夜に君の声を聞いたら
1
地球の重心から遠ざかれば
重力からも解き放たれるという幻想に
魅せられた君は
空に近づきたいとなんども嘔吐した
からだが軽ければ飛べるかもしれないよ
だからまだ死ねないよと
階段をのぼり続ける夜にこぼした君の言葉が
星になって降るならきっと
その頬は流星雨に濡れるのだ
2
僕が窓を探し
幼少期から拗らせたルサンチマンを
言葉と音と色と光を紙飛行機に織り込んで
誰もいない秋の空に飛ばしたいと
願った刹那
空から一瞬の白いひかりが堕ちた
あれが君なら
早春の清いあかりに満ちた
朝の君ならよかったのにと泣いて
足りないままの空から見下ろした街の
明滅する様が寂しくて
来年もまた会えるからと
君が言うのを聞いた気がした
紙飛行機が君に届くには
まだ少し遠い
3
煌々と照る灯りのひとつひとつが
ひとりのひとの営みなのだと
君の分厚い眼鏡にいくつもの光を宿して笑って
闇があるよ
闇があるよ
光のない場所があるよと
少し低く震える声で鳴く犬みたいに
温かい手で僕に触れた
深い海に似た過去から這い出てきたはずの
冷たいはずの暗い底から浮いてきたはずの
君との夜だけがやけに熱を孕んで
もうそこにないはずの情景を
まぶたのうらに映し出す
あらゆるすべてが透明な夜になる
穴の空いたような光のない公園を指さして
あれが虚無だよと言う声は
空のように澄んでいた
君はきっとあの時から
空に近かったのでしょう?
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