英雄学園入学試験
そんなこんなで一ヶ月の時が流れた。
この一ヶ月は主に英雄学園の入試に向けて努力しようと決めていたのだが、前世は曲がりなりにも大学まで進学していたわけだし、JROの攻略wikもほぼ全てを把握している俺が、今更筆記で落ちるなんて間抜けな話はないと思う。
それに何よりこの世界には本屋が殆どないのだ。JROは本なんて必要なかったし気にしたことはなかったけど。
精々魔法都市で魔導書を買ったりする程度だったし。
そんなわけで当然のように英雄学園の入試対策の参考書的なものは売っていなかった。
つまり、勉強しようにも教材がないのである。
と言うわけで、実技試験――実践的な戦闘力を見られる試験の対策も兼ねて、俺はこの一ヶ月間の殆どをレベリングに費やしていた。
オークの群れを三つほど壊滅に追い込み、そのせいで増えたゴブリンの集落を七つほど壊滅させ、ついでに獣系のモンスターも探すのが大変になる程度の数になるまで刈り取った。
やはり、JROで一番人気だった職業の『農民』なだけあって、無職のときよりも遙かにレベリングの効率が良い。
一ヶ月でレベル17まで上がったのはデカい。ついでにモンスターを狩りまくっていた影響か冒険者ランクもBに昇格していたし。
そんなこんなで迎えた今日は『英雄学園』の入学試験当日だった。
確かに俺の元へ届いている受験票を握りしめて、正門の前に立つ。少なくとも俺は書類選考を突破することが出来たらしい。
「いよいよね」
俺の隣に立つラグナは少し緊張した面持ちで、自分の受験票を見ていた。
……この一ヶ月。レベリングは単独で行ったけど、それ以外の時間で自分の復習も兼ねてラグナに筆記対策のレクチャーもしていた。
俺が受かるのは当然として、俺がちゃんと見たし。JROでもそこそこの性能をしていたラグナもきっと合格するだろう。
……そして、王族であるレイナも。
ただ、人間ここまでくると欲が出てくるもので。
どうせここまで来たなら――筆記と実技で満点取って、首席で合格してやろうと思う。
◇
そんなこんなで四時間にも及ぶ筆記試験を終えた俺たちは、実技試験の会場に向かっていた。手応えとしては、流石によほどのことがない限り満点取れてると思う。
……内容は前世の小学校で習ったレベルの算数やJROガチ勢なら常識レベルのモンスターの生態や地理、設定などを問われる程度の内容だったし、寧ろ一問でも間違えてたら恥ずかしいレベルの難易度だった。
……しかし、隣で歩くラグナの猫耳はシュンと垂れ下がっている。あんまり良い手応えではなかったのかもしれない。
「ぶ、分数が三つもある足し算なんて反則よ……」
さ、算数が出来なかったのか……。
そう言えば、モンスターの弱点・生態や、JROの設定はレクチャーしたけどこの辺の勉強は全然教えてなかったな。……正直、初等教育レベルの算数なんて、日本に住んでたら出来て当たり前すぎることだから完全に盲点だった。
「ま、まぁ、実技で取り戻せば良いと思うよ。聞くところによると、筆記より実技の成績の方が重視されるらしいし」
「そ、そうね! 私、ハイトと同じクラスになりたいし、頑張るわ!!」
「お、おう……」
そう言うやる気の出し方をされると照れるんだけど。
そんなこんなで、実技試験が始まった。
◇
英雄学園の実技試験は、試験官によってランダムに振り分けられた六人組の中で、総当たり戦をして、勝率に応じて点数が配分されるシステムだ。
六人一組の総当たり戦なら、俺が戦う相手は五人。百点満点だと仮定するなら、一人に勝つごとに点数は二十点になる計算である。
一応、偶々振り分けられたグループのレベルがやたらと高いとそれなりに強くても落ちる可能性があるし、運の要素もそれなりにある試験だが、まぁ俺はたとえ誰が来ても負けないし関係ない話である。
そんなこんなで割り振られたグループはAー1グループ。
一番端っこのグループか。
ラグナは、Bー3グループだった。別々のグループだったのに少し安心する。俺と同じグループになるとラグナは最低でも一敗が確定するし、それは可哀想だからな。
さて、俺が割り振られたグループの奴らはどんな感じか。
そもそもレベル10をちゃんと越えてる人が一人でもいるのかは謎だけど、油断はしないようにしよう。綺麗に立ち回れば普通に勝てる勝負なのだ。
そう考えて精神を落ち着かせながらA-1のグループの元へ行くと……
「ハイト?」
「……レイナ?」
そこには、レイナが居た。レイナもA-1なのか。
「勘当された『農民』の分際でレイナ様を呼び捨てにするとはなんだ!」
「や、やめなさい。エレン」
銀髪の騎士服を着た女の人が剣の柄に触れながら、怒りを示す。エレン・ナイトルード。JROではレイナの騎士にして、レイナの幼馴染みだったはずだ。
……まぁ、俺が婚約者になったからレイナの幼馴染みは俺なんだけど。この世界のエレンは遠目で見る機会は何度かあったけど、実際に話すのはこれが初めてだった。
「いえ、そうですね。申し訳ありません。無礼をお詫び申し上げますレイナ様」
「ハイト……」
レイナは寂しそうな瞳で俺を見た。
今の俺はデュークハルト家を勘当された、貴族でも何でもないただのハイトだ。……まだ、今の俺はレイナに釣り合う男になれていない。
でも、
「無礼ついでに申し上げさせていただきますが、レイナ様の成績に黒星を一つ付けてしまうことを先にお詫びさせていただきます」
「ハイト、良い度胸ですね。私、先月よりも何倍も強くなってますよ?」
「でしょうね」
竜騎姫は魔法攻撃と素早さに大幅な下降補正が掛る分、それ以外に極大の補正が掛る職業だ。特に物理攻撃と防御に自信があるレイナが就職したなら、多少のレベル差は覆せる程度の性能はあるだろう。
でも、それは俺がJROプレイヤーじゃない場合の話だ。
ぶっちゃけ、雷龍がいないレイナなんてちょっと強い騎士くらいの強さしかない。それに
「俺も強くなっておりますので」
「そう? そこまで言うのなら、手加減はして上げませんよ?」
「俺は手加減して差し上げても構いませんよ?」
俺の言葉に、レイナは面白そうに笑う。
そして、散々舐めた口を利いた俺をエレンはキッと睨んでいた。
「勿論、エレン様もボコボコにして差し上げますのでご安心ください」
「そうか。じゃあ、最初は貴様と戦おうじゃないか。教官、それで構わないな?」
「まぁ、どうせ総当たりだし別に構わないよ」
年老いた教官は、快諾する。レイナの前にエレンか。
さて、『騎士』様のエレンに見せてやりますか。JRO最強の職業『農民』の本当の戦い方って奴を――
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