魚の顔
はらはら散った記憶の光る断片を紡ぎ合わせて再構成した君は不完全だからこそほんとうの君に似ていた。雨粒はアスファルトを濡らして染み込み暗い土のなかを涙のにおいで満たして川に注ぎ海に注ぎふたたび雨になる循環の一部としての君が一瞬だけいたのを見ただけの僕は永遠に孤独だ。薄い雲をちいさく千切った雪の結晶のつくりだす幾何学模様のはかなさも君も大差なく消える物理法則を憎み恨みなんとなく今日も空に失望するのになぜか美しいなって思う僕の愚かさを自ら讃えたくなる。
冬の冷たい空気だけが愛と哀しみの中庸を維持しながら水平と垂直だけが支配する人工的な空間をつらぬく鉄の塊と意志も感情もない僕とがちぐはぐなまま重なりからまり不自由な世の中を生きにくい世の中だとか嘆く滑稽で君を汚してみたかったのに。
冬はとても残酷だ。
僕の望みは叶わないまま終わった。
おじいちゃんのおとうさんはひいおじいちゃんでそのおとうさんはひいひいおじいちゃんでひいを一億八千万回続けてみたら魚に出会えるのだという君の話をいまだに僕は信じられずに数字とデータでいつまでも遊ぶ。
細胞一つだったはずの過去も忘れて三十七兆のいつかの誰かが語り合う会議室の喧騒は断片的に君の輪郭を描くけれど素粒子的な曖昧さはどうにも君を捕まえられずに夢破れた裂け目から漏れるとろとろとした髄液は甘くながれて春を待って待って待ってよって新しい夢のためのたいせつな養分になった。
夢はとても綺麗だ。
僕の望みは叶わないまま終わった。
遠くのビルに光る一つに君がいると想像しても隔たりは埋まらないまま空間をとびとびに関係して独立した個人としての僕を無視して無意味と繋がりたがる。男。少年。十代。思春期。高校生。中学生。大学生。アルバイト。社会人。君の知らない誰かの彼氏。課長。部長。父。祖父。深海を泳ぐ誰かだった僕の祖先と隣を泳いでいたかもしれない君の祖先とがかわした泡沫なんかがきっと古の太陽に照らされて光っていたんだ。なのに君は足りない足りないと泣いてばかりで属性を拒むことに一生懸命で君自身を失ったのだろう。
すべての光の交差するところにだけ君はいたから。
一歩も動けないまま君は終わった。
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