盗賊退治
「わわわっ、す、凄い! ど、ドラゴンだぁ!」
緑色の鱗を這うようにバチバチと鳴る静電気。
レイナが呼び出した雷龍の姿に盗賊討伐の依頼を出しに来た少年は、腰を抜かさんばかりに驚いていた。
「我はただのドラゴンに非ず。この世界最強の雷龍である」
「す、すごぉい!!」
少年に率直に褒められた雷龍は満更でもなさそうな様子だった。
――盗賊討伐依頼を受けた俺たちは、道案内も兼ねて少年を同行させることにした。依頼達成後に村に送るのも二度手間だしね。
そんなこんなで雷龍の背中に乗せて貰って移動すること約1分。
俺が全速力で走っても三時間以上かかる場所にあるハーメニア山脈麓の村にあっと言う間に到着してしまった。
「ヒャッハー! 女は犯せ! 男は殺せェ!!」
上空から鶏冠のようなモヒカンの、半裸でモーニングスターを振り回す男と、鍋を被り竹やりのようなもので応戦する村人のような姿が見える。
木で出来た掘っ立て小屋のようなボロそうな家は何軒も木屑に変えられていて、今まさに村の人たちはモヒカンの盗賊たちから逃げ回ったり、懸命に応戦しようとしたりしている。
非常に凄惨な光景なのに、大の大人がモヒカンの半裸で鉄球を振り回しながら「ヒャッハー」と叫んでいる姿が滑稽で、思わず吹き出しそうになってしまう。
しかし周りを見ると少年は今にも泣きそうな表情で俺の服の袖を掴み、レイナやラグナも怒りと衝撃の混ざったような、真剣な表情でその惨状を見下ろしていた。
「け、ケインさんが危ない! お、お父さんとお母さんも大丈夫なのかな!? 冒険者さんたち、早く助けてよ!」
「ええ、勿論です。雷龍」
「わ、私! 先に降りて戦うわ!!」
少年の言葉にレイナが雷龍に指示を出し、ラグナは真獣化して結構な高さの所から飛び降りて、着地様に、モヒカンを一人爪で切り裂いて三枚卸しにしていた。
「雷龍……の攻撃は村人を巻き込んでしまうかもしれませんね。上空から、村人を巻き込まない範囲で援護をお願いします」
「うむ、了解した」
レイナがやや高い位置から飛び降りてモヒカンの首を刎ねる。
……学園長の時も思ったけど、レイナとラグナって容赦ないな。いや、この世界の人たちが大体そうなのだろうか?
とは言え死体に変わって行っているのがファニーでアグリーな見た目のモヒカンたちだからか、ショックとかそう言うのは感じなかった。
別に前世でもグロは苦手な方ではなかったし。
「して、お主は行かぬのか?」
「う~ん。今更地上に降りても俺の出番はなさそうだし」
何より、俺の服の裾をギュッと強く握って、凄く不安そうにしているこの少年を、こんな強面の雷龍の背中の上に一人、置き去りにするのは可哀そうだ。
とは言え、何もしないってのもアレだし……
「『稲妻』『稲妻』『稲妻』」
俺は上空から、まだレイナやラグナに見るも無残な肉の塊に変えられてないモヒカンたちに『稲妻』を放っていく。
それなりに魔力を込めて撃った『稲妻』はスタンガンのようなもので、気絶させたり、動きを阻害するくらいのことは出来る。
「ひぃっ、や、やめてくれ! し、死に、死にたくなぶぎゃぁっ!?」
「た、助けてくれ! 改心するかぶぎゃらぁっ!?」
「こうなったらやけくそだぜ、ぴぎゃーっ!?」
ラグナとレイナは俺が動きを止めた盗賊も、そうでない盗賊も平等に殺していく。
「盗賊は殺さない限り、被害者を生み出し続けますから……」
「アンタたちに殺された人たちが命乞いした時、アンタは助けたの?」
レイナは冷酷に淡々と。ラグナは煮えたぎるような怒りを持って殺していた。
……ハーメニア王国における盗賊の処遇が基本的に死刑だ。
泥棒と鉢合わせる機会なんて無いに等しい日本で生まれ育ち、この世界でも約四か月前に実家を勘当されるまで公爵家の長男としてぬくぬくと育てられた俺には実感が湧かないが、この世界ではそれが当たり前なのだろう。
こんな世界だからこそ、世界最強を目指す俺は、きっと必ず人を殺さなければならない時がきっとやってくる。
今日もレイナとラグナが全部やってくれたから、俺にその機会はなかったけど、いざと言うとき俺はちゃんと殺せるのだろうか?
いや、殺せるように覚悟を決めなければならない。
いざと言うときに躊躇えば、俺だけでなくレイナやラグナまでもが危険な目に遭ってしまうかもしれないのだから。
「って言うか、アジトを聞き出して残党を倒さないといけないから一人は生かしておいてよー!」
「解りました!」
「解ったわ!」
そんなこんなで俺たちがこの村に到着してから3分も経たずに、盗賊たちが殲滅される。最後の一人だけを残して。……鉄の鎖でぐるぐる巻きにされて青褪める半裸のモヒカンマッチョなんて光景は、中々にシュールだった。
助けられた村人たちがぞろぞろと俺たちの所に集まってくる。
「ぼ、冒険者様方。本当にありがとうございました」
「お陰で助かりました。……死ぬかと思いました」
助けられた村人たちは、この少年が王都のギルドまで来て俺たちが依頼を受けてからここに来るまでの数時間盗賊相手に応戦してたからか、衣服はボロボロで誰も彼もが疲労困憊の様子だった。
そして何より、村人の数人かは浮かない顔をしている。
「その……。実は家の子が盗賊に攫われてしまっていて」
「お、俺も、妻が攫われてしまって……」
どうやら、俺たちが到着する前の段階で既に何人か村から連れ去られてしまっているらしかった。まぁ、アジトにため込んでるお宝を物色しなきゃだし、ついでに攫われた人たちを助けるくらい大した手間でもないだろう。
「勿論。元よりそのつもりです」
俺の言葉に顔を明るくする村人たち。そして傍らで剣の切っ先をモヒカンにチクチク刺しながら拷問するレイナ。
「……ほら、とっととアジトの場所を吐いてください」
「お、教えたら俺の命だけは助けてくれるか?」
「まぁ、考えてあげます」
「だ、だったらアジトは山脈の東側にある廃鉱山だ!」
「なるほど。だそうです。行きましょう、ハイト」
「あ、ああ、うん」
レイナの意外に残酷な一面にゾクゾクとした恐怖のようなものを感じつつ、雷龍に乗り、モヒカンに案内させながらアジトに向かう。
アジトの入り口が見えると、レイナは結構な高さがある中で入り口の前まで案内させていたモヒカンを放り投げる。簀巻きのように縛られていたモヒカンは着地も出来ずに逆汚ねえ花火になった。
それからアジトの中にいた村人たちを助け、盗賊たちは全部殺した。主にレイナとラグナが。俺は割と終始眺めているだけだった。
それと盗賊は特にレアアイテムとかはため込んでなかった。
多少の金銭はあったけど、多分、あの麓の村から奪った物だし、各種ドラゴンを倒した素材を売って50億ジョル以上の財産がある俺には無用の長物だったので、受け取りを辞退した。
レイナとラグナも俺と同じく受け取らないことにした。
そんなこんなで村に戻る。
「冒険者様方、本当に、ありがとうございました。……見ての通り村は荒らされてまして、まともなお礼は出来ませんが、それでもこの村の代表として言わせてください。――心より、感謝しております。
この村が復興した時には是非とも遊びに来てください。小さな村ではございますが、その時は精一杯おもてなしさせていただくつもりなので」
村に戻ると、老人が深々と頭を下げる。
それから依頼をした少年が俺の目の前に来た。
「お兄さん、お姉さん。本当にありがとうございました! これ、僕の宝物だけど、お礼に受け取って!」
そう言って少年に渡されたのは紫色の宝石のような、綺麗な植物の種。
この種には心当たりがある。――もし本当なら、大当たりかもしれない。
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