孤高のハンター

きょんきょん

その男、二つ名持ちにつき

「はぁ……はぁ……ついにやったぞ」


 長い死闘がついに終演を迎えた。

 目の前にはつい先程まで命のやり取りをしていた巨獣が横たわっている。

 体表には至るところに深い裂傷がみてとれ、二つの立派だった角は真ん中から折られていた。

全てこの男が追わした傷だ。

 巨獣の全身全霊の攻撃を掻い潜りながらの命のやり取りは丸一日かかった――それほどの強敵だったのだが、隣には喜びを分かち合う仲間は誰一人いない。


 周囲からは孤高の太刀使いソードマスターと二つ名をつけられ距離を置かれていたのは以前から知っていた。

 だが、やはりどんな難関クエストをクリアしようとも、未知の領域を踏破しようとも、共に同じ時間を共有する相手がいないというのは寂しいものだった。


 今日討伐した巨獣の角を持ち帰りギルドに帰還すると、いつもの受付嬢が手を振って挨拶をしてくる。

 彼女が殺伐とした毎日を送る俺の唯一のオアシスなのは誰も知らない最重要機密だ。まさか二つ名を持つものが一回り以上年下の女性に特別な思いを抱いてるなんて知られたら、とてもじゃないがこのギルドにいられなくなってしまう。


「わー凄いですね!本当にお一人であのモンスターを狩ってくるなんて信じられないです!さすが大蛇オロチさんですね」

「運が良かっただけだよ。それよりも査定を頼む」

「はいはーい!ちょっと待っててくださいね」


 走っていく後ろ姿を眺めながら、本当は君のために頑張ったんだ、と言ったしまいたかった。

 あのときあのモンスターから君の両親を守りきれなかった俺の償いだなんて、まだ幼かった君は覚えてもいないだろうけど、いつか討伐することが俺の生き甲斐となっていた。

 君からみたら独りよがりの敵討ちだと思う。だから、このことは永遠に胸にしまっておくつもりだ。



 さて、目的もなくなった……これからどうしようか。あてどなく一人旅に出掛けるのもありかな――


「あ、あの」

「ん、なんだ?」

 振り返ると、頭一個分、いやそれ以上に小さいまだ駆け出しルーキーのような装備を身に付けている女の子が立っていた。

 その目はやたらと緊張の色を帯びていた。


「さっきの激闘見てたんですけど……あの、よかったらパーティーを組んでもらえませんか?」

「は?俺がか?……お前、ここのギルドのハンターなら知ってるだろ、俺は」

「孤高の太刀使いソードマスターですよね。もちろん存じてます……。でも、わたしずっと大蛇オロチさんに憧れてて!」

「いや、そんな申し出をされてもな……」


「一緒に組んであげればいいじゃないですか」

「なんだって?」

「だって、お父さんとお母さんの敵討ちをしてくれて、これからすることもないのでしょう?それならもう私に縛られないで好きなように生きてください。でないと嫌いになっちゃいますよ?」

「まさか、両親のこと知っていたのか?」

「当たり前じゃないですか、ちゃんと覚えてますよ。私を守ってくれたあなたの背中をちゃんとね」


 そうか、本当に俺の独りよがりのようだったな。


「よし、わかった。パーティーを組んでやる。だが俺と肩を並べられるくらいになって貰わないと困るからな」

「は、はいっ!頑張ります!」


 やれやれ、まさか孤高ソロの看板を下ろす日が来るとは思ってもいなかったな――








「ちょっとーたかしー!いつまで一人でゲームしてるの!いい加減降りてきなさい!」

「うるせーババァ!今行くわ!」


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孤高のハンター きょんきょん @kyosuke11920212

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