宛先を忘れた人々の願いは砂になる

無限の自由を夢見て永遠を電子レンジでゆっくり温めてみてもかみさまに見放されてしまったなら、宛先を忘れた人々の願いはいつかきっと砂になる。

軽い身体しか持たない蜉蝣は薄い羽を涙で濡らして価値や意味の重みに耐えきれずにナンセンスを垂れ流す僕とおなじで君の名前も忘れるほどの長い時間をひとりで過ごして眠らなければならないというルールに従順な夜の光を集めて新しい星を生む雨になるための詩を死を何度も空に叫び乞うたのに。

ピアノの鍵盤を叩く指先は春の草木を喜ばすに足る詩を奏でただろうかと僕は滑り落ちるように思考停止して君の笑顔すら思い出せずに星空を見上げて涙が流れるのを我慢したんだ。


そして流れることは一度もなかった。



泥にまみれた靴の紐を締め直して君の写真を探してもどこにもなくて記憶に頼って空ににじむ微かなその笑みだけを追いかける。


今日も明日も追いかける。追いかける。追いかけるのだ。


君のいない未知なる道に踏み出す勇気を持つ手段なんてどこにもないと諦めるにはまだ早いから、夜空にあたらしい星を探して、君を探して、君なしで生きるためなんだって自分に言い聞かせて。

今日も僕は浜辺に座る。砂を数える。それ以外にできることなどない気がした。零が一になるだけでも前進だと思えるくらいに、僕は大人になったのだった。

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