勝負の決着と学園長の本音

「一位、フォレストドラゴンの皮。Sランクの素材を提出した、は、ハイトくんの班……」

「「「「「え、えぇぇええええええ!!!!」」」」」


 俺の名前が呼ばれると同時に、学園には驚きの声が響き渡る。

 かく言う俺も、何だかんだ難癖を付けられて名前を呼ばれない可能性を疑っていたから、自分の名前が呼ばれてホッとしていた。

 ここで名前が呼ばれなければ、聖司祭との勝負で負け扱いになっていた可能性もあるしね。


「う、嘘だ! の、農民の分際でフォレストドラゴンの皮なんて取れるはずがない! 不正だ! お前なんか不正したに決まってるんだ!!!」


 聖司祭が俺の方を指さしながら声を荒げた。


「不正って、例えばどんな?」

「そ、それは……お、お前の、その……」


 聞き返すと、聖司祭は返答に困ってどもっていた。それもそのはず。寧ろ素材を金で買って提出するなどの不正をしたのは聖司祭の方なのだから。

 寧ろここでこれ以上の難癖を付ければ、手痛いカウンターが来ることは流石に理解しているのだろう。


「それに、ちょっと街に出れば俺とラグナでフォレストドラゴンを引っ張ってきたこともかなり話題になってるぞ? 知らないのか?」

「し、知るか! 下々のことなど!!」


 ……英雄になるなら、下々のことを気に掛けといた方が良いと思うし何より、情報は大切だと思うけど。まぁ情報の大切さが理解できる人間は筆記を落としたてEクラスに来たりしないか。

 しかし、この街で噂になってたのもランキングに不正がなかった要因の一つだとは思う。それは兎も角


「それで、この毎週課題で負けたらって話覚えているよね?」

「ぐぬぬぬ。で、でもぼ、僕は『聖司教』の息子だぞ……そ、そんな酷いことはしないだろうな!?」

「さぁ? でも、煮るなり焼くなり好きにしろって話だったしなぁ?」


 釜ゆでにするか、火あぶりにするか悩ましいところである。

 まぁ石川五右衛門とかを処刑した釜ゆでの刑は油だったらしいし、煮るって言う寄りかは揚げるって表現の方が正しいし、やはりここは火炙りにするべきか。


「教会は処刑方に好んで火炙りを選ぶし、やっぱり焼くか?」

「ひっ、焼くってそう言うこと?! や、やめてよ。僕に酷いことをしたら『聖司教』の父が黙ってないからな?」


 聖司祭は、顔を青ざめさせて心底怯えていた。

 俺は『農民』だが、フォレストドラゴンの皮を提出できる――つまり、ドラゴンを倒せる程度の実力はあるのだ。

 そうでなくとも、レベルが上がったしレベル差によるプレッシャーを感じ取っているのかもしれない。


 まぁ、とは言え流石にここで人を殺すと色々と面倒くさいことになりそうなのも事実だ。このよく解らないやつを殺して、レイナとの復縁が遠ざかったらそれこそ最悪である。

 とは言えこいつは、ラグナを奴隷に――とか言うようなクソ野郎でもある。


 だから


「まぁ、保留にするか」

「ほ、保留」

「あぁ。ただ、ラグナに何かしたら火炙りにするからな?」

「わ、解ったよ……」


 俺は聖司祭を脅すだけに留めておいた。




                      ◇




「ぐぬぬぬ。忌々しい農民風情が!!」


 ダァンッ!! 学園長室に、学園長が机を思いっきり叩き付ける音が響く。

 彼の『職業』である『兵長』の力でも、壊れない程度にはこの学園の机は丈夫だった。ヒリヒリと拳が傷む。


 とは言え、あの突如現れた農民……ハイトが学園長にとって目の上のたんこぶ、いや、足の裏の飯粒であることは間違いなかった。


 今日ハイトに与えた初めての毎週課題の最優秀賞は、本当なら王女であるレイナに与えるつもりのものだった。

 Bランクのワイバーンの皮膜。レイナは取り立てて優秀な生徒だ。本来なら彼女に最優秀賞を与えるのは容易いことだったはずなのに。


 あの農民風情はフォレストドラゴンの皮を持ってきてしまった!!


 学園長の元に届くのは、農民風情に賞を与えレイナに賞を与えなかったことに対する、王侯派の貴族からの陳情だった。

 でも、あの状況では学園長も不正してレイナに賞を与えることは出来ないのだ。


 街では既にハイトがフォレストドラゴンを引っ張り回ったことが有名になっているし、何よりレイナは何故かあの農民に肩入れしている。

 いや、理由は解っている。彼はかつてレイナの婚約者だったのだ。

 レイナも年頃の娘である。噂ではレイナとハイトは仲睦まじかったらしいし、未だに愛着とかがあるのだろう。


 とは言え、とは言えだ。


 学園長は、農民風情であるハイトが活躍するのが気に入らなかった。

 学園長も頭では解っている。職業に囚われず優秀な人間がこの世界にはごまんといることを。しかし、ハーメニア王国は職業至上主義で成り立っている国だ。


 もし、職業に囚われず――ましてや大多数派の『農民』でも英雄に成り上がれるとしれば、或いは暴動が起きるかもしれない。


 学園長はハイトの実力をかなり見誤っていた。

 ハイトは英雄学園に入った後も精々、Dクラスまで上がれるか上がれないかで頑張った後に、ハーメニア軍の一兵士としてそこそこ役に立つ程度の人間になると思っていた。それがどうだ?

 ふたを開けてみれば、既に入学早々ドラゴンを討伐してしまっている。


 これじゃあまるで、伝説の英雄――いや、それ以上ではないか。


「まずい。まずいな……」


 事情はどうでアレ、ハイトをあのまま放置していくと数年後にはこの国で内乱が起きかねない。そしたら、学園長の首が飛ぶ。

 学園長の動揺は、迷いは蜜の匂いのように悪魔を呼び寄せる。


 否、呼び寄せるのではない。既に悪魔は学園長の中にいるのだ。


「……農民は、悪魔族を魔族を滅ぼした英雄と同じ職業だ。このままハイトを放置していたらとんでもないことになる。あの時の、千年前の地獄の再来になる」


 それはいつからか。生まれる前には既に学園長に取り憑いていた悪魔は、学園長の動揺の狭間に顔をひょっこりと出した。


「始末せねば。あの農民は、農民だけは……」


 その時、校長は悪魔に取り憑かれた人間から魔人へと闇落ちしていた。



                 ◇



 一方その頃ハイトは――


「よし、レベリングするか!」


 レベリングの為に、ドラゴンを狩るため外へ出かけていた。


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