冒険者推薦枠

 レイナとの婚約者関係を修復する。そう約束したし、実行すると決めたは良いものの、デュークハルト侯爵家を勘当された俺が、具体的にどうすればハーメニア王女であるレイナと婚約者に戻れるのかはよく解っていなかった。


 そりゃそうだ。JROはMMORPGであって恋愛SLGではないのだ。

 当然原作にはレイナと結婚できるイベントなんてなかったし、JROの攻略wikに載っていないこの世界の情報なんて俺は知らないのである。


 しかしこれだけは言える。貴族の人たちに根回しをしたり、権謀術数を用いてレイナの元へ行くのは100%不可能だ。

 そもそも最初のアポイントメントを取る段階で詰む自信がある。俺は基本的にはコミュ障なのである。


 しかし、コミュ障である以上に俺はJROのプレイヤーなのだ。


 故にJROの攻略情報を駆使する方向でやっていこうと思うのだが、それを考えるにあたって最初に思い返していきたいのは「そもそもJROにおけるレイナはどう言った立ち位置のキャラクターなのか」と言うことである。

 

 それを説明するには、ハーメニア王国全体のイベントを語らねばならないのだが、簡潔に言うなればハーメニア王国でのイベントは「学園編」である。


 あらすじとしてはハーメニア王国の最高学府である『英雄学園』で、度々行方不明者が出る事件が起こっていた。その調査のために、プレイヤーは学園に潜入すると言った感じだ。

 それで英雄学園は七年制の、日本で言えば高校と大学が一貫になっているような学校なのだが、レイナはそこの最上級生で学生会長として登場するのである。


 まぁ、ストーリー自体は割とありがちなハーメニア英雄学園編ではあるんだけど、レイナを始めとしてキャラが一々強いから、英雄学園編で度々起こる生徒との模擬戦イベントで何度もパーティが壊滅させられるのだ。

 ほのぼのとした雰囲気のストーリーにあるまじき高難易度さは、JROプレイヤーにかなりネタにされている。


 学園編の後に王国動乱編に繋がっていて、闇墜ちジークを討伐した後にレイナを仲間にするとやはり滅茶苦茶に強かったりするのだ。


 レイナの場合ビジュアルもそうだが、それ以上にめちゃくちゃ物理に偏ったステータス配分とそれ故の圧倒的な強さがJROプレイヤーから人気を集めている理由なのかもしれない。


 と、少し話が逸れてしまったが、要するにJROのストーリー通りならレイナは丁度今年からその『ハーメニア英雄学園』に入学することになっているはずだ。

 だから、とりあえず俺はこのハーメニア英雄学園に入学してみようと思うのだ。




                    ◇



 ハーメニア英雄学園に入学しよう! と決めたは良いものの、ハーメニア英雄学園はその名の通り将来英雄になれる人材を育成しよう! と言う心持ちの元設立された学園である。

 そして、学園はどんな人間が「英雄になりやすい人材」だと思うのかと言えば、それは当然強い職業の人間である。


 そして、ハーメニア王国において俺の就職した『農民』と言う職業はあまり強いという認識がされてない――否、寧ろ弱いとすら思われているらしいのだ。


 故に、馬鹿正直に入学試験を受けてもまず基本的に書類選考の時点で落とされると考えて良いだろう。


 しかし、とは言え『英雄学園』には事実上の職業フィルターは存在しているものの『農民』の入学を禁ずると書かれているわけではない。

 俺は、そこに『農民』の俺でもつけいる隙があるんじゃないかと思っている。


 ぶっちゃけ、書類選考さえ通過してしまえば残るは座学と実技だけで良いのでなんとかなると思っている。

 そして、その書類選考をパスするための方法は大きく分けて二つあった。


 一つは『貴族推薦枠』

 これは有力な貴族から推薦状を認めて貰うことで、書類選考どころか入学試験そのものをパスする方法だ。

 実は、俺やレイナはこの枠で入学する予定だったのだが……まぁ、俺は勘当されてしまったのでその話はパーになっちゃったし、アルジオに勘当された以上、俺が頼れる貴族なんて皆無だろう。


 故に本命はもう一つの『冒険者推薦枠』の方だ。

 こちらは出生が不明だったり、あまり強くない『職業』の人でも冒険者ギルドの支部長以上の身分の人がその人の実力を認め、推薦状を書けば、座学試験と実技試験を受けることが認められるという枠だ。


 これはJROには公開されていない情報なのだが、冒険者推薦で入学できる人は毎年2~3人程度らしい。

 英雄学園は一学年三百人程度だから、1%だ。前世の俺なら諦めていたが、今世の俺は最強を目指すのだ。100人に一人の逸材にくらいなって見せよう。


 そんなこんなで、俺は冒険者ギルドへ向かう。


 冒険者推薦枠。それには、冒険者として高い実力を示す必要がある――と書かれているものの、受験者は『職業』をやっと得たばかりの子供しかいない。

 故に下はFランク、上はSランクまである冒険者ランクの内大体Dになっていれば余裕で通ると聞いているが、俺のランクはCである。


 JROガチ勢的にはSからが本番と言いたい所だが、Sランクが必須だと流石に入試までには間に合わないのでCで助かったと言う気持ちもある。

 俺は「冒険者推薦枠が欲しいです」と受付嬢に簡潔に伝え、支部長室に案内して貰った。


                  ◇



「どうして、推薦枠をくれないのよ!!」

「いや、だから何度も言っておるだろう。ランクEじゃ、流石に推薦状は書けないんだ。実力がないのを送り込むと、冒険者推薦の意味がなくなってしまうからね」

「でも、私はそんじょそこいらのDランク冒険者なんかよりもずっと強いわ!」


 支部長室には先客が来ていた。

 深紅色の髪と、それと同じように燃えるように赤い猫耳とピンとそり立つ猫尻尾の美少女。萌える赤猫、ラグナ・プシーキャット。

 確かJROでは、英雄学園で風紀委員長をやっていたキャラのはずだ。


 ……そっか、ラグナも入学前なのか。って言うか、冒険者推薦枠だったのか。


「ラグナくん。……ほら、次も控えてるしそろそろ――」

「っと、ちょっとそこのアンタも言ってやってよ! この支部長が聞き分けがなくて!」


 そんな風に考えながら見ていると、ラグナに声を掛けられる。

 支部長は呆れたように、やれやれと首を振っていた。


「……じゃあ、こうしようか。ラグナくん。あそこにいる彼とCランク以上の依頼をこなせたら、君はDランクに昇格できる。そしたら、君にも推薦状を書けるだろう」

「本当に!?」

「ああ、そこの君。その若いなりを見るに、どうせ君も推薦状が欲しくて来たのだろう? この子との依頼をちゃんとこなせたら君にも推薦状を書いてあげよう」


 支部長は疲れた顔でそう言った。

 JROでのラグナは中々に諦めの悪い性格をしていた。きっと、下手すれば何時間もああして粘られていたのかもしれない。


 正直、支部長に厄介ごとのとばっちりを押しつけられたようにしか思えないが、ラグナは一応JROのキャラの一人だし、ここで恩を売っておけばレイナとの婚約を修復させるのに役立ってくれるかもしれない。


 それに、こう言う強引な感じはJROのクエストって感じがして中々にそそられた。


「解りました。では、その……ラグナさん、でしたっけ? 僕はハイト――」

「アンタの名前になんて興味はないわ。それと私の足を引っ張ったらアンタの首筋噛み千切って殺すから」

「…………」


 うん。まぁJROのNPCって何故か最初っから険悪なこと多いし、でもクエストが終わったら何だかんだで仲良くなったりするし……ここはJROと違ってフレンドリーファイヤだって出来るし。中々にこのクエストは楽しくなりそうだ。

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