まだ咲かない桜のしたで

自由に飛んで生きることに憧れ

尾長の青い尾のように長い夜に

鮮やかな藍を走る流れ星を探す君は

春の夜に見た

夥しい数の石榴が降る残酷な夢を

まだ咲かない桜のしたで話して聞かせた


君の命はいつも

透明な紅色の甘い汁を宿していた

とろりと濃厚な時間に切れ目を入れれば

灰桜色の淡い熱が静かに漏れ出す

春がまだ霞の向こうで

懐かしい温もりを奥に隠して

機を窺っている


天から糸を垂らしたみたいな光が遠くに伸び

希望の欠片だと信じた君は

大地を蹴って飛んだ

高くたかく

筋張った足首の裏側の

細く伸びるアキレス腱が

弦を引き絞るように縮まり

タンッと肉体は地上を離れた

高くたかく


あの日の呪いを振り払えないまま

自由に見惚れて空に憧れて虚しさに溺れた

僕も君も飛べない

長いだけの生などいらない

地中深くから掘り出された鉱石は

磨かれて不意に自らの輝きを知って

涙もなく七色の虹を照らし出すのに

僕も君も飛べない


君が待っているはずだった桜のしたで

僕はまだ

君を待ち続けている

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