笑われても飛ぶよと笑う君は今

夏の水族館の水槽を泳ぐペンギンは

短い翼をパタパタ動かし

愚かにも空を飛ぼうと試みたのを

皆が腹を抱えて笑ったのに

君だけが笑わなかった


薄汚れた水に沈む死んだ魚の

腐臭がかすかに鼻を突く

重く冷たい桎梏から逃れるのに

翼は必要だろうか

と問うのだ

何度もなんどもだから

君だけが笑わなかった


シーネットルと戯れる光が

長い触手に水に透け

綾なし絡まりゆらゆら揺れる

暗がりのなか

妬みや嫉みや羨みばかりが

少年少女を絡めとる

でも

君だけが笑っていた


水族館からほど近い

競艇場と競馬場は今日はおやすみ

時間を削り命を賭して

駆け抜ける彼らの得る対価はきっと

君と同じなのだろう


だから

君だけが無意味に生きて

そして

笑われたのだ

そして君は

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