アニバ君はどうしてもソレが気になる

宵野暁未 Akimi Shouno

旧時代の遺物が発見されたんだって

「おい聞いたか? アニバ、ハンターやめるってよ」

「嘘だろ? あいつ、トップの実績を誇ってたんだろ?」

「それがさー、今回、なんかヤバいモノ見つけちまったんだってよ」

「ヤバいモノって何よ」

「それが分からんから、気になって気になって夜も眠れんとか聞いたぜ」


 俺たちは地球民族。他の民族も人種も存在しない。肌の色は薄紫で、髪や目の色は濃い紫色が本来の姿だが、誰もが自分の好みに合わせてカスタマイズ出来るから、まさに色々な色の人間が存在する。それが個性だ。

 過去のことは分かっていないことが多い。理由は、大きな声では言えないが、“第4の時代”が週末を迎えた時、旧人類から生まれた新人類、つまり俺たちの先祖が、旧人類の文明や自分達の出生を恥じて黒歴史として闇に葬ったかららしい。

 “第4の時代”に関する記録は、公的には皆無ということになっている。実際、第4次世界大戦とかいう戦争によって“第4の時代”が消滅した時に、その時代の文明も遺物も消滅したらしい。

 新人類である地球民族が、“第4の時代”について知ることは不可能に近いのだ。


 ただ、一口に地球民族と言っても思想や志向は様々だから、黒歴史の闇の向こうを垣間見たいという人間も居る。大抵は金持ちだから、彼らは大金をつぎ込んで好奇心を満たそうとする。

 そこで登場したのが、“四探しテトラハンター”と呼ばれる俺達なのだ。そんな名称で呼ばれる理由は誰も知らない。どうやらテトラという言葉が4に関係しているらしいが、まあ、そんな事はどうでもいいか。


 話をアニバ君に戻そう。

 アニバ君はまだ若いが、俺達テトラハンターの中でも指折りの凄腕で、獲得賞金の総額は天文学的数字になるとも聞いたことがある。


「アニバ君、十分に儲けたから引退して豪遊でもするつもりかしら?」

「アニバに限って豪遊は無いと思うけれど、あいつは変わり者だからな」

「今、何処にあるんだ? アニバ君が見つけたっていうヤバいモノ」

「闇サイトのテトラ博物館に展示してあるらしい。買い取った奴が自慢したくて出品してるんだろう」

「ちょっと見に行ってみない?」

「見ねえ訳にはいかねえよな」


 俺達、つまり、俺カクト、相棒のヨムナン、新人サリーの3人で、時間を合わせ、闇サイトのテトラ博物館にバーチャル見学に行くことにした。

 ちなみに、この時代、性別は意味のないものとなっている。相棒のヨムナンは見た目はイケメンだが性染色体はZWつまり雌型だし、見た目が美女なサリーは、性染色体はZZつまり雄型だ。アニバ君の性染色体が何かは知らない。どっちでも何も困らないし。


 闇サイトのテトラ博物館に集まったおれたち3人は、早速、アニバ君が発見したというモノの展示場に向かった。思ったよりも見物人が多かったが、バーチャルだから三密なんて関係ない。ン? 三密って何だ?

 手に取って見るのも自由だ。バーチャルだから本物が痛んだり盗まれたりする心配もないしね。

 

 それは、思っていたサイズよりも大きかった。人間と同じくらいのサイズだ。手に取る……には少し大きかったので、あちこち触ってみるだけにした。四角い形で、可動部が大半を占める。尤も、本当に可動部なのかは分からない。何しろ1000年以上も昔の遺物なのだから、固定部分が緩んで動くようになっただけかもしれない。


 展示品の説明には以下のようにあった。


************


 名称、用途ともに不明。

 大きさや形状から推測すると、古代人が横臥するのに丁度よいサイズであると思われるが、可動部の用途について意見が分かれており、今後の研究が待たれる。

【推測1】 古代人の健康寝具。

 程よい大きさと刺激のある可動部が、就寝時の身体に効果があったのではないか。としては少々刺激が強いとも思われるが、古代人が使用した当時は新しくて適度なクッション性があった可能性も捨てきれない。

【推測2】 病人や怪我人の運搬に使われた、いわゆるタンカ的なもの。

 人間が寝た状態での移動も楽だったと思われるからである。但し、縦横自由には移動できない可能性がある事と、病人や怪我人を運ぶにはマットなどを敷く必要があるのではないか、との反対意見もある。

【推測3】 幼児の玩具。

 極めて原始的ではあるが、幼い子供は単純な形や動きを好む場合もあり、古代人の幼児が、これに乗って遊んだり、可動部を動かしたりして楽しんだのかもしれない。

【推測4】 古代人のレジャー用具。

 自然に存在するなだらかな坂、或いは人工的に建設した計算された斜面コースを、これに乗って降下することによりスリルを味わったのではないか。

【推測5】 農業用器具。

 古代人が穀類を脱穀する為や、芋類を潰してデンプンを取り出すのに用いた。一度に多くの穀類を脱穀したり潰したり出来、効率的だったと思われる。


※ なお、当博物館イチオシは【推測1】の健康寝具である。レプリカを製作し、実際に寝てみたところ、なかなかの効果が期待できることが分かった。

 現代人向きにクッション性を加味した改良品を販売し、既にバカ売れしているので、バーチャル体験後の購入を是非お勧めする。未知の睡眠体験をあなたへ……。


************


「何だと思う?」

「あたしも、古代人の健康寝具じゃないかと思うわ。美容に良さそう」

「そうかぁ? 古代人なんだから、やっぱ農業用じゃねえの?」


 俺たち3人は、レプリカを改良したという健康寝具をバーチャル体験してみた。他にも大勢、似たような考えで体験に来ていて好評らしく、注文が殺到していた。

 俺たちもログアウトする前に注文することにしたが、俺は、アニバ君にも1つプレゼントしてやろうと思って2つ注文した。生活に無頓着なノベル君だから、健康寝具など持っていないに違いないと思ったし、仮にも俺はノベル君よりずっと年上だし、値段も大して高くなかったからね。


「この後、アニバ君をリアルで尋ねてみない? アニバ君てバーチャルはあまり使わないんでしょ?」

「そうだな。本当にハンターをやめるつもりかも聞きたい」

「じゃあ、ログアウトしたら3人でアニバ君のコンパートメントを訪ねてみよう」


 俺たちは3人でアニバ君のコンパートメントを訪ねたが、彼は留守だった。留守番ロボによると、郊外の小屋に籠って7日になるという。その日はもう遅かったので、翌日に行ってみることにした。

 自宅に帰ってみると、注文した健康寝具がもう届いていた。自分用とアニバ君の分と2つ。その夜は早速その健康寝具で眠った。確かに、なかなかのツボ押し効果のようだ。慣れないせいか、熟睡できたかどうか微妙だったが。


 

 翌日、3人で郊外の小屋に行ってみると、アニバ君は一応元気そうだった。一応というのは、ちょっと鬼気迫るような感じだったからだ。

 アニバ君は熱く語った。

「僕は、自分が発掘したアレの正体をどうしても知りたいんだ」


「アニバ君の気持ちは分かるけど……」

「1000年以上も昔のモノなんだから、分からないくてもいいじゃないか。むしろ、分からない方がロマンがあるというか」

「アニバ、悪いことは言わんから、またハンターとして一緒に稼ごうぜ」


 俺は、アニバ君に例のプレゼントを見せた。

「ほら、見てみろよ。今やレプリカが健康寝具としてバカ売れらしいよ。ツボ押し効果で疲れが取れるらしい。ちょっと寝て見ろよ」 


 アニバ君は、ちらりと俺のプレゼントに目をやったが、苦しそうに首を振った。

「どうしても真実が知りたいんだ」


「そんなの無理だってば。記録も何も無いのに」


「方法はある。実は、現存する全ての科学を結集し、独自のアイデアを加えて、ついにタイムマシンを完成させたんだ」


「タイムマシンだって!!!」


 アニバ君はにんまり笑った。

「アレが実際に使われていた時代に行って、アレの用途と名称を知っている古代人を連れてくるさ。楽しみに待っていてくれ」


 アニバ君は、それだけ言い残し、完成したばかりのタイムマシンを作動させて消えてしまった。

 と、思ったら、すぐに戻ってきた。


「アニバ君、マシンにどこか不具合でもあったのか?」


「いや、そうじゃない。苦労したが、アレについて知る古代人を見つけたんで連れてきた」


 アニバ君の横から、ひょっこりと小柄な人間が顔を出した。黄色い肌と黒い髪、顔の目の部分には、何かおかしな二つの輪っかをくっつけている。

 彼は、タイムマシンから出てくると、俺がアニバ君へプレゼントした健康寝具の前に立った。

「コレのことですね。君たちが知りたいというのは」


「知っているのか?」


「私を誰だとお思いですか。それに関してプロとも言える職業ですからね」

 彼は、顔の目の部分に当てた2つの輪っかにはめ込まれた窓をキラリと光らせ、得意そうに言った。

「私は小学校の教員です。それは、日本という国で古くから計算に使われたもので、日常用はもっと小さいのですが、これは授業で黒板に掲げた特大サイズのヤツです」

 それから彼は、それの可動部を複雑に動かして見せた。

「こうやって計算するんです。名前はバンというんですよ」


   (了)




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アニバ君はどうしてもソレが気になる 宵野暁未 Akimi Shouno @natuha

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ