だろ?」

 すると、干支君は驚いたような顔をしてから少し笑った。

「ええ、そうね。まず本当にあなたは仲間かってとこからかしら」

 まあ、たしかにそうなるよな。

「俺の目標のためならわかると思うが、どこの国についたって俺には関係ない」

 少し干支君がうつむく。

「だけど、中途半端な結果は望んでないんだよな。だから、約束する。今後、俺はお前たちに全面的に協力する。信じてくれ」

「それが本当なら頼もしいわね」

「絶対疑ってるだろ。なんなら結城連れてくるか?」

「もう、あの子は寝てるわ」

「まだ、九時すぎだぞ」

「寝る子は育つって疑わないもの」

「あ、そう」

 そんな何気ない会話をしながら部屋の前に着く。

「じゃ、明日な」

「ええ、遅刻しないようにね」

 そう言って別れたあと俺は部屋に入りベッドに横になって今日のことを少し振り返る。

 榊先輩からいろいろ聞けたのは大きな収穫だな。

 明日はいろいろ忙しそうだから明後日少し桜川先生と話そう。

 その後、身支度を終えて眠りにつき入学式初日を終えた。

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黒にひかれる運命は。 琴塚ミミ @MIMIkototsuka00

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