萌える赤い子猫

 JROの萌える赤猫、ラグナ・プシーキャットは一言で表現するならツンデレキャラだった。人気投票では度々上位に食い込む程度には見た目も性能も悪くないのだが如何せん、今のラグナはJROのラグナよりも幼い。それでいて機嫌も悪そうだ。


 俺は今、そんなラグナと英雄学園の『冒険者推薦枠』を獲得するために、Cランクの依頼『オーク集落の殲滅』を引き受けていた。

 オークはゴブリンやコボルトよりワンランク強い、冒険者ランクにしてDランク程度の雑魚敵である。


 JROだと基本的に三匹以上の群れで出てきて、ステータスは攻撃力とHPと魔法防御が高めでそれ以外はとても低い。

 要するに物理で適当に殴ってれば勝てる相手である。


 因みにJROにはオークのように魔法が使えないくせに耐久は魔法防御に偏っている奴や、後半になると魔法に耐性を持っている敵が多い傾向にあるために、魔法使いの不遇を後押ししている。

 幸い『農民』は物理寄りの職業なので苦戦はしないだろう。


 寧ろ、少し前の方を不機嫌そうにあるくラグナの後ろを着いていっている現状が、今回のクエストの一番の難所かもしれない。


「……そう言えば、アンタの『職業』はなんなの? 一応、不本意ながらパーティを組むわけだし」


 そんな気まずい沈黙を破るように、ラグナが俺に質問をしてきた。

 正直、昨日『就職の儀』で痛い目をみたからあんまり言いたくないけど……


「一応『農民』かな?」

「はぁ? 『農民』? アンタそれで推薦枠狙ってるとか頭沸いてるんじゃないの?」


 ……なんでラグナはこうも一々敵意むき出しなのだろうか? そもそもラグナの『職業』は『赤魔法使い』だから、性能的には『農民』より弱いと思うけど。

 実際JROでも、ラグナをパーティに入れてる奴はとっとと有料コンテンツで転職させてたし。


 ラグナ自体は獣族特有の『真獣化』を後半で覚えるから、そこそこ強いけど『真獣化』が使えないラグナはハッキリ言ってただのカスである。

 冒険者ランクもEだしね。因みに俺はCである。

 そうでなくとも、JROでは体験できない不機嫌オーラまるだしのラグナとクエストのために数時間歩き続けるという行為は普通にフラストレーションが溜るのだ。


 俺は大人げなく、少しカチンときていた。


「へぇ。まぁ、ラグナがそう思いたいならそう思えば良いと思うけど? でも、ラグナみたいなタイプって口先だけで、実力は伴ってなさそうなタイプだよね」

「イラッ。アンタ、口には気をつけた方が良いわよ。そうね、そこまで言うんだったらこれから、オークの殲滅でどっちが多くのオークを倒せるか競ってみる? 尤も、やる前から結果はわかっているけどね」

「そうだね。俺の勝ちはほぼ決まっているしね。トリプルスコアくらいは余裕じゃないかな?」


 バチバチと目から電気が飛ぶんじゃないかって程に、俺とラグナはメンチを切り合う。


「ふーん。じゃあ、私が勝ったらどうも済みませんでしたラグナ様って言って地に頭をこすりつけて謝罪しなさい!」

「ラグナが負けたら?」

「そうね。アンタにクロッチを見せつけながら誠心誠意謝罪してあげても良いわよ」

「クロッチ?」

「クロッチを異性に見せるのは、獣族の女にとって最も度しがたい屈辱なのよ! つまり、万が一にも負けるつもりはないってこと!」


 クロッチ……の意味はよく解らないが、謝って態度を改めてくれるなら是非もない。


「そんなタカを括って大丈夫? 謝るのなら、今のうちだけど?」

「ふん、それはこっちのセリフよ!」


 そんなこんなで、オーク集落の殲滅クエスト。もとい、ラグナとのキルスコア対決が始まった。



                   ◇



 オーク討伐のスコアアタックで勝つ。それはラグナに頭を下げるなんてごめんだし絶対に成し遂げなければならない条件ではあるが、言うてJRO廃人だった俺がこの対決で負ける道理なんてない。


 なので俺は、なるべくオークを多く倒すことを意識しつつ『農民』のスキルの挙動を確かめていくことにした。


 今のレベルで使用できる『農民』のスキル・魔法は三つある。


 一つ目はスキル『耕耘』

 要するに土を耕して、作物を育てるのに適した土壌にするだけのスキルだが


「『耕耘・レンコン畑』!」


 レンコンは田んぼのような土壌で育てるために、その適した土壌はオークの膝下までの深さになる泥沼を形成して動きを鈍くさせる。

 JROではお馴染みの活用法である。

 MPの消費も殆どないし、非常に汎用性の高い素晴らしいスキルである。


 二つ目のスキルは『草刈り』

 これは純粋に草を刈り取るスキルだが、もっと突き詰めていけば広範囲に当たり判定がある横凪ぎである。


 本当は鎌で攻撃した方が威力が出るスキルなんだけど、今は剣を持っているのでそれで妥協する。一応日本でも草薙の剣とかもあるし、剣でも草刈りは出来るからね!

 そう言うわけで、俺はオークの首をバッサリと刈り取っていった。


 三匹のオークは倒れる。

 流石にオークだし、それにここはフィールドでエンカウントするモンスターがそもそも弱いハーメニア王国のマップである。

 俺は既に成長値もカンストさせてるし、レベルも10あるのでオーク程度の雑魚は余裕だった。


 そして三つ目のスキル……というか魔法は『種付け』

 これは植え付けた種に魔力を注ぎ込んで成長させる魔法である。俺は、その辺で拾った植物の種を少し遠目に見えるオークに投げつけた。


「『種付け』!」


 オークの身体に張り付いた種がオークの栄養を吸ってみるみる生長を始める。しかし、オークは育ち始めた植物をあっさりと引っこ抜いて、怒ったように俺の方に突進してきた。


「『草刈り』」


 俺は返しの横凪ぎ一閃で、オークを更に一匹討伐した。

 うーん。『種付け』……あのアイテムがないとやっぱり本領を発揮しない、というか使い物にならないか。

 アレを入手するまで、基本的に『草刈り』以外のスキルは使わないだろう。


『耕耘』? ……別にオーク程度なら足取らなくても攻撃が当たるし、時間とMPの無駄だから使う必要はないと思います。

 そんなこんなで俺は、オークの集落を適当に歩き回って、見つけ次第オークを通常攻撃で斬り捨てたり、草刈りで斬り捨てたりして仕事をしていった。



                    ◇



「な、なんで『農民』のアンタが、そんなに討伐できるのよ?」

「何でって聞かれても、普通に斬っただけだし。ラグナもちらほら見えてたでしょ?」

「そりゃ、そうだけど……」


 悔しそうに、納得がいかなさそうにラグナは自分の倒したオークの死体の山と俺が倒したオークの死体の山を見比べていた。

 スコアはラグナが6匹で、俺が32匹だ。およそ五倍差である。

 まぁでも、正直魔法使いにしては魔法防御が高めのオーク相手に頑張った方だとは思う。


 とは言え、勝負は勝負。約束は約束である。


「それで、負けた方は何をするんだっけ?」

「うぐっ……」


 ラグナは悔しそうに歯がみをしながら、キッと俺を睨み付ける。しかし、今のラグナがなにを言っても敗者の戯れ言でしかない。

 俺はニヤニヤとした表情で


「ほらほら、謝るんでしょ? 誠心誠意」


 と言った。そんな俺の言葉に、ギリっと強く奥歯を噛みしめたラグナは徐にスカートの中の下着に手を掛け、パンツを脱ぎ始めた。

 え? なんで? ……いきなりの、予想外のラグナの行動に戸惑う俺を余所に、ラグナはあやとりのような形で俺にパンツのさっきまで股に接していた部分を見せつけてきた。


「わ、悪かったわよ。あ、アンタのこと、馬鹿にするようなことを言って」


 顔を真っ赤に染め、瞳をじんわりと涙で潤ませるラグナは小さく「こんな屈辱初めてよ……」と呟いていた。

 そこで、俺はさっきのラグナの言葉を思い出す。

 負けたらクロッチを見せながら誠心誠意謝るとかなんとか。つまり……


「クロッチって、パンツのことだったんだね。へー」

「……え?」


 今、ラグナは唐突な奇行を起こしたわけじゃないのか。疑問が解決されてうんうんと頷く俺に、ラグナは茹で上がりそうなほど顔を真っ赤に染めて


「……し、死ね!! そして忘れなさい!!!」


 俺の顔面を思いっきり殴ってきた。ラグナが魔法使い職だからなのか、レベル差があるからなのかは解らないけど、ちっとも痛くはない。

 でも、俺は流石にラグナが可愛そうだと思ったので吹き飛ばされたフリをして地面に仰向けに転がった。


 ……ラグナには思いっきり恥搔かせちゃったし、嫌われただろうなぁ。


 まぁでも、美少女のパンツが拝めてラッキースケベだったし。まぁ良いか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る