実戦訓練前
ハーメニア英雄学園は毎週課題がある代わりに休みが多く、魔法、魔物の弱点・生態、兵法、戦闘方、この世界の歴史などの座学を学ぶ授業は週に三回となっている。
しかし、だからといってそれ以外の日の全部が全部休みというわけではない。
と言うか普通の生徒の休日は毎週課題の為に奔走するのが普通であって、休みなんてそもそもあってないようなものなのである。
因みに俺は、素材だろうが討伐だろうが魔石だろうが全てドラゴンから産出されたものを提出しているので毎回評価はSランクだし、毎週課題のあるなしに関わらずドラゴンは討伐してたのでそんなに苦労はしてないが。
ただ、俺が毎回ドラゴンの素材を提出して圧倒的な成績を叩き出しているのが関係しているのか否か、毎週課題の表彰は二回目以降なくなっていた。
俺としては少しでも評価を増やしてレイナとの復縁に近づきたいが。
昨日も、王に子爵位を貰って「更に功績を立てれば――」とお墨付きを貰ったことだが、まだ正式にレイナとの復縁が決まったわけじゃないし、俺は一刻も早くレイナと誰に気兼ねることなくいちゃいちゃしたいので、やはりこれからも頑張っていかないといけないのである。
と、少し話が逸れてしまったが、英雄になるべき生徒を育成することが理念となっているこの学園において座学のない日にすることは決して毎週課題だけではない。
やはり、英雄になるために最も重んじられるのは実技である。
入学してから一ヶ月と少し。
今までの実技はハーメニア王国流の剣の基本的な型だったり、基礎的な魔法の演習などをさせられていたが、俺は基本的にずっと見学していた。
『農民』に教える技術など存在しないと実技担当の教官に言われたためだ。
まぁ、初級魔法とかハーメニアの剣術なんてJROでマスターした上に、デュークハルト家にいたときも毎日させられていたので、今更基礎を教えられてもしょうがないから助かると言えば助かるが。
その間、俺はやることがなかったのでうろうろしたり、自重トレをしたり、農民のスキルを練習したり、JROでは出来なかった――現実故に出来るようになったスキルの使い方や、逆に現実になったからこそ出来なくなったスキルの使い方などを考察したりして時間を潰していた。
だが、この学園に来ている生徒の殆どはそもそも基礎の剣術や魔法は使える人も多いし、何より強くなるにはやはり実践が一番である。
そして今日からの実技訓練は基礎練習だけではなく、実戦訓練が始まるのである。
◇
英雄学園の実戦訓練は基本的に二クラス合同で行われる。
その理由は色々あるらしいが、学園の建前としては他クラスとの交流を持ってライバルの実力を知りつつ、教え合い切磋琢磨すると言う理由を使っている。
例えばAクラスとBクラスが合同で行われるのなら、AクラスはBクラスに負けないように、BクラスはAクラスに追いつくために互いを見て奮い立たせる、とかそう言う感じだ。
切磋琢磨という建前で、英雄学園の実戦訓練では二クラス合同が実施されているが、Sクラスとは伝統的にEクラスと組むことになっているらしい。
これは、Sクラスの英雄に最も近い存在が実戦で数多の雑魚を掃討する練習が出来ると共に、Eクラスは圧倒的な実力差を自覚し身の程を弁える為にあると校長先生は言っていた。
身の程を弁えるというか、普通に笑いものにするためのシステムなのだろう。
英雄学校はそれなりに難しい勉強と、そこそこ大変な課題が出るからまあまあストレスも溜まる。この世界は娯楽が少ないし、古代ローマのパンとサーカスじゃないけど息抜きとしての側面もあるのだろう。
正直レベル80の俺から見ればSクラスの人間もEクラスの人間もデコピン一発で倒せるという意味ではそんなに変わらないし、このシステム自体目くそ鼻くそを笑うとしか思えないのだが。
まぁ、この学園の連中はレイナとラグナ以外全員目くそだからこそ鼻くそを笑って楽しいのかもしれない。
まぁ、今日に限って言えば俺もいるEクラスを好きにボコって笑えるのかどうかは別だが。俺たちにとって入学してから初めての実戦訓練。
始まる前から、漂う雰囲気はきな臭かった。
◇
「ふっふっふ。今に見ておれよ『農民』風情が」
やや小太りの腹、少し脂ぎったはげ頭。『職業』に恵まれ、容姿と性格に恵まれなかった男――英雄学園の学園長はにちゃりと厭らしい笑みを浮かべた。
「実家の力を借りたか、どんなズルをしたのかは解らぬが、最近史上最速のSランク冒険者になって、調子に乗っておるようだが……その長く伸びきった鼻っ柱へし折ってくれるわ」
本来なら生徒がBランク冒険者になっただけでも十分な偉業。
それ故にSランクになったハイトやBランク冒険者であるラグナは、学園長の務めとして本来なら表彰しなければいけないのである。
だが、ハーメニア王国は職業至上主義。
『農民』でEクラスのハイトや一介の魔法使い職に過ぎずEクラスのラグナが、Sランクの生徒を差し置いて表彰されるのはあってはならないことだった。
特に今年は王女であるレイナが入学している。
歴代でも最高クラスの職業を持つ彼女を差し置いて、下賤な職業の人間が実績を出し評価されるのは、ハーメニア王国や英雄学園の『職業史上』のシステムを根本から揺るがしかねない一大事なのである。
そしてその『職業至上主義』が崩れ純粋な『実力主義』になってしまうと、親のコネと職業だけで学園長にまで成り上がった学園長は、スゴく困ってしまうのである。
だからこそ、出る杭は絶対に打たねばならない。
そして、学園長はそのためのある策を思いついていた。
「あの『農民』が如何様にしてドラゴンを倒したり、実技試験で全勝したりしたのかは解らぬが……なにかズルをしていたのは間違いない。
ふっふっふ。あやつの小細工を全て封じてしまえば所詮はただの『農民』――今回で完全にアイツに身の程を弁えさせてやるわ」
学園長の中の悪魔がにちゃりと嗤う。
だが学園長は知らない。
ハイトのレベルが80を越え、小細工なしで素手で殴り合っても既にフォレストドラゴンくらいなら倒せる実力があることを。
そして、並のSクラスの生徒はオークにさえ苦戦する実力しかないことを。
そんな認識の齟齬が埋まらぬまま、波乱の実戦訓練は幕を開ける――
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