一人目の仲間と入試対策

 冒険者ギルドに戻ると、既に依頼達成の報告は済まされていた。


 俺を一発殴ってから足早に去って行ったラグナが済ませてくれたのだろう。俺は、達成報酬としての一万ジョルと、目的であった英雄学園の入試を受けるために必要な冒険者ギルド支部長の直筆の『推薦状』を手に入れて宿に向かった。


 そう言えば、何気に流していたがオークの集落の殲滅クエストは大体一万二千ジョルくらいが相場だ。

 となると、ラグナは律儀にもオークの討伐数に応じて報酬を分配したらしい。


 ……別に俺は山分けで良かったんだけど。まぁ、今更追いかけてラグナにお金を返すのは尚更ラグナに恥を搔かせることに繋がるだろうし、機会があったら迂遠に返して行きたい。


 そんなこんなで、俺は冒険者ギルドが運営する宿屋に到着した。


 Cランクだと正規料金の半額以下で泊まれてリーズナブルである。一泊なんと三十ジョル(晩・朝飯付き)日本じゃ脅威の安さである。

 因みにJROでリアルマネーをJRO内通貨である『ジョル』に変換するときのレートは大体100円=1万ジョルくらいだった。

 でも、体感1ジョルには100円くらいの価値があるように思う。


 そんなことを考えながら、俺はそこそこ美味い晩飯を食べ終え、軽くシャワーを浴びてベッドに横たわった。

 この世界、魔法のお陰か『錬金術師』などのおかげか、JROが日本人が作ったゲームだからなのか、生活水準はかなり高い。


 俺はそんなJRO世界の素晴らしさに感動しながら、しみじみとこれからのことを考える。


 俺の最終目標は世界最強だが、その前にまずレイナとの婚約を復縁させたい。

 その為には、とりあえず今年からレイナも入学する英雄学園に俺も入学して、具体的な方策を考えていきたいが……そのためにはまず合格しなければ話にならない。


 とりあえず今日貰った支部長の推薦状があるから、書類で落とされると言うことはないと思うし、入試もJROの攻略情報を知り尽くしている俺なら最低でも正答率九割は叩き出せると思う。


 ただ、聞く話によると英雄学園はなんでも入試の時の成績などに応じてクラス分けがされるシステムになっているらしい。

 そして王女で、優秀なレイナはきっと一番上位のクラスに入ることになるだろう。


 俺は、どうせならレイナと同じクラスで学園生活を送りたかった。


 ならば俺も、上位のクラスに入るため頑張らなければならない!

 頑張らなければならない、と言っても入学試験は来月だし、今からやれる対策なんて殆どないのだけど。

 昔、忘れないようにと書き出していたJROの攻略情報を読み返すくらいはしておこう。


 ……しかし、イマイチ眠れない。


 思い返されるのは、今日の事。赤面しながら、脱いだパンツを俺に見せつけてくる赤い子猫……ラグナのこと。

 俺はレイナ一筋だけど、でも年頃の男の子だ。あんなの見せられたら、暫くは瞼の裏に張り付いて消えることはないだろう。


 俺はスッキリしてから、眠りについた。……これは生理的な行為だから浮気じゃない、と思う。



                    ◇



「アンタのせいでお嫁に行けなくなったわ! 責任を取りなさい!!」


 朝、宿でそこそこ美味い朝食を取ってから外に出ると、ラグナがビシッと俺の方に人差し指を指しながらそう言い放った。

 フルリと揺れる赤いツインテールと、金色に輝く瞳。

 でも、俺の頭に過ぎるのはやはり昨日の脱ぎたての下着……。あれは、童貞の俺には刺激が強すぎた。


 見せられた当初よりも、時間差で却って今の方が照れくさく感じる。


「……責任を取りなさいって、言われても。俺、婚約者…? がいるし」

「そうなの? でも関係ないわ!」

「関係ないことはないでしょ……」


 と言うか責任を取りなさいって、やっぱりそう言うことなのだろうか?

 昨日の段階では、てっきり嫌われたと思ったんだけど……


「って言うか、ラグナは俺……

「獣族では普通強いオスは……


 少し間が悪く、被ってしまった。俺は一先ずラグナに発言を譲る。


「その、獣族では普通強いオスは多くのメスを侍らせるものなのよ! アンタくらい強いなら、婚約者と私の二人を侍らせる甲斐性くらいあるでしょ?」

「甲斐性って言うか、そもそもレイナ……婚約者が嫌がる可能性もあるし」

「でも、さっきの言い方を見るに正確には婚約者じゃないんでしょ?」

「それは、まぁ……そうだけど。でも、今は一時的に婚約が解消されているだけで、後でまた復縁する予定だし、実質婚約者的な……ね?」


 何か、しどろもどろな言い方も相まって少し自分の言っていることがキモく感じるけど、ラグナはふむふむと頷いて聞いていた。


「つまり、今は婚約者じゃないけどいつかはそのレイナって人と結婚したいわけね。だったら、手伝って上げても良いわ!」

「……その代わり、ラグナとも結婚しろと?」

「そうね。クロッチも見られちゃったし……それとも、私がお嫁さんになるのは不満なの?」

「いや、不満というかなんというか……」


 ただ、クロッチ? を見てしまった件に関しては、俺の無知も原因の一端だった訳だし、その負い目からあんまりラグナを強く拒むことも出来なかった。


 いや、違うな。正直に言えば、パンツ見せられてちょっと揺らぎました。

 それに、ラグナは見てくれは美少女だし……性格はキツいけど、ちょっとデレが見え始めているし。……ハーレムってのにもちょっと憧れるし。

 俺の心が欲望に弱いから、ラグナを拒めないのかもしれない。誘惑に強ければ、前世で死ぬまでJROにのめり込むなんてこともなかっただろう。


「まぁ、別に……えっと、名前。なんだったかしら?」

「……昨日、聞く必要がないとかなんとか言って無かったっけ? ……って、うそうそうそ! は、ハイト。俺の名前はハイトだから!」


 いきなりパンツを脱ごうとするな!!

 脱いだ下着を見せるのは獣族の女にとって最も度し難いことじゃなかったのか……


「そう……ハイトね」


 少し残念そうな顔もしないで欲しい。俺もちょっとだけ残念な気持ちなのだから。


「まぁ、ハイトが納得できないなら別にそれで良いわ。私はどっちみちハイトのお嫁さんとして側に居続けるだけだし」

「まぁ、それなら……でも、俺はそう簡単に靡かないからな?」

「ふふっ、それはどうかしらね?」


 そう挑発的にラグナは笑う。


「それで、さっきハイトが言いかけてきたことってなんなの?」

「いや、その……ラグナって、俺のこと好きなの?」

「さぁ? どうかしらね? でも強いオスは、好きよ」


 さっき俺のこと強いオスって言ってたし、実質好きって言ってるようなものでは?


 しかし、そのちょっと素直じゃない感じの言い回しはラグナらしくて、しかし可愛げがあって嫌いじゃなかった。


 レイナ、ごめん。俺にはラグナを振るなんて出来なかったよ。前世で好意を人に向けられたことがなかったから、拒む方法を知らないんだ。

 ……いや、それも言い訳か。


 それでもとりあえず、俺は内心誓う。


 レイナとの婚約が復縁されるまで、俺はラグナに指一本触れない。誘惑されても、自家発電でなんとか耐えてみせる。

 少なくとも初めてはレイナとする。


 不誠実なことは解っているけど、それでも俺は自分で自分を嫌いにならないために不誠実なりにも、このルールだけは守ろうと思う。

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