ばいばい、おっぱいちゃん

青瓢箪

第1話

 けいちゃんは、ママのおっぱいをさわらないと、ねむれません。もう5さいになるのに、おふとんにはいると、となりのママのおっぱいを、ごそごそさわるのです。


『もう、あかちゃんじゃないのに、やめなさい。きもちわるいよ』


 ふたつとしうえの、おねえさんが、そういって、いつもおこります。それでも、けいちゃんはやめません。

 けいちゃんには、おにいさんと、おねえさんがいます。おにいさんも、おねえさんも、5さいのときには、ママのおっぱいは、さわっていませんでした。

 おにいさんも、おねえさんも、あかちゃんのときは、ママのおっぱいじゃなくて、ミルクをいっぱいのんだそうです。でも、けいちゃんだけは、あかちゃんのとき、ママのおっぱいしか、のまなかったそうです。


 だから、けいちゃんはママのおっぱいがだいすきなのです。

 さわっていると、あんしんするのです。


 ママがおしごとで、おうちにかえってこないときは、けいちゃんは、おじいちゃんや、むっつとしうえのおにいちゃんといっしょに、ねたことがあります。そのときは、


『けいすけ、よなかに、オレのおっぱいさわってくる』


 おにいちゃんが、おこりました。

 けいちゃんは、おぼえていないのですが、ママのおっぱいがこいしくて、おじいちゃんやおにいちゃんの、おっぱいをさわったようです。


 ママにもなんかいも、おこられたことがあります。

 もうすこし、ちいさいときは、ひとつのおっぱいをくちにいれてすって、もうひとつのおっぱいをさわって、ひねるのが、すきでした。


『いたい!』



 けいちゃんがおっぱいを、すわないように、ママは、おっぱいに、からいわさびを、ぬったことがあります。けいちゃんが、おっぱいをすうまえに、ママのおっぱいが、ひりひりといたくなって、やめました。




『もう、さわらないで』


 とてもこわいおかおで、ママがいったこともあります。


 けいちゃんはあわてて、いいました。


『やさしく、さわるから。おこらないで』


 それから、けいちゃんはおっぱいをすうのを、やめました。おっぱいもひねらないように、やさしく、さわりました。


『おっぱいに、ちゅうするだけ』


 それでも、さみしくて、がまんできないときは、おっぱいをすわずに、ちゅうしました。ほんとうは、すいたかったけど、おっぱいに、ちゅうするだけで、がまんしました。


『おっぱいちゃん、おやすみ』




 ママがおねぼうしているときは、ちゅうをして、おこしました。


『おっぱいちゃん、おはよう。あさだよ、おきるよ』




 けいちゃんも、わかっているのです。

 もう、おっぱいをさわることは、はずかしいことです。

 ほいくえんの、ねんちょうぐみの、おともだちは、だれもママのおっぱいを、さわっていません。




『ほいくえんの、せんせいに、まだ、けいちゃんは、おっぱいさわってるのよって、おはなし、してもいい?』


 ときどき、ママがいじわるなおかおで、そんなことを、いいます。


『だめ! ぜったいに、いわないで』


 けいちゃんは、あわてて、いいます。


『せんせいには、ないしょに、して』




 たまに、ママがこんなことも、ききます。


『けいちゃんは、いつまで、ママのおっぱいを、さわるの?』


『おじさんになるまで』


 けいちゃんが、こたえると、ママはわらいます。


『だって、けいちゃん、ママのおっぱい、だいすきだもん』


 やわらかくて、あたたかくて、かわいくて。

 ママのおっぱいは、なんて、すてきなんでしょう。


『ママ。ママのおっぱいちゃん、かわいいよ』


 おふろのなかで、けいちゃんがいうと、ママも、いいます。


『ありがとう。けいちゃんのちんこも、かわいいよ』







 あるひ、ママがかなしいおかおをして、けいちゃんに、いいました。


『けいちゃん、ママね、おっぱいをひとつ、とらなければならないの』


 けいちゃんはびっくりして、ききました。


『どうして?』


『おっぱいに、わるいものがあって、それをとらないと、ママは、びょうきになって、げんきがなくなっちゃうの。だから、とらないと、だめなのよ』


 けいちゃんは、かなしくなって、なきべそをかきました。

 これからも、おっぱいちゃんは、ママのおむねに、ずっとあると、おもっていましたのに。


『だから、おっぱいと、ばいばい、しようね』





 そのよる、けいちゃんは、ママのおっぱいを、ちゅうをしながら、ねました。すこし、ひっぱったりもしましたけど、ママは、ぜんぜん、おこりませんでした。


『けいちゃんが、いつもひっぱるから、ママのおっぱいは、ながくのびちゃったのよ』


 いつものように、ママがいいましたけど、ママのこえは、いつもとちがって、やさしいおこえでした。


『けいちゃんは、ママのおっぱいを、だいすきでいてくれたのね』




 ママがねむってから、けいちゃんは、おっぱいちゃんに、ちいさなこえで、いいました。


『おっぱいちゃん、ばいばい』


 こころのなかで、けいちゃんは、おっぱいちゃんにそっと、おわかれをいいました。


『おっぱいちゃん、だいすき。おっぱいちゃん、ありがとう』



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