紫色の種

 某ドラゴンでクエストなRPGで特に守備力や特殊効果が優れているわけでもないのに結構なお値段のする危ない水着を買ったり、画面に顔を近づけて水着のドットになってないか目を凝らした経験は男のゲーマーなら誰しもあるはずだ。


 神ゲーとは得てしてお色気要素と言うものは付き物で、売れ行き的に神ゲーかどうかは兎も角、俺が人生を捧げたJROもまたお色気要素と言うのは幾つも存在した。

 この紫色の種――『封縛の茨』はその一つで、JROプレイヤーの中ではこの茨を使ったエロスクショを某呟くSNSに投稿し続ける猛者も居たほどである――


「万物を糧にし、根付いて芽生えよ――『種付け』ッ!」


 リズ先生の肉付きの良い腕に引っ付けた紫色の種――封縛の茨に、俺は最大値である65535の魔力の7割ほどを注ぎ込み『種付け』する。

 魔法によって種付けされた封縛の茨の種は、魔法によって瞬く間に紫色の茨となり、リズ先生の身体を這うように生長していく。


「っ! なるほどぉ。……本来作物の種を畑に根付かせやすくするぅ、おまじない程度の効果しかない『種付け』を人に植物を植え付ける為に使うなんてぇ。面白い発想をしますねぇ」


 紫色の茨が生長し、リズ先生の身体を束縛していく。リズ先生が大の字になる形で四肢を拘束し、そのたわわな胸や、ぽっちゃりまではいかなくとも引き締まっているわけではないお腹の肉のむっちり感を強調するように身体を締め付ける。それはまるで亀甲縛りや蟹縛りのような、エッチな緊縛のように淫靡だった。


 這い伝う茨の棘によってリズ先生の黒いローブは所々破けたり開けたりしていて、そのせいで今日のパンツにうさぎさんの絵が描かれている様子も見えてしまう。

 レイナは俺に冷ややかな視線を向け、リズ先生は羞恥なのか怒りなのか、そのあられもない格好に顔を真っ赤にしていた。


「……確かに『種付け』の新しい用途を見れたのは面白かったですけどぉ、これはどういうつもりですかぁ、セクハラ小僧ぉ?」


 リズ先生はとてもお怒りの様子だった。

 それもそうだろう。昨日の模擬戦で服をはぎ取り、今日もスキルを見せるなんて言って置いて、とてもエッチに縛り上げているのだ。

 もし今のリズ先生が解放されれば俺は瞬く間にぶっ殺されるだろう。


 だが、封縛の茨は堅牢で強固だ。

 適当に地面に植えても鋼より遥かに堅い強度を誇るそれは、生物に植え付けた時にその真価を発揮する。


 なんとJROのシステム上、相手がどんなに強かろうが、一度身体に植えられてしまえば『収穫』によって茨を剥がさない限り絶対に拘束から逃れることが出来ない。

 そしてそれは現実で置き換えると、宿主では絶対に壊せないほどの強度を持つと言うこととも同義になる。


 つまり今の封縛の茨は、俺よりも遥かに強いリズ先生にも壊せないほど頑丈な素材であることを意味しているのだ。


 そう。だから俺は決して、セクハラの為にこんなことをしたわけではない。

 寧ろ俺にはレイナと言う婚約者がいるのだ。婚約者がいる前で他の女性に堂々とセクハラを働くなんてことするわけないだろう!


 昨日、俺だけでなくレイナとラグナをコテンパンにした事とか、今日、ラグナにあんな哀しそうな顔をさせた事とか、根に持ってないと言えば嘘になるけど。

 今、この世界にスクリーンショットがないことが途轍もなく嘆かわしい気持ちになっているけど。


 それでも俺は、セクハラの為だけにこんなことをする奴じゃないのだ!!


「――と言うわけで、とりあえず俺のスキルを一通り見せていくので見ててくださいね」


「なにがと言うわけで何ですかぁ? そんなの一旦良いのでぇ、とりあえずこの茨をどうにかしてほしいんですけどぉ?」


「……だって、今拘束を解いたら殺すでしょ?」


「当たり前じゃないですかぁ。って言うか、昨日も今日もぼくにこれだけのことをしておいて、どうして殺されないと思うんですかぁ? セクハラ小僧ぉ」


「私もハイトの事は信じてますけど、それでも説明くらいはして欲しいです」


 明らかに怒りながらも茨をどうにも出来なさそうなリズ先生と、冷ややかな目を向け続けるレイナ。


 とは言え二人に前世の事やJROの事を話しても「この世界が実はゲームで、俺には前世があって!」なんて荒唐無稽な話、信じて貰えないだろうし、事態がややこしくなりそうだし。


「とりあえず、見て貰えば解ると思うので。『草刈り』ッ!」


 俺はそのまま鎌を振りぬき、茨を切りつける。しかしガキンッと金属がぶつかるような音が響くだけで茨には傷一つ付かない。


「堅ッ! な、なんですかその茨は!」

「お陰でぼくも抜け出せなくて、困ってるんですよぉ。いい加減この恰好も恥ずかしいですしぃ、今なら半殺しで許すのでぇ、早く解いてほしいんですけどぉ」


「草刈りは、基本的に纏めて草を刈り取る『農民』の技ですが、ちょっと工夫すれば

『剣士』のスラッシュなどのように縦、横の攻撃として使用できます」


 技を説明しても、リズ先生は目を細めてかなり不機嫌そうにしている。

 う~ん。技を見せたらリズ先生、職業とかスキルの研究してるみたいだし、機嫌治るかと思ったけど、これ、このままやってももっと怒らせるだけになりそうだな。


 流石に本気で怒らせるとガチで殺されそうだし、やっぱり一旦茨を除去することにする。


「その、一応言い訳させてもらうとですね。この『封縛の茨』――宿主の強さに応じて硬くなるので、この機会にリズ先生でも壊せない強力な素材を手に入れておきたかったのでして、決して、悪意があったと言うわけではないと言うか。

 その、封縛の茨は俺が使う分以外は差し上げるつもりですし」


「……当たり前なのですよぉ。それと能書きは良いので、とっとと解いてほしいのですよぉ、セクハラ小僧ぉ」


「……いや、申し訳ないとは思ってるんですよ? その、すぐに解除しますし。出来れば優しくしていただきたいと思いまして……『収穫』」


 俺が『種付け』を解除する魔法を唱えるとリズ先生を縛っていた紫色の茨が緩み、リズ先生が解放される。

 封縛の茨には棘があるはずなのにローブに所々穴が開いてちょっとエッチな感じになっているだけで、血が流れている様子はなく肌に傷はついてない様子だった。


 きっと俺に『種付け』される前に何らかの防御魔法は使ったんだろうけど、それにしたってリズ先生の耐久力は凄まじいと思った。


 火力が高いのは技量で躱せばどうにかなるけど、耐久が突破できないのはレベルを上げてステータスを伸ばす以外に対処法がない。

 この耐久力を見せられると、今の俺が正攻法でリズ先生と戦っても絶対に勝てないと言う事を思い知らされるようだった。


「ふふっ。ふふふっ。二日続けて。ぼくにこんな屈辱を味わわせてくれたのは君が初めてですよぉ。ハイトさぁん」


 そんな――今の俺よりも遥かに強いリズ先生が、明らかに怒っているのに笑いながら俺の方に近づいてくる。その圧力、殺気は、レイナの前じゃなければ腰を抜かして泣き叫びたくなるほど凄まじかった。


「とは言え、ハイトさんのスキル。もっといっぱいあるんですよねぇ? 気絶させたら今日見れませんしぃ、気絶しない程度で許してあげますよぉ」


 そのまま近づいてきたリズ先生は思いっきり俺の右の頬を平手打ちをしてくる。

 そして更に左、右、左、右、と往復ビンタされること20回。俺の頬がおかめのようにパンパンに張れるまで打たれた辺りで、今回の事は許して貰えた。


「さて。ではぁ、他のスキルも見せてくださいねぇ」


「ふぁ、ふぁい……」


 痛いから帰りたいとか言ったら、きっと殺されるだろう。そんなリズ先生からはそんな圧をひしひしと感じる。


 とりあえず俺は痛む頬を休める為の時間稼ぎも兼ねて、ファフニールを呼ぶことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る