ドラゴン虐殺して廃レベリング!

 JROにおける最強生物の一角である『ドラゴン』は、一部の例外を除いてこの世界のほぼ全てのフィールドに存在する、徘徊型のエクストラボス的な存在である。

 低レベルの時は見つかれば全滅するので、気付かれないよう隠れたり逃げたりと慎重に行動する必要があるし、高レベルになれば素晴らしい素材と潤沢なお金、そして豊富な経験値を提供してくれる。


 低レベルの時に怯えさせられたからこそ、ドラゴンを狩れるようになるほど強くなれたときの嬉しさは一入だし、ドラゴンの存在はJROを神ゲーたらしめる大きな要因の一つではあったと思う。


 そして、そのドラゴンの中でも強さは区々であるが……


 ハーメニア王国内にある『グラコスの大森林』に存在するフォレストドラゴン。

 ハーメニア王国近海に出現するシードラゴン。

 ハーメニア王国の国境付近、ハーメニア山脈の麓に住むマウンテンドラゴンとかはドラゴンの中では比較的雑魚とされる。


 逆に海の奥にいる『リヴァイアサン』やハーメニア山脈の頂上にいる『ファフニール』とかはその辺のドラゴンとは別格の強さがあったりする。

 推奨レベルは100以上。アレは種を植え付けただけで何とかなる相手じゃないのでとりあえず後回しだ。


 そんなこんなで、今回はドラゴン狩りを周回するという都合もあるのでラグナを誘わず、一人で最初はハーメニア近海に向かった。




                      ◇




 ハーメニア近海の堤防で、俺は冒険者ギルドから借りた馬鹿でかく非常に長く、そしてとても頑丈な魔法のロープに血の滴るオークの死体を、碇のようなデカい釣り針に串刺しして吊していた。

 水面から約3mの高さ。


 船で戦うのは非常に危険なので、今回は釣りを選ぶことにした。

 これはJROでも割と使われた、シードラゴンの討伐方法である。ロープはテトラポッドのようなものにグルグルと巻き付けられている。


 バシャンッ! 水しぶきが上がり、大きな影が血の滴るオークにかぶりついた。

 ぐらりと、ロープが縛り付けられたテトラポッドのようなものが音を立てる。


 俺はそれを察知するや否や、ポケットに入れていた生命樹の種を五つほど取りだして投げつける。この種は、以前食べた生命樹の実の種を食べずに乾燥させて取っておいたものである。

 種さえあればいくらでも生命樹の実を量産することが可能だからな!


「『種付け』!!」


 俺は即座に自分の半分ほどの魔力を込め、シードラゴンに生命樹の種を根付かせる。バシャバシャバシャッ! とシードラゴンは波を立てて暴れ、その度にテトラポッドのようなものはぐらぐらと音を立てて揺れる。


 しかし、フォレストドラゴンと違ってシードラゴンは陸に上がってこれるわけでもなく。ドラゴン捕縛用に作られたロープや釣り針は、ドラゴンの中では弱い方に位置するシードラゴンでは引きちぎることなど出来ない。

 後は生命樹の種がシードラゴンのHPとMPを吸い尽くすまで、見てるだけである。


 最小レベル討伐はシードラゴンが一番リスクが少ないが、生命樹の種を当てた後根付かせるまでの判定が結構シビアなので、達成難易度自体はフォレストドラゴンの方が低かったりする。

 そんなことを考えている内に、シードラゴンは絶命した。


 俺は縄を引き、シードラゴンを引っ張り上げる。


 本来なら重いのかもしれないが、これはドラゴン捕縛を想定された魔法のロープなので、くくりつけた獲物の重さは殆ど0に感じられる神アイテムである。

 高性能故に貸出料金も結構高かったけど、フォレストドラゴンの報酬のお陰で資金は潤沢に潤っていたし、シードラゴンの売却で余裕で元が取れるので、問題はない。


 そんなこんなで、俺はシードラゴンになった生命樹の実を全て一人で食べ、種は保存してから、シードラゴンを引きずって街に帰った。



                      ◇



 翌々日。今度はハーメニアの国境付近に向かっていた。ハーメニアの面積は割と狭いし、レベルも43に上がってた影響でこれくらいの移動は容易い。

 今日はハーメニア山脈の麓に住むマウンテンドラゴンを討伐しようと思う。


 シードラゴンもフォレストドラゴンもマウンテンドラゴンも、マップごとに何匹もいるし、JROではリポップもしたのだが、やはり毎日狩るのは絶滅が心配だし、毎日同じドラゴンを狩るのも味気ないし。

 そう言った理由で今日はマウンテンドラゴン、次はフォレストドラゴンと言った感じでローテーションで狩っていこうと思うのだ。


 所で、フォレストドラゴン、シードラゴン、マウンテンドラゴンの中で最も低レベル討伐の難易度が高いのはマウンテンドラゴンである。

 その理由はいくつかあるが、やはり最大の理由は飛行能力にある。


 見た目は白い始祖鳥のようで、へたくそだが辛うじて空を飛ぶ能力がある。

 その上、その翼からは風魔法でのかまいたちを放ってくる。レベル10だと攻撃が掠っただけで死ぬので難易度が非常に高いのだ。

 その分、売却額はその三種の中だとダントツで一番高いけど。


 まぁ、今の俺はレベル43だし、生命樹の実でのドーピングの結果HPの数値はかなり自信があるので、マウンテンドラゴンの小ぶりな攻撃は割と余裕を持って耐えられる自信がある。


 そんなこんなで、俺はハーメニア山脈の麓付近を軽く散策し、マウンテンドラゴンのつがいを見つけた。

 二匹か……。安全策をとるなら他の個体を探すが、俺はJROガチ勢。

 ここで一気に二匹倒せれば経験値的にも美味しいし、生命樹の実でのドーピングの結果HPが一万五千を越える俺なら、防御に徹するだけでマウンテンドラゴンの攻撃を耐え凌ぐことは出来るだろう。


 マウンテンドラゴンは飛べる分、HPの自動回復割合が少ないから、種で削りきるのに4分で良いし。


「よし!」


 俺はそうと決めたら、生命樹の種をこっそりとつがいに投げつけた。


「『種付け』! そして逃げろぉぉおおおお!!!」


 生命樹の種がマウンテンドラゴンに根付くのを確認する。

 マウンテンドラゴンは怒り狂って俺を追いかけてきたり、風魔法を飛ばしてくるがレベル43になって敏捷も上がった俺なら躱すことも容易かった。

 偶に掠るけど、殆ど効かないし。


 そんなこんなで四分が経ち、二匹のマウンテンドラゴンは絶命した。


 俺は、なった生命樹の実を全て食べる。

 今日は中々に歩いたし、お腹が空いていたので、二匹分の生命樹の実もペロリと食べきることが出来た。


 そして俺は今日も借りてきた、重さを無効に出来るドラゴン捕縛用のロープでマウンテンドラゴンのつがいを縛って、街に帰る。

 今日はレベルが54まで上がっていた。

 レベルが上がるにつれ、レベルが上がりにくくなっているが、それでも成長値を限界まで上げたり、生命樹の種でのドーピングをしてるので数値がかなり高くなった。


 俺にはJROをやりこんだ知識もあるので、そろそろハーメニア最強だった闇墜ちジーク相手にも勝てるくらいの強さにはなっただろう。

 最も俺が求めるのはハーメニア最強などではなく、世界最強。


 ハーメニア山脈山頂のファフニールを始めとして、俺では勝てない相手はまだまだいくらでもいるし、もっと強くなりたい。

 それに、定期的にドラゴンを狩っていれば毎週課題でもコンスタントに最優秀賞を取ることが出来るし、冒険者としての成果も増えるので、レイナとの復縁にも近づくだろう。


 そんな未来の構想を膨らませながら、俺は来る日も来る日もドラゴンを討伐してはギルドに引きずって運んだ。


 勿論授業との兼ね合いもあって、毎日は狩れない。精々、二日か三日に五匹。番とか群れの時があるし、最近はレベルが上がって日に何匹も狩れる余裕も出来たし。


 そんなわけで、JRO廃人の俺的にはスローペースで、この世界の人基準だと異常とも言えるペースでドラゴンを討伐し、そろそろ俺のレベルも80の大台に差し掛かり始めたある日、サイクル的にマウンテンドラゴンを倒すためにハーメニア山脈の麓を散策していたある日だった。


「貴様か。我が眷属を殺して回っている不届き者は」


 圧倒的な威圧感。強そうな見た目。白く光り輝く綺麗な翼を持つその龍は


「番龍ファフニール」


 レベル100に上げても尚負けうる、最強種の一角だった。

 

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