兎虐待して廃レベリング!

 因幡の白兎と言う話をご存じだろうか?

 昔々あるところに向う岸の浜だか島だかを見て、行きたいな~って思ってた兎が居たらしい。


 そこに通りかかったワニだかサメだかを騙して向うの岸に行こうとした兎は舞い上がってしまい、直前で騙したことを暴露。

 怒ったワニ(サメ)に仕返しとして皮を剥がれる。

 その後さらに、神々に「海に浸かって乾かすと治るよ」と言われ、もっと痛くなるしで散々な目に遭うわけだが――


「なあ、主殿……」


「ファフニールそこだ! たいあたり!」


 俺が指示するとファフニールが全速力で目の前のアンデッドプリーストに突撃し、木っ端みじんにする。


「……なぁ、主殿。我、アンデッドに突撃するのはもう嫌なのだが。汚いし、なんかぶつかる度に腐った肉特有のグチャッて感触がするんだぞ?」


「そうか。……でも俺も嫌なんだ。『草刈り』って普通に接触判定だし、鎌が汚れるかもしれないだろ?」


「わ、我も汚れるから嫌なのだが」


 そう言う割にファフニールの身体は白いままだった。しかもファフニールが少し光っているお陰で暗い神殿跡地の中だと照明代わりになる。


「後で洗ってあげるから」


「そ、そうか? 絶対だぞ?」


 ファフニールは少しソワソワしたように言ってくる。こいつ、犬みたいだな。


 そんなことを言いながら歩いていると、アンデッドや悪魔に溢れかえるこの神殿に場違いな純白の、20cmくらいのウサギが少し遠くで休んでいるのが見えた。

 イナバラビット。……寒くもないこのメロッサ神殿で、雪兎のように白いアイツこそが、今日の俺のお目当ての獲物だった。


 俺は息を殺して忍び寄り(本当は忍者などのスキルがあるのが望ましいがないものは仕方がない)、それから良い感じの距離で地面に鍬を突き立てる。


「『耕耘・レンコン畑』」


 突如として沼のようになった地面に兎は藻掻き始める。

 俺は沼に嵌った兎の耳を掴み上げ。懐から鎌を取り出す。それから筋に沿って皮に斬り込みを入れ、ぺりぺりと剥がし始めた。


「キュ、キューッ!!」


 兎が辛そうに鳴き、暴れ始めるが、この兎は経験値が多いだけで全然強くない雑魚モンスターだ。逃げ足は速く倒すのは難しいものの、今、こうして捕まえてしまえば全くもって無力なただの小動物に過ぎなかった。


「お、おい、主殿。い、いきなりどうしてそんな惨たらしいことを!?」


 生きたまま兎の皮を剥ぎ始めた俺にファフニールは抗議の声を上げる。

 正直俺も、こんなことするのどうかと思うんだけど……。


「このイナバラビットはな。普通に倒せばアンデッドプリーストとかの半分しか経験値が得られないが、生きたまま皮を剥ぎ、皮に塩を塗ってから倒すとその経験値はなんと100倍にも膨れ上がるんだ」


 この神殿跡地に出現する魔物の20倍。それはマウンテンドラゴン5匹分の討伐に匹敵する経験値だ。

 30匹ほど討伐するだけで今までドラゴンを倒して得たのと同じだけの経験値が得られると言うのだからその破格さが解ってもらえるだろうか?


 JROの時から、どうしてこんな惨たらしいことを……とは思うのだが、破格の経験値を前にしたゲーム廃人にとって良心の呵責はあまりにも無力だった。


 皮を剥ぎ「キューッ」と力なく鳴く兎に俺は容赦なく塩を塗りたくる。


 こんな残虐な方法で倒すと経験値が大幅増加するシステムを考え付いたJROの運営は兎に親を殺されているに違いない。

 きっと小学生の時とかにウサギ小屋に指を突っ込んで、あの鋭いげっ歯に齧られたせいで人差し指の先っぽがなくなってしまった口だろう。


「な、なぁ。主殿。そんないたいけな小動物を甚振るなんて……か、可愛そうではないか? もうそろそろトドメを指してやったらどうだ?」


「確かに。それもそうだな『草刈り』」


 ザクッ。と塩を塗りたくられて苦しんでいたイナバラビットに鎌でトドメを刺す。

 塩で良い感じに下味もつけたし、今日のお昼ご飯は兎の焼肉だな。何気に兎肉は食べたことないけど、江戸時代では中々に人気があったと聞く。


 俺は皮と肉を別々の袋に仕舞いながら、更に歩みを進めた。




                  ◇



 そんなこんなで今日は半日ずっとメロッサ神殿に潜り続けて、イナバラビットを7匹ほど討伐した。

 あんなにイナバラビットの討伐方法に文句をつけていたファフニールだったが、イナバラビットの塩焼きは美味い美味いと嬉しそうに食べていた。

 と言うか結局ファフニールが殆ど食べていた。


 まあ、それは別に構わないのだが。イナバラビットをちゃんと経験値が増える方法で7匹も討伐したし、俺のレベルは90を超えている事だろう。

 ……となると、あの魔法が使えるようになっているはずだ。


「ファフニール。そこでじっとしてろよ? ……『雨乞い』!」


 俺が魔法を発動させると、既に元の20mくらいのサイズに戻ったファフニールの身体の上に黙々と雲が出来上がる。

 そしてザーッと雨が降り始めた。


「おおっ。これは中々に悪くないな! 主殿は雨も降らせれるようになったのか?」


「今日、結構レベルが上がったからな」


「そうか」


 ファフニールは気持ちよさそうに雨を浴び、雨が止むとブワッサッと勢いよく上空に飛んでそのまま身体をブルブルブルっと降る。

 ファフニールの体毛が吸った水分が雨のように降り落ちてくる。


「……もうちょっと離れた所でして欲しかったかな」


「ああ、済まぬな」


 そんなやり取りをしてから俺たちはハーメニア王都まで40分で戻った。




                 ◇



 そんなこんなで俺たちは、授業がある日は終わってから。授業がない日は朝からメロッサ神殿跡地に赴いては兎を血眼になって探し、見つけ次第、皮を剥いで塩を塗ってから倒すを言う作業を繰り返していた。


 イナバラビットの塩焼きはファフニールの舌にものすごくあったらしく、最初は俺の討伐を残虐だの酷いだの言っていた彼龍も、最近では自ら率先して兎を血眼になって探しては捕まえて俺の元に持ってくるようになった。

 美味い肉を前にした肉食龍にとって良心の呵責は無意味だったと言うわけか。


 そのおかげもあって初日は7匹しか討伐出来なかったが、今だと半日でも7匹。丸一日だと20匹近く討伐できるほどになった。


 そんなこんなでメロッサ神殿跡地を狩場にし始めてから凡そ2週間の時が流れる。


 俺のレベルは100をとうに超えて140に到達しようとしていた。

 そろそろレベルも上がりにくくなってきたけど、地上世界でここ以上に効率の良い狩場なんて知らないし、けどこのまま惰性で続けるのもな~とか思い始めていた頃。


 その存在は突如として俺たちの目の前に現れた。


「ウサギを虐めるのはおめえらかぁ~?」


 猫背にならないと神殿に収まりきらないほどの巨大な身体。その手に持った柱のように太い黒い金棒、鋭い牙と、額に生えた一本の角、黒い肌。


 ……大黒鬼。


 討伐推奨レベル150。

 メロッサ神殿跡地にて、イナバラビットだけを短期間で集中的に狩り続けていると低確率で現れる強力なエネミー。


 それはドラゴンの生息しないこのメロッサ神殿跡地にて、他のマップにおけるドラゴンのような――否、それよりも理不尽な存在。

 忍者などの『隠密』スキルを利用して、悪魔やアンデッドをスルーすれば低レベルでもウサギ狩りが出来るが故に、その圧倒的なレベル差で、パワーで数多のプレイヤーを屠ってきた敵。


 それが、俺たちの前に現れた。

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