最底辺クラスと直談判

 筆記試験で満点。実技試験でも全戦全勝を収めた俺が、最上位クラスのSクラスではなく、最底辺クラスであるEクラスに割り振られた。

 ……それに筆記が振るわなかったとは言え、実技では全戦全勝だったラグナだってEクラスに振り分けられている。


 この学園では筆記以上に実技の評価が重んじられると聞いていたし、ラグナなら最低でもCクラス以上じゃないとおかしいはずだ。

 ……いや、解っている。俺とラグナの共通点。


 それは『職業』の見栄えがあんまりよろしくないのである。


 例えばラグナの『赤魔法使い』だって、JROではハズレの多い魔法使い職の中では比較的マシな部類とされているが、それでも魔法使い職は『騎士』や『戦士』のような物理攻撃を主体とする職業に見劣りする。


 そして俺の『農民』は平均的なステータス、汎用性の高い癖のない補正、何よりレベル上限が存在せず無限に強くなれると言った点でJROでは文句なしの最強職だったものの、大器晩成というその性質故にこの世界では『最弱』『最底辺』の職業だとされているのだ。


「えー諸君は、英雄学園に入学したという点ではそれなりに立派かもしれないが、このクラスは英雄学園の中では特に落ちこぼれが集められた最底辺クラスだ。

 オマエらはそこんとこをキチンと理解して謙虚にひたむきに励むように」


 やる気のなさそうな野暮ったい格好をしたEクラスの担任教師の言葉を聞き流しながら、俺は色々考えていた。


「おい、あいつ噂の侯爵家の麒麟児じゃねえか?」

「勘当されたって聞いたぞ」

「俺、それ見たわ。何かデュークハルト侯爵めっちゃ怒ってて怖かったわ」

「まじ? でもなんであいつこの学園に入学できたんだ? 確か『農民』だろ?」

「さぁ? レイナ様の元婚約者らしいし、なんかあんじゃねえの? 知らんけど」


 クラスメイトのざわめきのような噂話も聞き流す。


「ねえハイト。ここ最底辺クラスってどういう事よ? 私は兎も角ハイトが最底辺なんてありえないわ! 私、納得いかないわ」

「いや、ラグナも最底辺クラスに振り分けられるのはおかしいと思うけどな」

「そうね。それにしてもここの担任もなんなのよ。いきなり最底辺なんて見下す発言をして。気に入らないわ。絶対ハイトの方があの教師なんかよりも強いのに!」


 席は自由に座って構わない感じだったので、俺の隣の席は自然とラグナになった。

 そのラグナは俺の隣でこそこそと、そんなことを言ってくる。

 因みに、この学園の教師は最低でも30レベル以上はあるし現状の俺よりは強い可能性が高いので、あんまりそう言うことは言わないで欲しかった。


 ……俺の方が弱いと認めるのは癪なので、口には出さないけど。


 しかし、それでも試験で満点を取って実力も示したのにこの待遇は少し気に入らなかった。それに、あまりにも『農民』が軽視されるようなら、レイナとの婚約を復縁させる上でも大きな障害になりそうにも思えた。

 ……その辺の確認も含めて、俺はEクラスの挨拶が終わったらこの学園の責任者に直談判に行ってみようと思う。




                   ◇




「ハイトがEクラスなんて納得できません! 彼は実技でも、筆記でも私よりずっと好成績だったんですよ?」

「そ、そうは仰られましても……」


 学園長に直談判するべく、学園長室に向かうと先客がいた。


「……レイナ」

「ハイト……」


 まさかレイナの方が先に直談判しに来ているとは思わなかった。この国の王女であるレイナの抗議に学園長もかなり困っている様子だった。


「その、そちらの方は後で紹介していただきたいんですけど」

「あ、うん」


 逆にレイナは、俺の直談判に「私も一緒に行くわ!」とついてきたラグナの方に興味を移していた。これは後で説明しなければならない。……それを思うと少しだけ気が重くなるが、それは兎も角――


「学園長。俺からも尋ねたいんですけど……『農民』ってそこまで酷い職業なんですかね? なってみた体感、補正にも癖がないですし素のステータスがそのまんま出るので、素のステータス次第ではかなり優秀な職業になる素質があると思うんですけど」

「そうだな」


 学園長は難しそうな表情で、神妙に答える。


「正直、儂は『農民』はこの世界のありとあらゆる職業の中ではずば抜けて劣っていると思っておる。お主の言うように癖がないと言うことは即ち、恩恵的な利益もないと言うことに繋がるからな。だからハイトくん。君が『農民』である以上英雄の素質はないものとして入学は拒絶しようと思っていた」

「はい」

「だがな、ハイトくんはこの学園で唯一筆記試験で満点を収めたし、実技試験でも新入生の中で一番強いと思っていたレイナ様にすら勝ち星を収めた」

「ま、満点!? ……次席の私でさえ、五科目430点が関の山でしたのに……」


 さすがハイト……と呟くレイナは驚いたような、少し寂しいようなそんな表情をしていた。


「勿論、それは職業を取得し立ての今だからなしえることで、今より更に研鑽を積めばその職業の差によっていつか実力は逆転すると思っておる。

 だがこれほどまでに高い実力を持つ者が『農民』になる例を見るのも初めてなのだ」


 学園長もステータスが高い者がなった『剣士』の人間が、その辺の『剣聖』のような上級職を凌駕する例を知っているのかもしれない。


「故に、儂はハイト。貴様ほどの逸材が『農民』でどこまで強くなるのか興味を持った。無論『農民』は弱いという考えは変わらないが、それでもお前なら『農民』でも素の実力で英雄になれるだけのポテンシャルを秘めているとも思うのだ。

 それに、この学園は年に二度――学期が変わるごとに、クラスの振り分けを変えられる試験も実施しておる」

「つまり……」

「この学園は、身分、門地、才能、職業。それらを措いて平等に分け隔てなく接することはない。何故なら儂はそれらもひっくるめてその人間の実力だとも思うからだ。

 だがしかし、それらに囚われて実力のあるものを腐らせるほど耄碌した覚えもない」

「実力を示せば、評価される土壌がこの学園にはあると言うわけですね?」

「うむ。儂はハイト、貴様に期待しておる」


 学園長はそう言って、自分の椅子に座った。


「ありがとうございます。頑張ろうと思います」


 俺は学園長に貴族の礼ではない、日本のお辞儀をもって頭を下げる。


 レイナもラグナも、俺の言葉にうんとうなずき、その瞳は信頼と期待に満ちているような気がした。……いやまぁ、俺がそうだったら良いなと思っているだけなのだが。

 そんなこんなで、学園長室を辞した後少し歩いてレイナが口を開く。


「ところでハイト、そちらの獣人族の方の紹介をしていただいても?」


 そ、そうだった。

 事情が事情なので胃が痛くなるが、それでも説明をするべきだろう。俺は将来的に、レイナと結婚する予定でいるのだから――



―――――――――――――



次回、修羅場――!?(ギスギスすることはありません)

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