空を宝石で満たす方法を知らない僕は君の手を握りどこまでも歩いていたかったのだ
星や宝石の純粋な輝きだけが性や生から解放された美しさだった青春の青はラピスラズリより甘く濃くて飲まれそうな粘度に耐え難いほどの嗚咽を漏らした空から降る輝きだけが願いを託すに値すると叫んだ君はとても優しかった。
天と地の境界線を歩く君のあゆみは危うく人差し指の銀の指輪がぎらぎら太陽に照る限りにおいて与えられた欲望こそが正しさだと信じ込ませる世界への裏切りとして死があると子供じみた考えに絡め取られて失った君自身は核融合と核分裂を繰り返して恒星を成すと誓った。
神やそれに似た超越的ななにかに自らを託して油断して躓いて傷ついて誰が悪いとか悪くないとか責任と無責任に揺られながら生の意味を剥奪された堕天使みたいに君は可愛らしくて欠落していて足りない穴を埋める色を絵の具に探しても簡単に買えるような代物ではなかったのだろう。
川沿いの道に咲いた名も知らない小さな花をちぎって川面に浮かべて死を詩に変えられるなら君は虚しさに打ちのめされたりはしない。
絶望の裏返しに太陽の恵みを全身一杯に浴びて喜び猫のように背筋を伸ばしてみてもぎこちないあどけない君の笑みに苦悶を見いだしても好きだといえればもっともっと遠くまで歩けたのに。
秋の彼岸ごろの鈍色の空から降る雨は水銀のように重く地中深くしずみこんで君に届くのだろうか。
宇宙が涙を流すならば誰のためかと流星に問いながら届かなかった祈りだけが君のいる淵で圧し潰されて宝石になるなら拒み続けて抗い続けて見つからないはずのものを見つけ出すことだって僕らにはできたかもしれないのにどうして歩くのをやめてしまったのだろうか。
同じように言葉を便箋に綴り封筒に封じ世界の終わりまで閉ざしておいたら星になるかななんてしょうもないふがいない満たされないままの空を見上げて朝が来るのを川辺に座っていつまでも待っているうちに蚊に刺されてあとが赤くなって腫れたら家に帰るけれどどこにでも君の不在がちらちら変光星のように鈍く輝いているのに。
僕らはその場所には届かなかった。
夜に鳴く水鳥の声は夜よりも澄んでいる。
潔いほど透明な紫に身を浸して沈んでいく夢の中で君の肌と唇だけがはるか遠くにやわらかく光るのになにかが落ちる水音に波だった夜が君を飲み込む。
さやけき月の明かりが雲に隠れる瞬間を見計らったように君は微笑み僕から奪い去った喜びを恋と呼ぶなら夜も闇も僕には優しく感じられるのだ。
静謐な水面に落ちる波紋が干渉してできた格子縞から発生源を辿るのと同じ手段できっと君は明確な輪郭で浮かび上がってそこで生きると信じ込ませる自分の卑小さに嫌気がさすでもなく大胆な惰性と怠惰で慣性の法則をたゆたう愚者だと自覚しながら脱しようともしないクズでも良いと君は言ってはくれないだろから薄い闇の膜を破って朝を引き摺り出さなきゃならなかったんだよクソが!!
アイデンティティの基盤に君を置く僕のような無知と無垢の紙一重のゆらぎでしかない一瞬の火花よりも儚い命でしかないなんてあまりに理不尽だよ。
心の底にあるべき一枚の絵を描くための色がいつまでも欠けている。
君が残した言葉は不誠実で不完全でも花のように甘く香るなんて嘘。
待っていたはずの未来からあらかじめ雨が降っておくようにと仕向けられたあの日の終わりを思い出す前に君の好きだった空色の傘で晴れを演出する嘘。
あまりに鮮やかで憎たらしくて埋めた花が肥やしとなって新しい花をより美しくするなんて嘘。
気ぜわしく動き回るのに足りない。
夥しい言葉を綴る。
死んだんだねって、言葉にしてみて現実が静かに降る。
流れる血は赤く、無意味よりも濃く、意味よりも少し薄い。
捨てるべきものをすべて捨てたら砂になれる。
動物でも人間でもないものになりたかった。
君の憧れは星と宝石に託して、僕は一層ばらばらになる準備はできていた。
過剰がもたらす幸福に満ちた世界から抜け落ちてしまった君と意味の連鎖を断ち切った瞬間から右手と右足が同時に出てしまうような不器用さでもなお歩き続けることでしか得られないものがあるとか言い訳して考えるのもやめて進み続けていつか海がいつか夜がラピスラズリで満たしてくれるなんてくだらない祈りが成就する前に毎日まいにち朝は愚かにも訪れるのだ。
君に奪わせてたまるものかと強がった過去はキャンバスで唯一の白地になって目立っていた。
白む東の空に嘆く。
この苦しみもこの悲しみも全部ぜんぶ僕のものだと君には分けてやらないよと。
僕はいつから君を愛や恋とともに詩として死として語るようになったかは知らない。
道化師のように涙と笑顔をたたえる表情からは悲しみしか読み取れなかった。
新しい星を仰ぎながら眠ろう。
二度と太陽なんていらないと君が流れ星に祈った夜にだって、不器量な朝は訪れたのだから。
死んだって詩だってそうやって君はいつまでも僕を悩ませる。
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