KAC2021 #9 ソロモン王には分かりっこない

くまで企画

KAC2021 #9 ソロモン王には分かりっこない

 人の本当の値打ちは

 宝石でもなければ 黄金でもない

 地位でもなければ 名誉でもない

 ただ信念に尽きる


             ――知恵の王ソロモン


 ・・・


 ゲーム部に1人の美少女が遊びに来ていた。

 後輩のクラスメイトでゲーム部に興味があるらしい。


「――それで、えっと」

姫野ひめのあかりです」

「姫野さんね。姫野さんはどういうゲームが好き?」

「パズル系とか……あと最近コレやってます」


 そう言って姫野さんは部室に貼ってあった巨大ポスターを指さした。


「へえ、コレやってるんだ!」


 思わずテンションが上がる。それは、かつて一世風靡いっせいふうびしたPCのMMORPGをスマホで遊べるように作られたゲームだった。スマホ版から始めたけど面白くて思わずポスターまで部室に貼ってしまった。遊んでいる人がいるなんて嬉しい。


「じゃあさ、せっかくだからちょっとパーティー組んで、どこか行ってみない?」


 いそいそとスマホを出す。聞いてみるとレベルも同じくらいだった。


「姫野さん、職業は?」

「プリーストです」

「おお! 俺、ナイトだから相性いいね」

「そうなんですか」


 あんまりゲーム自体には詳しくなさそうだな。ふんふん、ここは先輩風吹かせちゃうか。断じて、可愛いからってカッコつけようとしてるわけではない。

 貴重な部員候補の勧誘を頑張っているんだ。それだけだ。よこしまな気持ちなどない。


 ――ゲームにログイン。


 ・・・


 待ち合わせ場所に選んだのは、ゲーム内で一番活気のある始まりの町。

 転職やメインクエストなど受けられたり、武器を強化したり、北の教会では結婚式まで挙げることができる。このゲームの重要なマップだ。


「お待たせしました」


 広場に現れたのは、ひらひらのワンピース姿の姫野さんだった。可愛い。

 現実もゲームの中も可愛い……と、いかんいかん。


「ごほん! えっと、じゃあどこ行こうかな」


 回復や支援魔法が掛けやすく、プリーストが得意な光系が活躍できるのは――


「墓場かな?」

「はい。よろしくお願いします」


 さっそくパーティを組んで墓場マップへ向かう。

 おお、今日もアンデッドどもが、うじゃうじゃ湧いてやがるぜ……。


「俺が前に出るから、姫野さんは支援よろしく」

「はい――えっと、ブレッシング」


 姫野さんが不安げに魔法を使う。俺のステータスが一時的に上昇する。


「行くよ!!」


 俺は剣を握りしめ、モンスターに斬りかかった。


「回復、お願い!」

「はい!」


(お、結構いい感じじゃね? ――ん?)


 気が付いて回りを見てみると、倒れている冒険者がいっぱいいた。


(あれ、いつの間にこんな奥まで……?)


「――しまった!」


 すっかり調子に乗っていた。俺の目の前には多くの冒険者を亡き者にしたレアモンスターが立っていた。俺は逃げられない。姫野さんだけでも――


「姫野さん、逃げて!」


 だが、姫野さんは動かない。手が震えている。


「姫野さ……」

「先輩、ごめんなさい」

「大丈夫だよ。まあ倒れたらペナルティは痛いけど、またやり直せば――」

「もう我慢できません」


 姫野さんが装備ウィンドウを開く。支援用の魔力の高い杖から、攻撃力の高いハンマーに持ち変える。


「私、根っからの――なんです」


 彼女はそう言うと、自身に支援魔法を掛けてからハンマーを振りかぶってレアモンスターに叩きつけた。会心の一撃――見たことのない数字が表示される。


「姫野さん……殴りプリーストだったのか!」


 殴りプリースト――支援ではなく、攻撃に特化した聖職者。極めれば、かなりの攻撃を与えられるとは聞いていたけれど、直に見たのは初めてだった。


「かっこいい……!!」

「すみません、ずっと攻撃したくて、我慢できませんでした……」


 姫野さんは顔を赤らめた。ああぁぁあ……超絶可愛いけどかっこいい。


 こうして死地を脱した俺は、姫野さんとともにゲームを楽しんだ。


(どこまでも、ついていきます! 姫野さん!!)


 ・・・


 ゲームを終えたころには、部室には夕日が差し込んでいる。

 なんだか帰るのが惜しくて、俺は姫野さんと雑談を楽しんでいた。


「実は、年の離れた兄がパソコン版オリジナルで遊んでいて、ソロでやるならコレだって教えてくれたんです。それからずっと殴りプリーストばっかりで」

「いやあ、相当やり込まないとあんなに強くなれないよ。の賜物だね」

「……はい」


 姫野さんがはにかむ。可愛い。脳天がガツンと来るくらい可愛い。


「あの、先輩」

「んー?」

「私、どうしてもこのゲームでやりたいことがあって……」

「え? 姫野さんみたいな上級者がやりたいこと?」


 なんだろう。試練の塔を上るとか? モンスター狩り尽くすとか?


「俺で役に立てる?」


 姫野さんは顔を赤くして頷く。


「――結婚、してください」


 このゲームには結婚システムがある。始まりのマップで結婚式も挙げられる。


「その、ウェディングドレスと馬車に憧れてて……」


 いかん。目の前が真っ暗になりそうなくらい可愛い。姫野さんが可愛い。


 可愛いが正義だよ。もいいけど、可愛いが最強だよ。

 まあ、こればっかりは……知恵の王ソロモンにも、分かりっこないか。

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