Variation

第1話 Ballet Dancer

　踊る、踊る、クルクル踊る。

　私は踊り子（ダンサー）独りで踊る、有象無象の観客に、囲まれ円形の舞台で廻る、廻る、跳ぶ、跳ねる。

　踊る舞台（ステージ）を選ぶよな、無粋な真似はいたしません。

　陽光が降り注ぐ草原でも、月光も差し込まぬ岩場でも……どんな場所でも踊りましょう。

　踊る前にはご挨拶（レベランス）、礼儀も踊りに欠かせません。

　小手先調べに急旋回（ピルエット）、私の技術（スキル）の見せ所。

　クルクルクルッと三回転、両手を広げてご覧あれ。

　続いて魅せるは両脚跳び（シャンジュマン）、私の脚線美に見惚れるの。

　あらあらそこのお客さま、踊り子さんに触れるはご法度よ。

　伸び来る指先を躱しつつ、片脚上げ（アラベスク）で上体反らす。

　アハハハハッ！あなたの遅い手じゃ、私の小走り（パ・ド・ブレ・クーリュ）にも追いつけやしないわ。

　私を捕まえたいのなら、あなたも踊りながら走って（パ・クーリュ）みれば？

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『こちら……ネオ・コーベ市警・14分署……暴徒鎮圧分隊隊長……アラン・クロマツ警部補だ………ガッ………。

　トア・ストリート劇場で発生した……キーロフ・自動人形（オート・マタ）バレエ団の公演中に……バレエ・ダンサーのAIが……暴走……観客100名以上を殺傷し……更に……トア・ストリート劇場から抜け出し……トア・ストリートで……通行人を無差別に殺傷している現場（げんじょう）へ……到着………ガッ………。

　マル被の自動人形（オート・マタ）は……一体のみ………ガッ………。

　繰り返す…… マル被の自動人形（オート・マタ）は……一体のみ………ガッ………。

　只今……20:47（フタマルヨンナナ）……当時刻を以て……マル被の制圧作戦を開始する………ガッ………』

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　踊る、踊る、クルクル踊る。

　私は踊り子（ダンサー）あなたと踊る、相手にするのはあなただけ、他の誰かさんは廻る、廻る、跳ぶ、跳ねる。

　踊る相手（パ・ドゥ・ドゥ）を選ぶよな、無粋な真似はいたしません。

　あなたの眠る褥（しとね）でも、あなたの歩く石畳でも……どんな場所でも踊りましょう。

　踊った後にはご挨拶（レベランス）、礼儀も踊りに欠かせません。

　私の大技八艘跳び（パ・ドゥ・シャ）、私の技術（スキル）の見せ所。

　ピョンピョンピョーンと跳ね廻り、片手を振ってご挨拶。

　続いて魅せるは回転跳び（トゥール・アンレール）、私の胸ばかりみないでね。

　あらあらよそ見はしちゃ駄目よ、踊り子さんをよく見てね。

　あなたの視線を取り戻し、片脚上げ（アティテュード）であなたに触れる。

　アハハハハッ！あなたの遅い眼じゃ、私の小走り（パ・ド・ブレ・クーリュ）にも追いつけやしないわ。

　私を捕まえたいのなら、あなたも走りながら踊って（パ・ドゥ・ドゥ）みれば？

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『メーデー！！メーデー！！メーデー！！

　こちら……ネオ・コーベ市警・14分署……暴徒鎮圧分隊隊長……アラン・クロマツ警部補！！………ガッ………。

　ヤツは……一体何なんだっ！！……歌い踊りながら……分隊の隊員を切り裂いているっ！！……既に半数以上の隊員が……ヤツのエジキになっている！！………ガッ………。

　笑ってやがるっ！！……歌い踊り笑いながら……高密度ケブラー繊維製の防刃ベストごと……隊員を……紙切れのように切り刻んでいやがるっ！！………ガッ………。

　応援だっ！！……応援を寄越してくれっ！！………ガッ………。

　違うっ！！……小隊じゃないっ！！……二個中隊でも無理だっ！！……最低でも……大隊規模の応援を……早くっ！！………ガッ………』

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　踊る、踊る、クルクル踊る。

　私は踊り子（ダンサー）死体と踊る、死屍累々の血飛沫に、塗れて地獄の戦場で廻る、廻る、跳ぶ、跳ねる。

　踊る舞台（ステージ）を選ぶよな、無粋な真似はいたしません。

　銃弾飛び交う市街地（タウン）でも、爆発直後の爆心地（グラウンド・ゼロ）でも……どんな場所でも踊りましょう。

　殺す前後にはご挨拶（レベランス）、礼儀も踊りに欠かせません。

　最後に見せるは静止回転（プロムナード）、私の技術（スキル）の見せ所。

　死出の刃と一緒に廻る、天を仰いでご覧あれ。

　続いて魅せるは突き刺す針よ（パ・ドゥ・ブーレ・ピケ）、私の鋭い刺突で止めを刺すわ。

　あらあらそこのお客さま、踊り子さんからは離れられないわ。

　駆け出すあなたを追い詰めて、片脚上げ（アラベスク）で生命を散らす。

　アハハハハッ！あなたの遅い脚じゃ、私の小走り（パ・ド・ブレ・クーリュ）から逃げ切れやしないわ。

　私を殺したいのなら、あなたも切り裂きながら走って（パ・クーリュ）みれば？

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『あぁっ！！……エリック！！……サカガミ！！……みんな……みんな……死んじまった…………ガッ………。

　応援はまだかっ！！……もう保たないっ！！……ヤツが笑いながら……回転しながら……飛び跳ねながら……市民の方に向かっている………ガッ………。

　あぁ……神よ……ヤツは狂っている………ガッ………。

　また……子供が……首を刎ね飛ばされた………ガッ………。

　あぁぁぁぁぁっ！！！……見つかった……見つかっちまった……ヤツが……俺の……俺の方へ……跳ねるように……ピョンピョンピョンピョン……アハッ……アハハハハハハハッ……イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ……おぉぉぉぉぉお母ちゃぁぁぁぁぁぁぁん………ガッ…………』

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『オドォルゥ………オドォォォルゥゥゥゥゥゥ……クゥルゥクゥゥゥゥゥゥルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…………オォォォドォォォォォォォォルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ………………………。

　ワァァァァタシィィィィィハァァァァァァァァァァ……………ダァンサァァァァァァ…………ヒトォォォォォォォォォォリデェェェェェェェェェ………………………アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ！！！！…………ガガッ……………………………… …………………………』