咲かない花と星の尾

君の命を買うのに要する金を算出する間に君は朽ちた

ありきたりな毎日を望み描く絵画の一筆すら

計算のための数式のようにのたうちまわる蛇

焦燥がキャンバスを赤く焼く

乾いた赤い絵の具が

椿のようにぽろりと落ちた日から

流れ星の尾の網膜に残る線が

永遠のようにまとわりつくのだ


よるべない夜の不安に

君からもらったアングラ舞台の円盤鑑賞

虚実の境界を成す第四の壁は

僕と君を隔てる生死の壁のように

薄く遠く

日々の耐え難い孤独を蔑ろにして

惰性の抱く蠱惑のつぼみの花開くのを待つ

サボテンに水をやり続けて眠る

寂寞の果ての闇で眠る君の寝顔は

花が踊る春より鮮やかに軽く

星の声より静謐で美しく


見知らぬ機械の不条理な運動の朝

君だけが狂うように踊り生を余さず謳歌した

喜びと同量の苦しみを御御御付けにひたし

やわらくなったそれを啜る君の唇は赤く

どくどく流れる血より濃くて深くてもっと刺してと

懇願するような上目遣いに

僕はひどく当惑した


かたくなった土に触れる

君の骨をはらむ土に熱はない

君と僕はただ星の欠片でしかない

君を失い自由を強いられた僕は


青鈍色の空を泳ぐ怠惰な蜉蝣


道徳という名のおもちゃを

正義気取りで正義気取りで振り翳した日々を

無視した夜のけがれが落ちるまで

地につかない浮遊を続ける僕は


青鈍色の空を泳ぐ怠惰な蜉蝣

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る