第7話 太陽の弾丸編 後日談

 ※これは『学校潰し』事件収束直後から、耀真が神楽の遺骨を納骨する少し前までの出来事を描いた追加エピソードです。



【天都学園高等学校/バトルアリーナ】



「耀真さん……」

 渕上羽夜は、床に倒れ伏す天霧耀真を静かに見下ろしていた。

 さっき何かを呟いたかと思えば、開けていた薄目さえ閉じ、それ以降はぴくりともしない。当然だろう。あれだけの戦闘があった後に、理不尽な理由で自分の上司から太腿に銃弾を受けたとあっては、自分だったら一回眠ったら覚醒したくはない。あと五分とか言って二度寝している。

 頭では理解している。でも、呟かずにはいられなかった。

「死んでないよね?」

「こんなのでくだばるタマじゃないでしょ」

 後ろから我妻稲穂が嘆息交じりに言う。

「いまから治療するから、そこ退いて」

「治療……?」

 既に稲穂の隣には、浅黒い肌の小柄な少女が救急キット入りのバッグを持って佇んでいた。見るからに外国人で、気配は完全に魔族のものだった。

「エリーゼ。早速だけど、お願いしていい?」

「了解でありますっ!」

 気軽に応じた彼女は、羽夜と入れ替わりで耀真の傍に膝を付き、バッグの中身から小さな筒状の何かをたくさん取り出し、彼女自身と耀真を円形に取り囲むように設置する。

 あれはたしか、【スペルシリンダー】という魔装具だ。

「【スペルナンバー64 ヘキサグラムイジェクト】」

 唱えると、【スペルシリンダー】の筒先から青色の光が漏れ出し、ドーム状に変化して彼女と耀真の周辺を覆いつくした。

 そのせいで外から様子が伺えない。意図的に視覚遮断の効果を施しているのだ。

「何をする気なの?」

「これから弾丸を摘出するのよ」

 稲穂が腕を組んで答える。

「あの子の腕なら心配要らない。すぐ終わるわ」

「彼女は何者なの?」

「エリーゼ・クルクベウ。ルーマニア支部の特級魔装士にして、腕利きの魔道救命士。若干十五歳にして、魔族専門の天才ドクターよ。あ、学年は私達の一個下で、いま中三だってよ」

「……すごい」

 語彙力を失った羽夜であった。

「とにかく、ここはあの子に任せて、あんたはもう休みなさい」

「稲穂はどうするの?」

「外の様子を見てくる。一応事件は収束したけど、まだ警戒はしなきゃだし」

「いいや、稲穂ちゃんも休むんだ」

 いつの間にか背後に立っていた壮真が言った。

「ジャミルや猿飛君が応援で来てくれる事になっている。外の警護はあの二人に任せて、今回の戦闘に関わったメンバーはしばらく休んでくれ。一応、この後は君達からも事情聴取しないといけない訳だしな」

「そう……ですか」

 ここで稲穂も気が抜けたらしく、どさっとその場に座り込んだ。

「良かった……あの二人なら安心だわ」

 彼女の反応を見るに、その二名は魔道事務局の中でもかなりの腕利きのようだ。耀真や稲穂達と関わっていれば、いずれ会う機会もあるだろう。

 稲穂につられて体から力が抜け落ち、ふらりと倒れかける。

 あわやというところで、渡会吹雪と清水小太郎がそれぞれ両脇から支えてくれた。

「羽夜ちゃん、大丈夫?」

「吹雪……うん……少し疲れただけだから」

「当然っすよね」

 小太郎が羽夜の腕や足の痣を見ながら言った。

「こんだけの怪我……よく耐えられたもんっすよ」

「あはは……次からは気を付ける」

「そうして下さい。……ほら、少し歩きますよ」

 こうして羽夜は吹雪と小太郎に運ばれるまでの間に、少しずつ瞼が落ち、やがて静かに睡魔に負けてしまったのであった。


   ●


 校舎の外は酷い有様だった。西棟以外は特に建物が壊れた形跡が無いものの、魔道事務局の職員達によって保護や治療、臨時カウンセリング等を受けていた生徒達の面持ちは、実に最悪と呼んで差支えのないものだった。事件のショックで精気が抜け落ちた者もいれば、人質に取られた恐怖が尾を引いて泣き喚く女子まで、とにかく様々だ。

 特に精神的に一番酷かったのは、屋上で拘束されていた一部の女子生徒達だ。

 生徒会の会長である雲井逢花と会計の木枯唯奈は特に問題無かったものの、無慈悲に殺された生徒二名の一番傍にいた一般生徒二名は保護された後に何回かパニックを起こし、挙句に麻酔で強制的に気絶させられてすぐに救急車で搬送されていったのだ。

「……酷い有様」

 これらの様子を一通り目の当たりにした笠井雨音は、群衆の隅で一人呟く。

「これ……この後、どうなるんだろう?」

「さあな」

 隣には、いつの間にか我妻楓太が立っていた。

「うぉおっ!? ビビったぁ!」

「俺もビビったわ。勝手に一人でどっか行くんだもんな」

 実は耀真がエリーゼの治療を受け始めたあたりで、彼については特に心配要らないだろうと思ったあたりから外の様子が気になり、勝手にバトルアリーナを抜け出していたのだ。

 まあ、バレたのも何かの縁だ。少し気になる事を訊いてみよう。

「……楓太先輩。その……高井先輩と福島先輩は? 耀真達と一緒に消えたでしょ?」

「あの二人はまだMVRの本体保管領域の中だ。さすがに死体の損壊が酷すぎる」

「VR世界での人殺し……そんな事が本当に出来るんですか?」

 簡単な話はさっき聞いた。だが、その原理までは詳細不明だ。

 知っているであろう楓太も頭を振った。

「分からん。詳しくは科捜班待ちだ」

「……そうですか。 ……ん?」

 ぼんやりとほの暗い光景を眺めていた雨音の視界の端に、ある人物の姿が映り込む。

 あれは【ラッシュスター】の沖合桜だ。

「先輩。たしか、あの子……」

「ああ。屋上で磔になってたな。何やってんだ?」

 彼女は何人かの医療スタッフを伴って、臨時カウンセリングの為に仮設されたブルーシートのテントに入っていった。彼女も被害者なのだから当然のように思えるかもしれないが、雨音の目には少し違う様子に映っていた。

 少しして、テントから淡い緑色の光が漏れ出す。

「……今度は何?」

「さあ……?」

 二人が首を捻っていると、またしても彼女はスタッフと共にテントから出て、次に先程まで魔女型ゴーレムに包囲されていた生徒達の前に出るなり、自分の魔法で地面から細長い蔦を無数に召喚した。

 蔦の一本一本が地上で何かの模様を描くように走り、生徒達を包囲する。

「あれは、魔法陣か?」

 蔦の交差と集合によって完成したそれは、究極魔法を発動する為の媒介となる魔法陣を完成させていた。

 桜はよく通る声で、その魔法の発動を宣言する。

「【究極大地魔法 メリアスの子守歌】」

 彼女の言霊が乗ったその魔法陣が鮮やかな緑色に発光すると、蔦からは様々な色の花が咲き、風と共に散った花弁が柔らかな芳香を引き連れて拡散した。すると、魔法陣の範囲内で花吹雪を総身に受けている生徒達の顔つきに、みるみるうちに安らぎと活力が戻っていくではないか。

 見た目から効果まで、実に美しい魔法である。

「まさか、さっきからずっとアレで生徒達のメンタルケアをしてたの?」

「あいつも被害者だろ? マジかよ」

 これには特級魔装士の楓太も驚きを禁じえなかったようだ。自分も怖い思いをしただろうに、自分がケアを受けるどころか、医療従事者の手伝いをやってのけるとは。

「……あ、笠井さん」

 こちらに気付いた桜が小走りで駆け寄ってきた。

「よっ。聞いたよ。ウチの小太郎が世話になったみたいじゃん」

「誰から聞いたの?」

「いまさっき、ご本人から電話で」

「そ……そう」

 応じつつ、桜の額の汗を見咎める。

「それより沖合さん、もう休んだ方がいいんじゃ……」

「ダメダメ。私なんて今回、役に立たなかったどころか人質にされちゃったじゃん。だからちょっとは仕事しておかないと、ただの恥さらしもイイとこですわ」

「ちょっとって……魔力の消耗が限界ギリギリじゃん!」

「……笠井さん、そんな事まで分かるの?」

「目の下のクマ! あと、目の焦点が合ってない!」

「大丈夫大丈夫。まだまだ平気――」

 棒立ち状態の桜が前のめりに倒れ、楓太に受け止められた。

「人の忠告は素直に聞いておくもんだ」

「そう……ですね。すみません」

「いいさ。それで、どれくらいの人数に魔法を使った?」

「校舎の外にいた人全員……あと、校舎内で拘束されていた教師全員」

「最高の仕事だ。これでメンタルケアの手間が省ける」

「私なんて……まだまだ」

 桜は楓太の胸に頭を預けたまま、ぼんやりとした目で雨音を見遣る。

「笠井さん……随分変わったね」

「急に何?」

「中学時代は……もっと冷たかった」

「…………」

 雨音と小太郎、そして桜は同じ中学の出身だが、実は当時の雨音とその二人は接触が無いのである。そんな相手に、自分の何が分かるというのだろう。

 でも、妙に納得してしまう何かが、胸の内に芽生えていた。

「また……話せる……と…………覚え……て……」

 すうっと瞳を閉じ、桜は眠ってしまった。

 そんな彼女に対し、雨音は小さく、皮肉っぽく呟いた。

「……覚えていたらね」

 願わくば、彼女の方から忘れて欲しいと思った。


【天都学園高等学校/MVR管制ルーム】


 管制室の大きなモニターに映るのは、俯せに地へ沈んだ黒焦げの骸だ。それはかつての友人で、いまは憎むべき敵――厳密に言えば、MVRの本体保管領域内で遺体のまま一時的に安置されている高井弘毅の仮想体だった。

 有田真也は【チーム・アンビシャス】が起こした事件の真相を全て知り、ここに立っている。

「残念ながら、ご覧の有様です」

 部屋の壁に寄りかかり腕を組み、姫風雪緒は淡々と告げる。

「ていうか、本当は全て気付いていたんじゃないっすかね」

「……何の話だ?」

「高井先輩が羽夜ちゃんを襲撃した件と、笠井さんの勧誘に割り込んだ件。あの裏ではどっちも有田先輩が耀真君に手を貸してますよね。内心では、耀真君に高井先輩を適当な罪で逮捕してもらって、司法で過去の犯罪を全て追及してもらう腹積もりだったのでは?」

「……いまはそれすらも叶わなくなっちまったがな」

 取り繕う無意味を悟ったのか、真也は白状する。

「正直言うと、ガキの頃からずっと一緒だったから、憎みきれなかった。いま生きてるダチか、死んだ彼女の敵討ちか……どっちを選んでいいか分からなくて……結局、中途半端な方法で生殺しにするって方法しか、思い浮かばなかった」

「まあ、憎悪の形は人それぞれですからね」

「お前は本気で誰かを憎んだ事があるのか?」

「ありますよ。いまでも殺したいと思ってる奴が、一人だけ」

 雪緒は踵を返し、真也に背を向けた。

「まあ、そいつが何者なのかも、現在調査中ですけどね」

「お前……」

「しばらく一人にしといてあげますよ。じゃ、私はこれで」

 などと告げてから、雪緒は管制室を去り、一人で昏い廊下を歩く。

 真也が淡い期待を耀真にしたように、自分も耀真に縋った事がある。それだけ、天霧耀真という男は人に期待を抱かせ、信頼を預けてしまいたくなるような何かがある。

 そんな耀真が最近、自分から手を伸ばして、渕上羽夜という希望を掴み取った。

 彼の弟子である雪緒は、そこに何か運命めいたものを感じていた。

「希望……か」

 小さく呟いて、少し後に事情聴取があったのを思い出してからは、雪緒の頭から耀真と羽夜に対する物思いは綺麗さっぱり消えていた。


   ●


【魔導事務局/戦闘課オフィス】



「はい、退院おめっとさん」

 普段は簡単な書類作成の為に設置されたテーブルに、質素な茶封筒がぽんっと置かれる。ちなみに宛名のところには手抜き感満載の文字で「耀真の分」とか書かれている。

 テーブル一つを挟んで、対面から壮真が適当な口調で説明する。

「今回の件で解決に尽力したメンバーに対しては、それ相応の謝礼金が充当される。羽夜さんなんて凄い額だぞ。三年間の学費全てを払ってもまだ残る」

「それで治療費は全て政府が持ってくれるんだから、太っ腹もいいとこっすよね」

 耀真は貰った茶封筒の中から、口座振込の明細書を取り出した。

「うわ、もう入金されとるがな」

「お前も結構な額は貰ってるだろ。チームの運営資金にでもするんだな」

「そうさせてもらいます」

「ところで、天都学園はまだ休校期間中だっけか? 今回は一番活躍したのってお前のチームなんだし、どっか気晴らしに遊んでもバチは当たらんだろ。例えば――」

 壮真がスマホで何かを調べ、検索結果の画面を耀真に突き出す。

 何やら、レジャー施設のホームページみたいだが。

「シューティングランド・魔弾の射手? ああ、あの銃型魔装具専門のアミューズメントパークっすね。たしか吉祥寺でしたっけ?」

「ああ。最近は笠井さんに銃の指導をしてるんだろ? だったら、こういう所で遊びながら練習させんのも一つの手だと思うがね」

「考えてみます」

「ところで、話は変わるが……しおみんと入道君は大丈夫なのか?」

「というと?」

「比良坂先生の話によれば、天都学園はいま、未曽有の危機を迎えてる」

 突然、壮真が重い話を始めた。

「今回の件で人間の生徒さんの大半が、親御さんの意向で天都学園を退学させられそうになっているんだとか。魔族の受け入れ推進校がまだ少ない現状では、魔族はそうコロコロ学校を変えられないが、人間の方はそうでもない。『学校潰し』の標的が魔族の受け入れ推進校だったっていうのが理由でそういう話になってるらしいが……」

「テロのターゲットになる理由なんて、挙げればキリが無いのにな」

 いまは戦闘課の部下としてでなく、天霧壮真の息子として話をする事にした。

「そういや、しおみんが親から学校を辞めるよう説得されたって話は聞いたが、敵幹部を一人ぶちのめしたという武勇伝を聞かせたらすぐに黙ったんだとか」

「いっそ清々しいな。しおみん、マジしおみんだわ」

「入道の親御さんはむしろ、煙玉とか【トリモチバレット】の量産体制を強化するとか言って張り切ってたな。実戦でも有用なデータは取れたし、俺たちの方にも【トリモチ】を優先的に回してくれるって」

「やっとか……」

 コリアンダーに破られこそしたが、それでも【トリモチバレット】はSS級以上の魔導犯罪者の動きを制限するくらいの性能はある、という事が実証されている。非殺傷性の捕縛兵器としては有用なので、生産体制の強化と優先納入は非常に助かる。

「まあ、生徒の件にせよ何にせよ、こっから先はなるようになるってトコかな」

「そうか」

 壮真が腕時計を見て、顔を上げる。

「もう時間だな。局長の不始末の件で査問委員会に呼び出されてるんだ」

「大変ですな」

「純粋に長期休暇が欲しい。お前や楓太とのんびり話す時間もな。今度、三人で……いや、小太郎や猿飛君、ジャミルも連れて、六人でドライブに行こう。久しぶりの男子会だ。きっと楽しいぞ」

「そりゃいいや。……俺も巡回の時間っすわ。今日は小太郎と一緒です」

「ああ。小太郎によろしく伝えといてくれ」

 こうして慌ただしく、天霧壮真はオフィスを後にしたのだった。

「さて……これからどうすっかなー」

 後から来る予定の小太郎をぼんやりここで待っているのも良し。あるいは購買か何かで小腹の足しでも探してみるか? まあ、奴が遅れてくるようなら考えよう。

 そんな普段通りの物思いに耽っていると、スマホに着信が入った。

「……え?」

 この時、スマホの画面に表示された発信者の名前を見て、耀真は少々面食らった。

 ギュンター・ドレッセル。悪魔族の王である。

「……もしもし?」

『やあ、耀真君』

 恐る恐る電話に出た事が馬鹿馬鹿しくなるくらい、彼の王は普通に応じていた。

『いま少し話せるかな?』

「ええ。それで、どのようなご用件で?」

『単刀直入に言おう。たったいま、弄月神楽の墓の用意が完了した』

「……!」

 急に、胸の奥にナイフで刺されたような感覚が迸る。

 もう分かっているはずなのに、彼女の死を再認識させられた。

『密葬の準備も整っている。明日に執り行い、すぐ後に彼女は荼毘に伏される。納骨はその次の日だ。それで合っているな?』

「……ええ。ご連絡、ありがとうございます」

 本来の手順ならお通夜と葬儀の後に告別式があり――という一般的な流れに沿う予定にしたかった。しかし耀真本人も含め、周囲の連中が先日の事後処理や通常業務などに追われているのもあり、かなり変則的な段取りとなってしまった。

 そのあたりをアテンドしてくれたのがギュンター・ドレッセル公だ。彼は自らの立場を利用し、冠婚葬祭業ではトップシェアを誇るハワード・モリスの会社とコンタクトを取り付け、こうして喪主である壮真と耀真にとって無理の無い日取りで施工を済ませてくれた。

 あまりにも親切過ぎて、むしろ不気味さすら感じるのは、多少心が汚いだろうか。

『そこまで畏まられると、こちらも少々バツが悪いのだが』

「それについて、少し疑問に思った事があります」

『何かね?』

「ドレッセル公がそこまで協力的な理由についてです。かつての同胞の尻拭い、という理由だけでは無いですよね?」

『何だ、そんな事か。強いて言うなら、君とは対等な関係でいたいと思っているからだ』

 耀真の立場にしてみれば、随分と意外な理由だった。

『その為にはこちらの不手際を清算して、ようやく一対一の関係だ」

「俺なんぞ、ただの学生バイト魔装士ですよ?」

『君が何者なのかは、先日の戦いで既に証明されている』

 思い起こされるのは、羽夜達と共にベルフェゴールに挑んだ、あの瞬間だった。

『君とはいつか、ウィッチバトルの舞台で思いっきり勝負したいな』

「ドレッセル公……」

『私の事はギュンターでいい。ああ、そろそろ時間だから、これで失礼する』

「ええ。では、また後日」

『またな、我がライバルよ』

 最後に洒落た捨て台詞を残して、ギュンターは通話を打ち切った。

 魔族の王と対等……ライバル、か。

「すんませんね。まだ俺には想像つきませんわ」

 そんな独り言をつぶやいていると、ちょうど良いタイミングで小太郎がやってきた。ちなみに今日から彼の制服は二級の白ではなく、一級の濃いグレーのジャケットだ。

「すんません、遅れちまって」

「いいさ。そういや、一級昇格おめでとー」

「まだ実感無いっすわ。試験で昇格したんじゃないっすから」

「実績だけで一級にジャンプアップだなんて話は珍しくも無い。あ、そうだ。仕事の帰りにどっか飯でも食って帰ろうぜ。今日は俺の奢りな」

「マジっすか! じゃあ俺、ラーメンがいいっす!」

「ついでだから、うちの雨音とドコまでいったのか教えなさい」

「――え」

 小太郎が何か呆けた顔をしている。

「いや、耀真さん? あの……」

「ほら、さっさと行くぞ一級魔装士」

「あの……俺、別にまだ笠井さんとは何もしてませんからね?」

「帰りに湿布でも買ってくか? 腰は一生モンだぞ」

「さっきから話が飛躍し過ぎっす。そんなんだから羽夜さんにアホ呼ばわりされるんですよ!」

「あん? あいつ、俺の知らねーとこで何て事を……帰りに俺の分の湿布も買わなきゃ」

「どんなお仕置きするつもりなんすか」

「その前にお前の話だ。後でたっぷり聞かせてもらうからな。イった回数とか」

「だから何もしてねーって……ちょっと? 聞いてるんすか? こっち見ろぉおおお!」

 さーて、楽しみだなー。仕事終わりが待ち遠しいわー。



                                               後日談 終わり

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