第2話
「右の部屋、左の部屋」♯2
あの殺し屋の言葉を信じた訳ではないが、残り少ない人生を香子と五月と共に過ごせたなら、俺の人生は幸せだったと評価出来るのではないかと思った。
乗り慣れた特急列車の窓から見える見慣れた田園風景が新鮮に感じる。濁った眼球は若返ったかのように鮮明に見える。
駅からしばらく歩き、岡の上の団地に着いた。香子と五月の住む団地だ。俺の買ってあげた香子の軽自動車が止まっている。在宅している。303号室へ階段で上がる。胸の苦しみを堪えながら階段を上がりインターホンを押す手前で意識を失ったー。
目の前がグルグルと周りに壁や階段にぶつかりながら落ちた。踊り場まで落ちてしまった。
薄れゆく意識の中、見上げると香子と五月が玄関から出てきた。
二人は心配そうに駆け下りてきた。
五月が抱きついて泣いている。香子が手を握りながら救急車を呼んでいる。
だが、俺は……。
綺麗に整備された庭を縁側から眺めている。
座敷には頭を深く下げた香子さんと娘がいる。奥様は黙ってそれを観ている。
私は奥様の耳元に近づいた。
この方々にお金を渡してあげたらいいと思いますよ。この方々のお陰で殺さずに済んだのですから、奥様も私も旦那様もこの方々も幸せじゃないですか、愛する人を見つけられたのだから…。
貴男が言うならそうするわー。
香子親子はお金は目的ではなかったが、お金を受け取り夕陽の中へと消えていった。
私は奥様とそれを見送りながら愛を感じていた。
右の部屋のドアを開けると左の部屋へ通じていた。
左の部屋からノックする音が聞こえてきた。
無いと思い込んでいたドアを見つけた。
終
右の部屋、左の部屋 門前払 勝無 @kaburemono
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