右の部屋、左の部屋

門前払 勝無

第1話

「右の部屋、左の部屋」♯1


 愛というのはだね、二人が求め合って育む物なのだよ。二人の力で育てると愛の結晶として子供を授かるのだよ。


 違うね…先生。

 貴方は何かの影響を受けすぎている。それが宗教なのか主義なのか解らないが、貴方は何か勘違いしている。

 我々人間は片割れなのですよ。その片割れを本能で求めているのですよ。だから、何をしても満足しない、欲しいものを手にしても満足しない、愛を手にすると何も要らなくなる。しかし、間違った愛を手にしてしまうと破滅に向かうのですよ。それがほとんどのケースで、稀に片割れをみつけることが出来る人が居て本当の幸福を感じる。それが拡がってゆき人々が自らもそれを求めるのですよ。そもそも愛というのは失った片割れを求める事の過程が愛なのですよ。運良くなのか、必然なのか解りませんが片割れを見つけるとそこには充実が出来て、それまでの苦悩が吹っ飛ぶのですよ。

 貴方は妥協して一緒になった奥様を煙たく思い続けていたー。奥様はそれを感じていた。奥様は貴方が引退して書斎に籠もるのを解っていた。そして、私に依頼してきたのですよ。


 君は一体何者なのだ。


 私は殺し屋です。しかし、今回はおどろきました。いつもならこんな会話などしないのですが…殺す前にお願いがあります。


 殺す相手にお願いとは…なんですか?


 奥様と私は右と左、S極とN極、右脳と左脳、二つに一つの存在だと確信致しました。

 なので、認めてもらいたいのです。貴方の奥様と私が結ばれるのを…。


 何故、殺されるのにそんなことを認めるんですか?殺してすきにすればいい。


 私は何人も殺してきた上で、死後の世界を感じています。未練を残した魂は殺した相手に憑く傾向があります。気付かれないように殺すと、相手は死んだことに気付かないで地縛霊になります。死を覚悟して未練も無ければ素直にあの世へ行けますので、奥様と私の運命的な出会いを認めていただきたいのですよ。


 どうでも良いことだ。

 家内は両親の希望で見合いをして一緒になっただけ、心残りと言えばまだ小さい娘が居る…。


 それはどういうことですか?


 七年前に出会った女との子供が今年小学生になるんですよ。家では書斎に籠もり研究と称して週末に出掛けるのは女と子供に会うためですよ。


 その人はどこに居るんですか?


 殺すのか?


 いや、そういうわけではないです。ただ、貴方が浮気をしていたとは…それを理由に離婚して慰謝料を奥様に払うという解決は出来ますか?


 女は二十七歳、娘は七歳、自分は来年七十歳だよ。育児と介護をさせるのは酷い…ここでアンタに殺されて何も無かったことにしておいた方が良かろう。


 私は十代から殺しをしています。

 今、三十五です。奥様は六十4歳ですよね。私は介護する覚悟できています。殺しから生かす方へシフトを変えるのです。貴方が全てを捨ててその女の所へ行ってみてからでも殺すのは遅くないと思いますよ。もしかしたらその女は貴方の片割れかもしれないですよ。


 君の言う愛かね?


 そうです。


 試してみるかな…。


 違っていたら、殺しに伺いますよ。


 そうだな…そうしてもらおうか。


 はい。

 では、今日は引き上げます。


つづく

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