第二章
新たなる学園長
お久しぶりです。長らくお待たせしましたが、第二章、開幕です――
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ただの魔物討伐演習だと思っていたら雷龍と遭遇し、レイナが龍騎姫として雷龍を従え、その帰り道に闇堕ちして悪魔になった学園長をレイナとラグナが瞬殺し、なんやかんやあって国王からレイナとの恋愛を、婚約者候補と言う暫定的な形で認めて貰えた翌日の朝。
全校生徒が集められた演習場の最も目立つ位置に、真っ黒なローブを来た根暗そうな印象のある、おどおどした女の人が立っていた。
「……リズベット・シュバルツですぅ。き、昨日まではぁ、この英雄学園の研究室でぇ、職業とか戦術とかについて研究してたんですけどぉ、先代の学園長がぁ、なんか悪魔に憑りつかれてご臨終したみたいなのでぇ、ぼくがぁ、今日からここの学園長をすることになりましたぁ」
リズベット・シュバルツ。
こんなおどおどとした見た目で間延びした喋り方をするような人だけど、JROの魔導士職のカテゴリーの中では最強の『参謀』の職業の持ち主で、俺が知る限りハーメニア……いや、地上世界で三本指に入るくらいには強力なNPCの一人だった。
そして『JRO』における英雄学園で学園長を務めていたのもこの人だった。
「はぁ……。本当はクソガキ共の子守りなんて面倒な貧乏くじは御免被りたかったんですけどぉ、若手なので立場弱いですしぃ、それに、なんか面白そうな人も、ほんの少しだけどいるって聞いたので仕方なく、引き受けましたぁ。よろしくおねがいしますぅ。
あ、それとぉ。『農民』のハイトって人はぁ、後で学園長室まで来てくださぁい」
それだけ言って心底気怠そうにその場から去って行く。
JROでもこんな感じのキャラだったけど、それでもここまで酷くなかったような気がする。いや、こんなもんだったか?
リアルで見たからヤバすぎるように思えただけで、ゲーム画面越しに見るとそうでもないように感じた的な、なんかそう言う感じのギャップがあるかもしれない。
「な、なんか変わった人ね、新しい学園長。……行くの? ハイト」
「まぁ行くよ。学園長に呼び出されたわけだし。それにあの人は面白いからね」
俺の知る限りリズベット・シュバルツは『農民』がどうとかで差別するようなタイプじゃない。
一応今の俺は冒険者としてはS級で、レイナとも『婚約者候補』と言う形である程度国王にもその関係を認めて貰っているけど、とは言え現状俺は最下級のEクラスでレイナは最上級のSクラス。
クラスの再振り分けは学期が変わるごとにあってその権限は学園長にある。
今は一学期の終盤。再来月には訪れる二学期に向けてアピールしておいても、損する事はないだろう。
◇
「早速来てくれて嬉しいですぅ。待つのはあんまり好きな方じゃないのでぇ」
野暮ったい黒のローブから覗かせる銀髪と空色の瞳。研究室に籠っているからなのか肌は真っ白で、胸部はたわわだった。
学園長室に足を運ぶと、リズベットが間延びした声で俺を出迎える。
「それで、ハイトに一体何の用なのよ?」
「そうですね。事と次第によっては私にも考えがありますけど」
当然のごとく学園長室に俺より先に来ていたレイナと、当たり前のように俺についてきたラグナが敵意剥き出しで学園長に問う。
多分その学園長レベル80超えてる現状の俺より強いから、あんまり波風立てるような真似は控えて欲しかった。
……この人、こんな見た目で意外と――
「そんなの、手合わせしてもらうために来て貰ったに決まってるじゃないですかぁ」
……好戦的なんだよなぁ、この人。
しかも超絶強い。ゲームでの勝利条件が一定時間死なないことっていったら、その強さが伝わるだろうか?
「……手合わせ?」
「ええ。だって『農民』なのにSランクの冒険者で、いっつも街でドラゴンを引き回してるって噂になってるじゃないですかぁ。
そうでなくともデュークハルト侯爵家のハイトって、神童で有名でしたしぃ。
そんなの戦術のプロフェッショナル『参謀』として戦ってみないなんて選択肢、ないですよねぇ?」
「そう言う事なら受けて立つわ!」
「そうね。何せハイトは世界最強の『農民』――学園長になるお方でも、ハイトの強さには度肝を抜かれることでしょう」
「えっ」
「おぉぉお! それは楽しみですぅ。こんな可愛い女の子たちにそこまで言われる貴方なら、ぼくを楽しませてくれるって期待してもいいですかぁ?」
ダメです。……とは言えない雰囲気だった。
本当にレイナもラグナも! 僕の強さを信じてくれるのは嬉しいけどそうやって勝負の安請け合いをするのはやめて欲しかった。
その学園長、本気で倒そうと思うならレベル150は欲しい。
正直80ちょっとの今の俺だと、JRO本編が6年後であることを考慮しても勝てる気がしなかった。
けどまぁ、英雄学園で負けイベントなんていくらでもあるし。ここではHPが0になったとしても医務室で目が覚めるだけで死ぬわけじゃない。
この学園長も、徒に生徒である俺を殺したりしないだろう。
正直、この低レベルであのリズベット・シュバルツ相手にどこまで食い下がれるか試してみたい気持ちがあった。
「楽しませられるかどうかは解りませんが、食い下がって見せますよ」
「へぇ。それはワクワクするなぁ! 『テレポート』」
その瞬間、俺たちは一瞬の間に何もない荒野の中心に移動させられていた。
『参謀』だとレベル75で覚えられる――『テレポート』
世界中のどこにでも魔力量次第で一瞬で移動できるその魔法は、農民の『種付け』に並ぶ最強魔法の一角だった。
どんな不利な戦闘からもエスケープできるし、移動の時間も掛からなくなるし、ゲームプレイのストレスが一気に軽減される。
あぁ、良いなぁ! 最強職の『農民』だけど、転移覚えないのは数少ない致命的な欠点だと思った。
「こ、ここどこ!?」
「て『テレポート』……それをこんな一瞬で!?」
ラグナやレイナはここで初めて学園長の想像以上のヤバさに気付いたのだろうか?
ラグナとレイナが少し不安そうな表情を向けている。
「良いですなぁ、モテモテですなぁ。ぼくは非モテの非リア充だから、先手を貰って良いよね? 顕現せよ、ぼくの下僕たち! 『玩具の兵隊軍』」
リズベットが唱えたその瞬間、ブリキのようなテカテカした物質で作られた――軍服を着て軍刀を手に持つざっと50の兵士たち。
物理偏重世界のJROで最強の魔導職『参謀』
それが最強と言われる所以の一つがこの――魔法で喚び出したこの兵隊たち。
なんとこれ、魔力依存の攻撃魔法なのに、攻撃が全て物理攻撃判定になるのだ。
そして何より、瞬時に展開されるその数の暴力は考えるまでもなく強いことが明白だった。
俺はファフニールの鱗で作った鍬を地面に突き立てる。
「俺も全力で行きますよ! 『耕耘・レンコン畑』」
瞬時に作り出された広域の沼地によって、50の兵隊たちが足場を奪われ動きが止まる。――リズベット戦攻略の基本は、兎に角時間をかけず、リズベットに何もさせないことだ。
時間が経てば兵隊は増えるし、陣形はより厄介なものに整っていく。
故に、先手必勝――!!
俺は足に力を溜め、そのままレンコン畑の泥沼に沈む玩具の兵隊たちを飛び越えて――驚いた顔をしながら物理障壁を展開するリズベットの懐へ飛び込んだ。
「大怪我しても泣かないでくださいよ! 『草刈り』ッ!」
ファフニールの爪を加工して作った鎌を力いっぱい振り抜く。
大丈夫。物理障壁もあるし、『参謀』は物理防御にも大きな補正が掛かるから、上半身と下半身が泣き別れすることはないはずだ。
――それに、リズベット相手に手加減してる余裕もない。
俺が全力で振りぬいた鎌による『草刈り』の斬撃は、リズベットの硬い身体を貫通することはなく黒いローブだけを切り裂いた。
ローブが下半分だけ泣き別れして、肉付きの良い真っ白なお腹と――子供っぽい、くまさんの絵が描かれたパンツが露出した。
「えっ……」
追撃を噛まそうとした俺の身体は驚きのあまり硬直し、そのまま慣性の法則に従うように、俺の顔面はリズベットのたわわな二つのお胸に吸い込まれていく。
次の瞬間には、俺の顔は柔らかい幸せな感触に包まれていて、空色の瞳が氷よりも冷たく、それでいて白い顔は夕焼けのように赤く俺を見下ろしていた。
「ぜ、全力で行くって、こ、こここういう事だったんですかぁ?」
「い、いや、ちがっ……」
「こっ、このぼくとの戦いで、こんなセクハラを噛ましてくる人、あ、貴方が初めてですよぉ!」
間延びした声は途切れ途切れで、リズベットはわなわなと震えていた。
――因みに。『参謀』が魔導士職最強たる所以は物理判定の攻撃魔法もさることながら、魔導士職にしては珍しく物理攻撃力にもそれなりの補正が掛かるのだ。
つまり、戦士さながらに殴って戦っても滅茶苦茶強い。
リズベットの容赦ない膝蹴りが俺のお腹に直撃する。
「ごふっ」
そのまま顔面にいくつか放たれる追加攻撃に意識を薄くしながら思った。
試合に負けて、勝負に勝った。うん、まぁ。JROでも屈指の強キャラリズベット・シュバルツ相手にセクハラ噛ませたプレイヤーなんていないだろうし。
俺は言いようのない満足感を覚えながら、意識を手放した。
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暫くは毎日投稿します。
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