1話 魔獣の襲撃
「あのう、降りてもらえないでしょうか?」
オレのお腹の上でてんやわんやしながら周りをキョロキョロしてる美少女にそう言う。
「あわわっ、!あなたは誰ですか?」
「こっちが聞きたいよ、とにかく降りてくれ」
「ああ!はい!すいません!」
そして彼女はオレのお腹から降りるなりいろいろと質問をぶつけてくる。
「ここはどこなんですか?」
「わからない」
「なんで私はなんでこんなところにいるのでしょう?」
「わからない」
「私は自分の街へと帰ることができるのでしょうか?」
「わからない」
「なんであなたにはツノが生えてないのでしょうか?」
「あぁっ!わからないよそんなの!第一にオレだって今ここに来たばかりなんだから!あと普通ツノは生えてないから!!」
「あっ!そうなのですね、すみません」
オレは異空間で聞いた声の事を思い出した。
確か、ある少女と出会うって言ってたなそれがこの子なのか……?
それでその少女と王都へ行けとかなんとか言ってたな、そこでオレがこの世界に来た理由が分かるとか。
だが見た限り周りは人気すらない。
オレたちのいる草原の周りはぐるっと長い木で360度囲まれていて一体どこへ進めばいいのかも分からない。
「キミ、ここへ来る途中だれかに話しかけられなかったか?」
もしかしたら、彼女がなにかしらヒントをあの神様的なやつに聞かされているかもと思い、聞いてみることにした。
「はいっ、話しかけられました」
「なんて言ってた!?」
「ここで出会う青年に着いていけって」
「それだけかなのか?」
「それだけだでした、それで私たちこれからどうすればいいのでしょうか?」
「王都へ行けとは聞かされてあるな」
とは言ってもこんな木に囲まれた場所じゃ、どこへ行けばいいのか分からない。
だがずっとここにいる訳にもいかない、とりあえず森の中に入って人の手掛かりでも探すしかなさそうだな。
「助けがくる可能性もなさそうだし、とりあえず森にはいるか。」
「はい、分かりました」
オレと彼女は適当な方向に歩きはじめた。
オレたちは丁度草原の真ん中にいたため、森まで数百メートルほどある。
「名前はなんて言うんだ?」
「え、エルシアですっ」
「そうか、オレはオレは………」
自分の名前を言おうとしたがなぜか抵抗があった。これからこの世界生きていくんだ。
前世の名前なんて語るのはやめよう。
だが即興だとすぐいい名前が思いつかない。
んー、何にしよう、異世界っぽい名前………
「あのう、どうかしましたか?」
「あ、ああごめんオレの名前はフォックスだ」
キツネが頭に浮かんだのでとりあえずそう名乗ることにした。
まあ、いい名が思いつけば変えればいいだろう。
「そうなのですね、いい名前です」
「あ、おう、ありがとう」
やっぱ当分はこれでいいか。
美女に褒められるとこれまた嬉しい。
_____
それは数十メートル歩いたときだった。
目の前の森から大量の動物が出てきた、だがどれもオレの見たことのないものばかり。
この世界では魔獣とでも言うのだろう。
大型犬サイズの胴体に頭にはこれまた鋭いツノが生えている。
隣のエルシアのかわいいツノがなんて比にならないほどの鋭く尖ったツノ。
よくみるとツノが1本のものだったり2本生えてたりと二種類にわかれていた。
その魔獣は敵意むき出しの目でコチラへと近寄ってくる。
「これは、まずそうですね」
「ああ、反対側に逃げるぞ!」
後ろを振り返る、その瞬間だった。
グザッ
1本のツノがオレの背中を突き刺した。
ツノは背中から貫通してお腹からでている。
(痛いっ。痛すぎる初めてだこんな激痛)
お腹からは血がダラダラと垂れていている。このままだと直に出血多量で死んでしまうだろう。
どうやら、気づかないうちに後ろから1体だけ、魔獣が迫ってきていたようだった。
だめだこのままだとふたりとも食われ死んでしまう。
くそっ、せっかく異世界にきたのにこんなにもあっさりと死んでしまうのかよ……
これでオレ死んだら、どうなるんだ?
元の世界に戻されるのか?そしてオレはまたあの怠惰な日々に戻ってしまうのだろうか。
「あ、赤い血…………」
するとエルシアは真顔でボソッとそう口にした。
そりゃ血ぐらいでるだろ、こんな大穴空けられてんだから。
すると彼女の今までのおっとりとした顔が激変した。一瞬にして鬼のような形相になり魔獣たちを睨みつける。
「あなたは私が死んでも助けます、絶対に。
まずは、この魔獣たちを皆殺しにしましてやりましょう。」
そう言い、エルシアは手のひらを広げた。
「氷魔法第四章『アイスシークル』」
そう唱えると、エルシアの手のひらにはとても大きいツララのようなものができた。
そしてそのツララをオレの腹を貫通している魔獣に差し込む。
ギャオオオオ
魔獣が喚き声をあげる。
すると魔獣の動く振動で魔獣のツノが腹の中をかきまわる。
「いだっ、痛い」
「氷魔法第五章『アイスソード』」
エルシアは瞬時に右手に氷状の剣を作り出し、魔獣の首を切り落とす。
左手に大きなツララ、右手にとてもかっこいい氷剣。
すごい、これが魔法。それにエルシアがこんなすごい魔法の使い手だったとは。
だが回りにはまだ軽く20体ほどの魔獣がいる。倒せるのだろうか、倒せたとしてもオレは多分死ぬだろうな………
すると、一斉に魔獣達が突進してくる。
(ああ、終わった。)
「一瞬で終わらせます。
氷魔法第八章『アイスソードフィニッシ
ュ』」
エルシアはツララと氷剣の魔法を解き両手を上にあげ、そう唱えた。
すると、上空に先程だした氷剣が無数に誕生した。
エルシアが両手を降ろすと同時にその剣が魔獣たちへと突き刺さる。
ズサッズサッズサッ………
魔獣たちに空中から振り下ろされる氷剣が突き刺さっていく。
全部倒してしまった。
まさかここまで強いとは、何者なんだこのエルシアという少女は。
魔獣を全部倒したことを確認するとエルシアはオレのもとへと寄ってきた。
フラフラと大分疲弊しきっているようだった。
「では、今から回復魔法を施します」
「エルシア……も、う、手遅れだ……
内臓がぐちゃぐちゃだ」
「助けると言ったでしょう、私の命に変えてでも。」
「なんでそこまで……」
「あなたは私たちの神の子孫だからです。」
そう不思議な言葉を残し、オレの腹に刺さった魔獣のツノを首ごと抜き出す。
それとともにとてつもない激痛が走る。
もはや声も出ない、意識も朦朧としている
「我慢してください、今すぐに治癒しますので。」
そう言いエルシアは回復魔法を唱え始めた。
「回復魔法第八章『ヒールクライシス』」
エルシアの手のひらに緑の光のようなものができた、それを患部へと当てる。
「今ここに集いし精粒よ、加の者の傷を癒やしたまえ」
すると患部に緑の光が流れ込んでくるのがわかる。
それと同時に痛みが引いていく。
そして徐々に傷口も塞がっていく。
30秒ほど経ちまだ痛みは少しあるが、傷口は完全に塞がれ先程のような激痛はなくなった。
「ありがとう、治ったみたいだ」
「それは……良かったです………」
するとエルシアの手からは魔法は消え、そのまま倒れ込んでしまった。
オレは慌てて起き上がる。
勢いよく起き上がったためか、痛みが走る。
「いだっ」
「まだ、安静にしておいてください」
「え、エルシアは大丈夫なのかよ!」
「魔力を使い切ってしまったようです、体に力が入りません、」
「死ぬとかないよな……?」
「分かりません、だけどもう限界のようです」
そう言いエルシアは目を閉じた。
オレは痛感した、なんでオレはこんなにも無能なのかと。前世でも、この世でも。
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