入学式とクラス分け
試験から二週間ほどの時が経ち、泊まっている宿に一通の手紙が届いた。
赤い印紙が貼られた重厚感のある手紙。
封を開けて中身を見てみると、そこには『合格』の二文字が書かれていた。……その文字に一安心しつつ、俺はもう一つの紙を取り出す。
そこには筆記試験と実技試験の点数が記載されている。
筆記試験は――国語・算術・魔術知識・歴史・冒険心得の五科目それぞれ100点満点計500点満点中、500点。
実技試験は、五戦中五戦全てが白星とされている。
「よしっ」
「よっっっっしゃあああああぁぁああああ!!!!!」
俺が小さく頷きガッツポーズを決めると、隣の部屋でもの凄く大きな声が聞こえた。その声はドタドタと喧しい足音へと変わり、バタンと俺の部屋のドアが開く音へと変化した。
「ハイト、受かってたにゃ!!」
「にゃ?」
ラグナである。……しかし、ラグナは猫耳猫尻尾であるが語尾に「にゃ」をつけるキャラ付けなんてなかったはずだけど……
「か、噛んだだけよ!」
「そう? ちょっと可愛かったけど」
「……は、ハイトがそう言うなら語尾に『にゃ』を付けるのもやぶさかでは……にゃいけど」
そう、少し尻すぼみに言うラグナはその髪色も顔負けに赤面していた。
「ぷっ……いや、恥ずかしいなら無理しなくても良いけど?」
「む、無理なんてしてないし! ……悪かったわね、私にはこう言う可愛いのはあんまり似合わないわよ」
映える猫耳猫尻尾をお持ちの時点で、可愛いのが似合わないは無理があると思うけど。
「そ、それよりハイト! 見てよ! 合格してたわ!!」
「おぉ~。おめでとう」
そうしてラグナが見せるのは合格の用紙。実技は白星五つの黒星ゼロ。筆記は五科目270点……思ってたより低いな。
聞くところによると、英雄学園のクラス分けは入試の成績にある程度応じて分けられるらしいし、この様子だとラグナと俺は別々のクラスになりそうだな。
「なんか他人事ね。……もしかしてハイト合格……」
「いや、合格はしたから。一応筆記も満点だし」
「ま、満点!? す、スゴいわね。流石ハイトだけど、満点ならそんな辛気くさい顔してないで、もっと盛大に喜びなさいよ!!」
「喜べって言われても。……って言うか俺、辛気くさい顔してた?」
「……言われてみればそんなでもないわね。でも、合格したならもっと盛大に喜びましょう!」
そう言って、ラグナは両手を広げる。
は、ハグだろうか? 確かに嬉しいことがあると思わず誰かに抱きつきたい気持ちになるし、一応受験合格って人生の山場だし……今日くらいは、これくらいは大丈夫だよね?
俺は恐る恐るラグナにハグをして、そのまま天井に投げ飛ばされた。ゴツンと頭を天井に強打する。
「……なにすんだよ!」
「ご、ごめん……胴上げしようと思ったら勢い余っちゃったわ!」
「いや、まぁ痛くなかったから別に良いけど」
この二週間で、俺は更にレベルが上がって20だ。防御力の数値もそれなりなので天井に頭をぶつけた程度じゃなんともない。
……寧ろ、天井が傷つきそうで怖かったが上を見たら天井の方も無傷で安心した。あとで弁償とか言われたらいくらの出費になるか解らないからな。
その時は流石にラグナと割り勘にしてたところである。
そんなこんなでまぁ、合格通知が届いたので後は入学手続きを済ませて来月初めの入学式を待つのみ。
そして、その入学式もあっという間にやってきた。
◇
「サクラの花も舞い散る四月。私たち新入生は今月からこのハーメニア英雄学園に入学する訳ですが、この壇上に立つ私は今年度の新入生で最も優れた人間であるわけではないと自認しております」
入学式。それは学園生活のスタートを彩る儀式であり、夢と希望の詰まったイベント。……前世では座りながら他人のコピペのような個性のない新入生挨拶を聞くのは苦痛だったし、長時間ただただ座っているという行為も単純に怠くて、正直嫌い寄りのイベントだったが、今世は違う。
大好きなJROの世界の、色んな意味で有名なハーメニア英雄学園。それだけで胸が高鳴るのに、前で新入生挨拶を務めるのは先々月まで俺の婚約者だったレイナである。……あんなに立派になって。
レイナを育てたのは儂なんじゃよ。いや、違うけど。
しかし、この学園にはJROに登場していた一癖も二癖もあるキャラがいるのだと思うと、自然とワクワクする気持ちも込み上げてくる。
「この学園にはこの国の、或いは他国からも多くの英雄の資質を秘めた人たちが会しています。その中には少なくとも私より強い人だっているでしょう。
逆に、今は私より弱くても将来的に私より強くなる人だって出てくるかも知れません。
それでも私は私より強い人を越えるために奮闘し、私より弱い人より弱くならないように慢心せず、気高く正しい英雄になるべく不断の努力をすることをここに誓います。
新入生挨拶。レイナ・ハーメニア」
レイナは気品のある一礼を見せてから、壇上から降りる。
俺はレイナの挨拶に力強く拍手をする。俺以外の人もレイナの姿に感動したのか、涙を流したり拍手をして、会場は割れそうな程に音が響いていた。
自意識過剰かもしれないけど、挨拶の最中レイナはずっと俺の方を見ていたような気がする。そうだと嬉しいなってだけの話ではあるのだが。
しかし、それはそうとして俺はレイナの挨拶に一頻り感動した後は逆にそわそわとした気分になっていた。
そう。クラス分けの発表である。
クラス分けは前に担任の教師が出て、例えばAクラスならAクラスの出席順に名前が呼ばれる。そこで初めて自分のクラスを把握できるのだ。
因みに、名前を呼ばれた生徒はハッキリとした声で返事しなければならない。
前世の俺なら嫌がったシステムだし、正直今世もそんなに気乗りしないけど、小さい声を出すと「聞こえません。もう一度お願いします」とか言われたら嫌なので、一回で済むようにちゃんと大きな声で返事をしようと思う。
そんなことを考えている内にA、B、C、Dクラスの生徒の名前が呼ばていく。この四つの中だとAが一番優秀な生徒が多くて、Dは一番微妙なクラスと言える。
そして残るクラスはEとSの二つのみである。
Eはこの学園の入学者の中でも特に落ちこぼれの生徒が所属するクラスである。
対してSは特に優秀だったりずば抜けた才能を持つクラスである。
例えば、新入生代表挨拶をしたレイナは間違いなくSクラスだろうし。筆記・実技共に満点取った俺も恐らくSクラス確定だろう。
逆にラグナは筆記の成績が振るわなかったのでDか、まだ呼ばれてないならEだな。真獣化を修得すればSも全然あったと思うけど。
最後にSを残してEクラスの奴らに希望を与えるとはこの学園も性格が悪い。まぁ大半の人は自分の実力を把握しているだろうし、本気で希望を持つ奴なんていないんだろうけど。
俺が入るであろうSクラスの発表がされるのを待ちながら、俺はEクラスの生徒が呼ばれるのを聞き流していた。
「ハイト。ハイトくん。返事をしてください! Eクラス、ハイト」
「……え? は、はい!」
……のに。え? 俺、最下級クラスのEクラス?
「それではSクラスの発表に入ります。Sクラスの生徒は――」
「ハイト、同じクラスになったわね!」
「え? あ、うん……」
ラグナの言葉に生返事しながら、俺は虚空を見つめる。……俺が、Eクラス?
筆記も実技も満点だった俺が? Eクラス?
理由はなんとなく察しがつく。きっと『職業』のせいなんだろう。
ただそれでも、俺はこの世界の不条理に嘆かざるを得なかった。
「『農民』はこの世界最強の職業なんだよ。……一々不遇に扱うとか、この国の奴らは馬鹿なんじゃねえの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます