2話 赤い血の英雄

なにもできないまま時間が過ぎていく。

エルシアが倒れてから軽く4時間ほど経っただろうか。

辺りは徐々に暗くなっていき、冷たい冷気が漂り始めてきた。


 死んだのではないかと思い、エルシアの胸に耳を当ててみたが胸の鼓動はドクンドクンとしっかり脈を打っていた。

死んではないようだった、ひとまず安心したが、これからどうするかまるで手立てがない。

エルシアが目を覚ますまで待つか、彼女をおぶり森の中へ入り少しでも先へ進むか。


オレの出した答えは後者だった。

森の中は未知数だ、先程襲ってきた魔獣のようなものがまだ沢山いるかもしれない、それにもう夜だ、彼女をおぶって夜道を進むなど、この貧弱なオレにできる訳がない。

進むのは明日、エルシアが目を覚めてからでも遅くはないだろう。

そうして、オレはエルシアを着ていたコートをかけた。

そして魔獣が襲ってこないか木の棒を携え(無論勝てるとは思わないが)一晩中警戒することにした。



_____



 目が覚めた。周りは明るく鳥とさえずりのような声も聞こえてくる。どうやらオレは眠ってしまったようだ、幸いにも魔獣らしきものは襲ってこなかったようだった。


だが、あれ?頭に変な違和感を覚える。

なんかこう、柔らかい。


「おはようございますっ」

すると上からエルシアが顔を覗かせてきた。

キリッと連なったまつげとブルーサファイアのような綺麗な目が俺の視線とマッチする。

「うおおっ」

オレは慌てて飛び上がる。

オレは人生初の膝枕というものをされていたらしい。


「あのっ、この服ありがとうございます」

そう言いオレが昨晩エルシアにかけたコートを渡してきた。


「あ、おう。それよりっ、大丈夫なのか?体の方は?」 

「はい、心配ありません、私スタミナが少ないので、すぐ倒れてしまうのです」

「そうなのか、それにしても驚いたよあんな凄い魔法が使えるなんてっ!」

「い、いえっ!それに驚いたのは私の方です!まさかフォックス様があの神の眷属だったとは……」


 んん?いきなりなにを言ってるんだこの子は。オレが神の眷属?言ってる意味が分からない。


「オレが神の……眷属…?」

「ええ、そうです。小さい頃から両親によく言われていました、赤い血を持つものが困っていたのなら全力で助けてあげなさいと。

それが私たちのせめてもの恩返しだと。

そしてあわよくばつがいになって貰いなさいと。」


なぜか最後の一文でエルシアは少し頬を赤らめた。

『つがい』ってなんだっけ?

ここで聞いてしまうとばかがバレるので聞くのはやめて後で調べる事にした。

あれ、でもこの世界にパソコンないよね。

多分。


「え、で、赤い血を持ってるからなんだというんだ?第一エルシアだって血流れてるだろ、赤い血が。」

「いいえ、私たちの体には血という概念がありません、細胞と魔力が調和した魔粒子液といものが流れています。色は緑ですね。」

「そ…うなのかなんとなくだが分かった、それでその神とやらはなにをした人なんだ?」

「簡単に言うと私たちの住む星をある強大な敵から守ってくれた英雄です。」

「ある強大な敵って?」


そう聞くとエルシアは一から話を説明してくれた。


聞くと、ある昔エルシアの住む星"マドナ"はある魔王の召喚した魔物により、マドナは崩壊寸前だったという。その魔物はマドナ全勢力の魔法師、剣士にも太刀打ちできずマドナは終わりを迎えるかと思われた。

だがそこに一人の魔法剣士が現れた。

彼は魔法、剣を自在に操りなんとか魔物に勝利を治めた。

だが彼の戦い抜いた後の状態は酷く、顔は原型を留めておらず、両腕も飛び散り、足も片方ないという惨状だった。

そして驚くことに、彼は赤い血を流していたのだ。この星には赤い血というものが存在しない。人も動物も魔物も全て魔粒子液というものでできている。

その事から彼は"赤い血の英雄"又は"神"として長い間文献により受け継がれてきたのだ。

後に判明した事だが彼は別の世界から召喚された事が分かったらしい。

その証拠にとある教会で一冊の召喚書が見つかったらしい。

誰が召喚したかは闇の中だが。

その本には、

『今ここに地球より選ばれし英雄を召喚する』

と書かれていたそうだ。


とエルシアは淡々と"赤い血の英雄"について詳しく話してくれた。

これがエルシアが幼き頃から両親に読まされてきた赤い血の英雄の文献の大まかな内容だという。


と、言われても赤い血が流れてるからと言ってオレに魔法が使える気配すらない。

当然、剣術なんてのも無理だろう。

じゃあなぜ、オレはこの世界に召喚されたのだろう。無難にこの世界を救うためとか?

それを知るためには王都へ行けと異空間で誰かが言っていたが、こんな森に囲まれた草原ではどうすることもできない。


「なるほど、いろいろと分かった。ありがとう。」

「い、いえっ」

「それにしても…これからどうするか……」

「すみません、私まだ魔力が完全に回復してなくて、もしまた襲われでもしたら太刀打ちできるかどうか……」

「あ、謝るなエルシア、お前はなにも悪くない、オレが無能なのがいけないんだ」

「無能だなんて、滅相もございません。地球人はもともと魔法は使えないと辞書に書かれてありました、だから赤い血の英雄が魔法を使えたのはなんらかの突然変異なのでしょう。なので気に病むことはありませんっ」


そう彼女はあたふたしながらも懸命にフォローしてくれた。

とても優しい子だ。


ここにいても道は開けない、適当にでも森へ入るしかない。


「エルシア、魔力が回復でき次第森へ入ろうと思うんだがいいか?」

「はい!あと数時間あれば完全に回復できるかと。」


そう言うと彼女は背中ら辺から一本の木剣をとりどした。


「これをフォックス様に差し上げます」

「こ、これは?」

「昨晩フォックス様が寝ている間に私の氷で削って作ったものです、フォックス様が丁度いい木を握っていたので作ってみました。

その剣には多少ながら氷の魔力も含ませていますので少しは頑丈になったかと思います。」

「あ、ありがとう。凄く気に入った!」

(よし、これで少しでも剣術を極めて強くなってやる。もう前世のように負け犬には成り下がらないぞ。)

「気に入っていただけて良かったです!」

「あ、あと"様"ってのはよしてくれよ、

 気軽にフォックスって呼んでよ」

「そ、そんなご無礼なことはできませんっ」

「いいか?エルシア、確かに赤い血をもった英雄はお前たちの星を救ったかもしれない、だけどエルシアもオレを救ってくれた。

魔力が尽きるまで必死にオレのためにがんばってくれた。

もう、対等じゃないか。というかオレの方が下過ぎるくらいだ。

だからこれからは親しく接してこうぜ?

その方がオレも楽だしさっ!」

「わっ分かりました。じゃなくて…、分かったよ、フォックス?」

「おう、これからもよろしくな、エルシア」

「うんっ」


そんな会話をしてるときだった。

一筋の光が流れ込んだ。


「おーーいここらへんに誰かいるかーー?」


森の方から声が聞こえる。

これはまたとないチャンス。


オレは必死に叫んだ。

「ここでーーす!!ここにいまーーす!」


すると森の中から、二匹の馬に乗った青年と五十近くはいってるであろうおじさんが姿を現した。

どちらも背中には剣を携えている。


よかった、これでなんとか助かるのか……


二人はオレたちのもとへつくなり驚きを隠せない表情を見せた。


「これ、君たちがやったの?」


青年は奥の魔獣たちの死骸を見てそう言う。


「い、いえ正確には彼女一人で全て倒しました、僕はそこら辺で這いつくばってただけです。」

「そ、そうなのか。それにしても良かった無事で」

「あの、あなた方はオレたちを探しにここへ?」

「はい、左様でございます。私達は王都からの伝名で召喚者の捜索を命じられました。サウロと申します。隣の者はユウラと申します。この森を南西に進むと我々の住む村、サエゴにたどり着きます。そこで一泊休養をとり、王都へ向かわせるのが我々の役目でございます。」

「わ、分かりました。」


オレとエルシアは一人づつ馬の後ろに乗せられ森へと入っていった。
















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無能だけどこの異世界を変えてみせます ちぃーずまん @ayumu1572

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