成長値システム

 非公式情報ではあるが『JRO』をやりこむ上で、ガチ勢なら誰もが知っている要素の一つに『成長値システム』というものがある。


 基本的に『JRO』で基礎ステータスを上げたいならレベルを上げるか、転職を繰り返してキャリアアップをすることでボーナスを付加していくかの二択になるのだがそれ以外にも、ゲーム内でした行動に応じて若干基礎ステータスが伸びるシステムがあったりするのだ。


 このシステムは隠しシステムのために、普通にプレイしたらまず気付かない。

 しかし、例えば武器で殴るモーションで敵を倒し続けると魔法使い職でも異様に攻撃力の数値が上がったり、逆にバフを丁寧に使っていれば戦士系でもそれなりにMPが増えたりする。

 そのシステムのことを俺たちは『成長値』と呼んでいる。


 この成長値は現実での発達段階において、若いときにした行動ほど大きく作用されると言う法則を再現したかったのか、何故か初めて職を手に入れる前のチュートリアル段階で最も上がりやすく、プレイ時間が伸びるほどに上がりにくくなっていくという中々に曲者なシステムであった。


 因みに、成長値の限界数値は全ステータスにおいてレベル50のときに+320されるようになっている。

 が、レベルが低いとそもそもこの成長値が反映されづらいためにこれに気付くのは後の方だし、しかし徹底的にやりこむならチュートリアル段階にて全能力の成長値を限界まで上げるのは当然の流れである。


 しかし、大半の廃人は既に成長値が殆ど上がらない領域までキャラを育成していたせいで、莫大な時間を掛けてちまちまと成長値をカンストさせるか、やり直して成長値をカンストさせた後一からそれまで育成した分を取り戻すかの選択を強いられる嵌めになった。

 俺は前者を選んだが、成長値のカンストに丸3週間掛った。


 だが、今回の俺はまだ0歳児!

 チュートリアル段階にすらたどり着けないこの段階なら、きっとゲームよりも早く効率的に成長値をカンストさせることが出来るだろう。


『JRO』の世界におけるステータスは『HP』『MP』『攻撃』『防御』『魔法攻撃』『魔法防御』『敏捷』の七種類だ!

 身動きが取れず、泣くくらいしか出来ない赤ん坊の俺だと『HP』『攻撃』『防御』『敏捷』の物理的ステータスはまだ上げられないだろう。


 しかし、逆にそれ以外の魔法的ステータスは現状でも上げられると思う。


 方法は至って単純だ。

 チュートリアルで使用できる3種類の無属性魔法『魔弾』『魔壁』『魔纏』――前から、無属性の攻撃魔法、防御魔法、強化魔法にあたるそれを唱えるだけ。


「うぁう!(魔弾!)」


 俺が唱えると、透明の空気泡のようなひょろひょろの弾が上に飛んでひょろひょろとベッドで仰向けに寝ている俺の方へ落っこちてくる。


「あぇい!(魔壁!)」


 キィィンと、音が鳴る。上手く防げたみたいだ。

 上手く出来た感触に満足しながら、もう一度! そう思って唱えようとするが、気力が抜けて力が入らない。

 流石0歳児。MP消費1しかないような魔法でもこれだけで魔力切れか。


 頭がズキズキ痛む。しかし、それでも魔法が使えたという事実が俺が『JRO』の世界に転生したのだと証明してくれているようにも思えた。

 それが妙に嬉しくて、俺はどこかさわやかな疲れを感じながらお昼寝をした。



                 ◇



 あっという間に時は流れて、あれから二年の月日が経った。


 立ってある程度自由に歩ける程までに筋肉が発達するまで、俺はひたすらにMPや魔法攻撃・魔法防御の成長値を上げ続けた。

 年が幼いからなのか、それともここが異世界で現実だからなのかは解らないけど、MPも魔法攻撃や魔法防御の値も成長が留まる気配がない。


 現実化された影響で『成長値』の上限が取り払われたのか、それとも『JRO』内に未発見或いは未実装のシステムがあったのかは解らないけど、俺の魔法的ステータスは二歳児にして、並の魔法使い職Lv10と大差ないくらいまでに成長していた。


 Lv10の魔法使いなんてJROガチ勢だった俺からすれば駆け出しも良いところだけど、それでもゴブリンやスライムみたいな雑魚なら狩れる強さだ。村の衛兵くらいにならなれるだろう。


 とは言え、俺が目指しているのは村の衛兵なんてものではなく『最強』なのだ。


 世界最強。レベルカンストなんて当たり前だし、最強の装備も当たり前。

 スキルも職業も完璧にカスタムしてもなお届くかどうか解らない世界。この世界、下を見ればゴブリンやスライムに怯える人々が居る中で、上を見ればドラゴンですら鼻息一つで消し飛ばせる化け物が居たりと際限がない。


 しかし、だからこそこの世界はJROは面白いのだ!


 話は逸れたが、つまりこの程度の魔法的ステータスで満足する俺じゃないってことだ。基礎ステータスはいくら上げても上げすぎなんてことはないからな!


 とは言え『JRO』の世界――ゲームの攻略wikには必ずと言っても良いほど書かれていることだが、この世界は圧倒的な物理偏重の世界なのだ。


 雑魚ボス問わず敵の大半は物理攻撃で殴ってくるし、攻撃側に回ったときもやはり物理攻撃でガンガン殴った方が基本的には効率が良いのだ。

 高レベル帯になると、魔法は攻撃力を上げるバフくらいで後は攻撃力依存の物理攻撃でひたすら殴るのが一番強いという結論になるのだ。


 中レベル帯とかだと魔法の属性相性を考えた方が効率が良いときもままあるけど。兎も角、今日からは魔法以上に物理方面の『成長値』を伸ばしていきたいのだ。


 二歳児の身体で成長値を上げて良いのかは疑問が残るが……まぁ、大丈夫だろう。子供って俺たちが想像している以上に丈夫だって聞くし。


 そんなこんなで、物理的ステータス――つまり『HP』『攻撃力』『防御力』『敏捷』を上げていきたいわけだが、JROの成長値システムは基本的に早ければ早いほど、使えば使うほどに上がっていくシステムになっている。


 つまり、HPを適度に減らしながら何かを攻撃しながら防御の練習もしながらついでに足も速くなりそうな練習をすれば全てのステータスが伸びる。

 最も手っ取り早いのはモンスターと戦闘することだが、それは家の外に出してすら貰えない現状だと難しそうだし、次にJRO内で効率が良いとされていた方法を実践することにした。


 それは……


「とぉぉううりゃぁああ!!」


 ガンッ、と大きな音を立てて壁に突進した。15mほどの距離を全力で走って、障害物に激突する。これこそが、物理的ステータスを効率よく上げるたった一つの冴えたやり方!


 モンスターと倒すのと違って、マクロに組み込んで放置しているだけで成長値が上がっていくから、JROでもかなり親しまれていた方法である。


「は、ハイト様!?」

「お、お止めください、坊ちゃま!!」


 そんな俺の奇行に気付いたメイドや執事たちに止められるのは、身体中に青あざが出来た後の話である。


 アルジオ(父様)や母様に奇行を咎められ、ものスゴく怒られたけど「強い騎士になりたくて!」と言ったら

「ハイトには少し早いと思うけど……」

「よくぞ言った! それでこそデュークハルトの長男だ!!」


 みたいなノリで二歳にして本職の騎士に稽古を付けて貰えることになった。まさに怪我の功名とはこのことである。実際に怪我してるしね、俺。


 って言うか俺、長男だったんだ。

 デュークハルト家って侯爵家だし、てっきり家に居ないだけで兄姉がいるもんだと思っていたよ。

 まぁ、でも俺が最初に生まれたってだけでこれから阿呆みたいに強い弟や妹たちが生まれてくるんだろうけど。


 未だ見ぬキャラ、未だ見ぬJROの世界に思いを馳せると俺の興奮は収まりがつかなくなる。


 俺は上り詰めるんだ。この世界の最強に――!!

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