第3話不思議な先輩

陽が傾いた放課後の中庭のベンチに体重を預けながら桜の樹を眺めていた柊先輩。彼女の姿を廊下の窓から見掛け、思わず駆け出し、校舎を出て、彼女のいる中庭へと急ぐ僕。


後ろから追い越していく吹奏楽部の女子生徒や廊下でたむろする男子数人のグループ、女子数人のグループを見掛けたが彼女に話し掛けたい一心で足をとめず、進む。


中庭に到着した僕はぜぇぜぇと息を切らし、膝に手を付いた前屈みになりながら呼吸を整えていたが、彼女は一向に気付く様子もなかった。

呼吸を整え終えた僕は彼女に近付き、遠慮がちに声を掛けた。


「あっあのっ、せっ......んぱい......とっとと隣っ、座っても良いですか?」

「......」


僕の一世一代とも言える声を掛けるという勇気を無視した彼女。

無視、というよりかは声すら聞こえていないように桜の樹を見つめたまま呼吸すら忘れているかのようでピクリともしない。


「あのぅ~先輩、隣っ──」


「あ、ああ......邪魔だった?私。鈍くさいって周りから言われてて、キミもそんなふうに思って声を掛けてきたクチでしょ」


彼女は特段驚いた様子もなく落ち着いた低い声で返す。

彼女の口から想定もしていなかった単語が発せられ、返すのが遅れてしまう。


「いっ、いえっ!そんなことは微塵も思ってないです、先輩に対してっ!」


「そう......なら何が目的で私になんか、声を掛けてきたの?」


「あっ......とぉー、先輩と話したいなぁと思って......何ですけど?」


彼女の鋭い目付きに圧倒され、おそるおそる返答した。


「恐れられる程でもないけど。キミがしたいようにすれば良い」


そう言ったきり、目線を桜の樹に戻し、一言も発することなく、沈黙が続いた。




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春が近付くと戻れないあの日々を思い出す 闇野ゆかい @kouyann

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