更なる強化計画
JROでも屈指の強キャラであるリズ先生でも壊せないほど強固で頑丈な『封縛の茨』を一体誰が加工するのかと疑問に思った人もいるだろう。
答えは簡単だ。『鍛冶師』の職を持っていれば普通に出来る、だ。
それは先ほど俺が『収穫』によって封縛の茨を手ごろなサイズにカットしていたように、JROだと、特定のスキルを使った場合にのみ、その頑丈さなどを考慮せず、解体できる場合がある。
と言ってもそれは素材の段階に限る話で、装備品を壊すとなると、基本的には装備品の耐久力判定を突破しないと傷一つ付けられなくなる。
つまり封縛の茨が装備になれば、少なくとも理不尽なスキルによって成す術もなく装備品が壊されると言うことはほぼなくなる。万一、問答無用で装備をぶっ壊してくる敵が居たとしても、それはJROをやり込んだ俺が全て把握している。
そんなわけで俺たちは、ハーメニア1の鍛冶屋に来ていた。
因みに俺はここに来るのが初めてではない。ドラゴンの素材や、ファフニールの素材を今装備している鎌や鍬や服にして貰うときに訪れたのだ。
鍛冶屋に入ると受付のお姉さんが愛想よく頭を下げる。
「いらっしゃいませ!」
鍛冶屋と言えば偏屈で頑固だけど、滅法腕が良いドワーフが小汚い工房に一人で店番をやって「俺が気に入った奴の武器しか作らねえ」とか言いそうなイメージがあるけど、実際はこうして小奇麗だし、綺麗な受付のお姉さんも雇っている。
王都一の鍛冶屋だし儲かってるのだ。なのに良い工房に建て替えない理由はない。
因みにここの鍛冶師自身はイメージ通りちょっと変わった人で、いくら金を積まれても気に入らない仕事はしないらしい。
と言っても龍の素材を見せれば大体やってくれるような人ではあるらしい。
接客は全て受付の人が担当するので会ったことはない。
「 ハイトさんですね。それと、そちらの方は……」
「レイナです」
「そうですか。レイナ様ですね! ……レイナ!? ……い、いやでも、まさか。でもこんな綺麗な人一般人なわけないし。その……レイナ様って、王女様ですか?」
「いえ。今はただのレイナです」
「いやでも……そう言えばハイトさんって最近レイナ様と婚約者に戻ったって号外でやってたし……」
俺と恋人繋ぎをしているレイナを見ておろおろする店員。
そう言えば、俺とレイナってあくまで婚約者ではなく婚約者候補でしかないから、公の場でいちゃつくのはあんまりよくないのか?
再来週から始まる夏休みになったら俺以外にもいるらしいレイナの婚約者候補を全員倒すという話になっている。
本当なら全員倒して国王に正式に婚約者として認めて貰った後にいちゃつくのが誠実なんだろうけど、こんなにも可愛いレイナを前にして、手を出すのをずっと我慢しているのだ。手を繋いだりするくらいは許して欲しい。
それに俺のレベルは83。
ハーメニア王国内でリズ先生レベルの強敵と言えば、俺の知る限り7年後のレイナと、現状生まれているのかどうかさえも不明な俺の妹(?)のアイリーン・デュークハルトくらい。
つまりいないと言う事だ。
とは言えリズ先生に良いようにやられている現状は不服だし、万が一と言う事もあるのでやはりこれから大急ぎで自分自身を強化していきたい。
「……と言うわけでこれを防具に加工していただけませんか? 三つ」
「了解しました。と言うか……これ、何ですか? 茨?」
「封縛の茨。多分、今、この地上でそれを壊せる人はいないんじゃないかぁってくらい堅い物質だよ」
「……じょ、冗談ですよね? でも、そんな素材ならきっと匠も仕事引き受けてくれますよ。他でもないハイトさんからの依頼ですし」
「じゃあよろしくお願いします。報酬はいつも通り言い値で支払いますので」
「あ、ありがとうございました!!」
封縛の茨を渡し、依頼を済ませた俺はレイナと店を出る。
「……良かったんですか? 私やラグナにまで」
「良いに決まってるよ。レイナもラグナも、俺にとって大切な人だからね」
「ありがとうございます」
レイナはポッと顔を赤らめて、嬉しそうにする。
レイナが愛おしくて、思わず抱きしめてしまう。
「は、ハイト!? ここは往来ですよ!?」
「ご、ごめん」
「い、いえ。でも、こう言うのは二人っきりの時にじっくりと……」
「う、うん!」
ふ、二人っきりの時にじっくりと。
もじもじと恥ずかしそうにそう言うレイナの言葉に色々妄想してしまって、なんかすっごく恥ずかしくなる。
いや、でも、好き合う二人が二人っきりでじっくりすることなんて一つしか……
いや、何でもない。
……正直、今からでもレイナといちゃいちゃちゅっちゅしたい気持ちでいっぱいだけど、計画性なく無責任にそう言う行為ばっかりしてるカップルは幸福指数が下がるって記事をネットで読んだことがあるし、色々しがらみも多いし。
ラグナやニーナと次々に他の女性に目移りしているけど、それでも俺は、レイナに対して誠実でありたいと思っていた。
俺は今日の本当の目的を思い出す。
「……それでその、レイナ。話変わるけど、今のレベルっていくつくらい?」
「……36です」
「なるほど」
それは何と言うか想像よりずっと低かった。
ラグナが真獣化を使えてる時点で37以上だからそれより低い。……逆にそれで、生命樹の実でドーピングしてHP増やしまくった俺にかすり傷でもつけられる火力があるのは流石の職業補正と言ったところだけど。
「となると、レイナはレベル上げをするだけで、多分滅茶苦茶強くなると思うよ」
「そ、そうですか?」
「うん。……ハーメニア王国にも確かダンジョンとかあったよね? そこに雷龍連れて行って雷で一掃してるだけで相当レベル上がるんじゃないかな?」
「え? ちょ、ちょっと待ってください。雷龍が倒しても私のレベルって上がるんですか?」
「え、上がるはずだけど……」
少なくともJROではそうだった。従えてる魔物や人形が倒した経験値は全部主人に流れて、主人が強くなるたびに魔物や人形も強くなるシステムだったはずだ。
と言うかそうでもしないと竜騎姫みたいに人もかなり強いなら兎も角、普通に人が弱い従魔師とかがあり得ないくらい不遇になってしまう。
だがJROにおいて従魔師は可もなく不可もなく程度の評価である。
しかしレイナはその使用を知らなかったのか目を見開いて驚いていた。
「そ、そうなんですね! ……で、でも、どうしてハイトはそんなことを知っているのですか?」
「ど、読書の成果かな!」
「なるほど。……ハイトは勉強熱心ですからね。私もその姿勢を見習わなければいけませんね」
本当は前世のゲームの知識だけど、そんなこと馬鹿正直に言ってもややこしくなるだけだ。少なくとも逆の立場なら俺は絶対に信じないし、頭大丈夫かな? と思う。
「それで、ハイトも私と一緒にダンジョンですか?」
「いや。多分ダンジョンの雑魚敵を一掃するだけなら雷龍でも過剰火力気味だし、俺が一緒に行くとレイナに入る経験値が半分になって効率が悪いから、俺は別の所でレベリングするよ」
「そ、そうですか、残念です」
それとラグナにも最適な狩場を教えに行くつもりだ。
……転職のないこの世界じゃ、ラグナの最強育成は不可能だけど、それでも今よりずっと強くすることは容易だ。
そして俺は――
俺は自分自身のレベルを――とりあえず夏休みまでに100は超えさせるプランを頭の中で練りながら、とりあえずラグナの元へ向かう事にした。
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