詩が書けない

おめでとうの言葉が耳障りで

退屈な日々が一層と退屈になる予感に僕は

胸を飾る造花と

の字のかくばった線を

はなから憎んでいた


先生はただ先に生きただけの愚者ばかり

と悔しくて喚いて泣いた君の

真っ白のブラウスが日の光を透かして

脇腹の輪郭をくっきりと描いた

春を思い出した


そんな日はどこにもなかった


毎日同じ電車で同じオフィスで同じ仕事をして

同じ記憶が幾重にも積み重なっても

同じ質量のまま

水素のように軽いままの僕は

燃えて散って水蒸気になって空になって


それでもまだ

君のことが好きらしい


永久凍土に閉じ込めた記憶を

春の日差しは躊躇せず裂き

君の髪が風に揺れたことを

梅の咲いた公園の

小高い丘から吹きおろす風が

ほのかに甘いことを思い出した


そんな日はどこにもなかった



恋なんてしなきゃよかった

君なんて好きにならなきゃよかった


陳腐で凡庸なフレーズが脳裏をよぎり

詩にもならないくだらない言葉で

世界と僕はできていると知る


僕の凡庸でくだらないありふれた

特色のない角のない丸い

抵抗も衝突も少ない僕の世界で


君だけが

そんな言葉でできていなかったから


君といる時だけ

君がいる世界だけが

僕には詩に見えたのだ


だから僕は

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