目に映るもののすべてに光を春を

うねるような海を泳ぐ光の網に

投げた石が空に滑らかな放物線を描いて

自然の摂理に従うように吸い込まれるのを

僕はただ

見ていることしかできなかった


春近く海面は荒く波立ち

サーファーたちが海をなだめるように

なでるように滑っていく

優しいねといった君だけが

君の世界では優しくなかった


海の底のダイオウグソクムシの

絡み合う脚のようにグロテスクに

こんがらがった細い心は

深海の高い水圧に押し潰され

闇を鮮やかに赤く染めたのだった


砂浜の砂をひとにぎり掴み

指先からこぼれる粒を人の命になぞらえて

ぱらぱら散るのを美しいといって笑った

この海の向こうで人が人を殺しているといって

それが美しいといってはしゃいだ


学校で学んだ知識で人は救えず

学校で学んだ道徳は人を救うことを求め

社会に出て突きつけられる矛盾に苛まれることなく

君は欺瞞を暴くことでしか

詩の甘美なる陶酔を味わうことができなかった


言葉で表し得るほどのことなど

所詮は自然の模倣の域を出ず

陳腐で凡庸でくだらない遊びに過ぎない


君のいない砂浜で

投げた石が空に滑らかな放物線を描いて

海の表面をただよう光の網の目をすり抜けるように

深海に沈んでいった


遠くの空から光芒がさす

湿り気のある風が

すこしなまぐさい風が

君のいない春をしらせた

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る