ラグナの覚悟と誠意
レイナと鍛冶屋に行っている間に、昼休みの時間になっていた。
Sクラスの教室にある自分の席に座り、いつも泊っている宿で買った弁当の包みを広げようとして、手を止める。
Sクラスの人たちはラグナを嘲るように見ていた。
「惨めだよね~。学園長直々に将来性ないって」
「私だったら耐えられない。って言うかこの前エレンさんを倒したのも獣人のごり押しパワーで、職業関係ないし」
「それな。今は職業貰ったばかりだからそんなに差がないけど、二年後とかには落ち零れになって辞めちゃいそう」
「確かに。なんか彼氏? にも見捨てられてたしねー」
Sクラスの奴らの陰口に怒ったのか、ガタッと音を立てて席を立つ。その大きな音にSクラスの人たちはビクッとする。
ラグナは怒ったようにつかつかと教室を出ていこうとして、ラグナに声を掛けるタイミングを見計らっていた俺とバッタリぶつかった。
ぼふっ、とそのままラグナが俺の胸の中に飛び込んで来るのでそっと抱きしめた。
陰口を言われ耐えきれず教室を出るラグナは、前世の俺を見ているようで胸が痛かった。
「……ラグナ。その、大丈夫?」
だが、そんな時に掛ける言葉なんて持ち合わせていない。持ち合わせていれば、きっと俺の前世は同じくぼっちの女の子とカップルとかになれていただろうし。
ラグナはギュッと俺の制服を握って、うるんだ瞳で俺を見上げた。
「ハイト。……私、強くなりたい。2年後も……10年後も、ハイトの隣に立っていられるぐらい。私、もっと強くなりたい」
ラグナは震える声で、吐き出すようにそう言った。
「そうか」
俺は“だったら強くなる方法があるよ”と言おうと思って、躊躇う。
ラグナの強化は、極論雷龍に任せて突っ立っていればいいレイナと違って、物凄い労力が必要になるし、極限まで下げる努力はしても死ぬリスクがある。
JROだったら死んでも精々お金と経験値を多少失うくらいのデスペナで済んだけど、この世界での死んでしまえば本当に帰らぬ人となってしまう。
だからと言って俺は、ラグナやレイナを安全な場所に囲い込んで何もさせないなんてことはしない。俺がレイナやラグナが好きな理由の一つには大好きだったJROのキャラクターで強いから……強くなろうとしているからと言うのもあるのだ。
だから俺はラグナにその覚悟を問う事にした。ラグナは強くなるために、命を懸けるだけの覚悟があるのか?
その覚悟が見えなければ俺はラグナに強化方法を教えず、平穏に暮らしていく提案をするつもりである。
「その為に、ラグナはどうするつもりだ?」
俺は努めて真剣な表情で問う。
するとラグナは手を握り真剣な眼差しで答えた。
「……正直、どうすれば『職業』の弱さをひっくり返して強くなれるか解らない。だけど『農民』で、こんなに強くなったハイトなら……これからもきっともっともっと強くなっていくハイトなら、きっと私が強くなるために必要な事を知っている。
だから教えてください。その為なら私、なんでもやります!!」
ラグナは珍しく敬語になり、スカートの中に手を入れる。
「いや、いい! ちょっとま……」
ラグナは――かつてオークの討伐数を競った時のように、俺に脱いだショーツをあやとりのように広げて見せてくる。
その下着のしわがラグナのアレの形のような気がして来て、誰かに見られたらマズいと思って慌てて周りを見たけど幸いここは教室から陰になる位置で、廊下にも誰にもいない。
だけど、いきなりこういう事をしてこられると心臓に悪い。
「……これは私なりの、精一杯の気持ち。前にも言ったでしょ? 獣族の女にとって下着のクロッチを見られるのは何にも耐えがたい屈辱。転じてこれを見せると言う事は獣族なりに最大限の誠意を示す行為ともなるわ」
「そ、そうか……」
覚悟を見せて欲しいと思ったけど、正直下着のクロッチ云々のことは今ばっかりは頭の中から抜け落ちていた。
俺的には「私強くなりたい! どんなに辛くても頑張る!」くらいの覚悟で良いと思ってたんだけど。
でも、覚悟は伝わった。
「これは私なりの誠意。気持ち。だから受け取って欲しい」
ラグナがとても真剣な表情で、俺に脱いだ下着を手渡してくる。下着は脱ぎたてなのでホカホカと温かかった。
ラグナの顔は羞恥の為か凄く赤くなっているけど、それでもその表情は至って真剣だった。
「お、俺はこれをどんな顔をして受け取れば良いんだ?」
「……ぬ、脱ぎたての下着を渡すのは、獣族にとって――全てを預けるって意味よ。私はハイトにこの命も預けるつもりよ」
「な、なるほど。か、覚悟は伝わったよ」
俺はラグナの下着を懐に入れつつ、真剣な表情を作る。
正直視線はひらひらしているラグナのスカートの裾にばかり行くし、捲りたいし、恥も外聞も尊厳も捨ててそのスカートの中を覗いてやりたい衝動に駆られまくっているけど、でもこれはラグナにとって大きな意味を持つ儀式なのだ。
ラグナなりの誠意であり、覚悟なのだ。
それに対し、下心を持って応えるのは人として最低の行為だ。……って言ってもちょっとかなり難しいけどね!
正直、今すぐラグナの目の前で貰った下着をくんかくんかして、ラグナの顔を真っ赤に染めた後、ダッシュで家に帰って自家発電したいけど、だけど、人は理性ある生き物だ。本能に従ってそんな軽率な行動をしてはならない。
職業が『農民』だっただけで実家を勘当され、婚約も解消されたように。
人生とはたった一回の出来事で今までの信用も関係もキャリアも失うものなのだ。
俺は必死にラグナの下半身への興味と懐に入っているショーツの事を忘れて、俺は無理やり脳を回し、ラグナを育成するプランを思い出していた。
「……ラグナ。とりあえずお前は赤魔法使いの上限である60までレベルを上げろ。それから『キャリアアップ神殿』に行くぞ」
「きゃ、キャリアアップ神殿?」
「ああ」
本来JROと言うゲームは数多の職業からランダムで職を与えられ、その職のレベルを上限まで上げてから、更なる上級職へとキャリアアップしていくゲームなのだ。
それを俺たちプレイヤーは序盤から最上級職が出るまでリセマラし、課金コンテンツで最上級職を梯子するように転職を繰り返して、欲しいスキルを全部手に入れてから、レベル上限がない最強職『農民』に転職すると言うのが定石にしているだけで、世界設定的にはそもそもそう言うゲームではないのである。
JROでは課金すれば面倒なレベリングも短縮できるし、結構死にコンテンツにはなってたけど……。
それにレベル上限のない『農民』の俺や、最上級職の『龍騎姫』であるレイナには全くもって関係ない制度でもあるし。
しかし、ほぼ初級職のラグナが強くなるには必須の制度でもあった。
「キャリアアップ神殿は聖教国にあるはずだ。結構遠いがファフニールに乗せて貰えば時間もそう掛からないだろう」
「なるほど!」
「それで、レベル60に上げる方法だが……ラグナの性能を考えると、冒険者ギルドに行ってB級の依頼を熟していくのが一番効率が良いと思う」
俺の『種付け』のような搦め手や、レイナの雷龍のようなぶっ壊れ破壊力とかもないし、この辺に取り立てて経験値の良い魔物がいるわけでもないし、普通に無難に王道に、ちょっと難易度高めのクエストを受けるのが最適解なのだ。
ラグナは俺があまりに普通の手段を提案したので少し肩透かしを食らったような表情をしてから。
「解った。頑張ってみるわ!」
「目安としては一日3~5個くらいを毎日熟してくれ。そうすれば2週間で60まで上がるだろう」
「え……」
「出来ないの?」
「い、いや、勿論できるわ!!」
ラグナは少し絶句しつつもそう言って冒険者ギルドの方へ走り出した。是非とも頑張って欲しい。
ラグナを見送った俺は自分の育成プランを――ラグナのショーツを懐に入れたまま遂行できるわけがないので、俺は大急ぎで宿屋に帰った。
明日から頑張るに決まってるだろ!!!
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