もう秋には飽きたから季節は巡らなくてもいい

思い出を何度も薄めてうすめて透明になった

水のような空のような青の中をイルカと泳ぐ夢を見た

君がイルカだった時のことを覚えていないように

僕は君と一緒だった時のことをだんだん忘れていく

小気味よく波間を跳び

紺色の肌を日の光に輝かせて

夜露に濡れたアスファルトのように滑らかで

どこか無機質な君は

深くへと沈んでいった


目を覚ました場所から君へと続くみちのりは

どうやら長いらしい

潔く運命を切断して

僕を君へと近づける唯一の手段を選ぶなら

二人の恋みたいにふわふわした

軽すぎる関係にも

いくらか血と命の重みが加わると思う


容易に複製される君は

君だけが価値を持つことを忘れさせて

僕にとっての君だけが価値を持つことを

際立たせたりもして

体育座りで教室の闇のなかで

隣にいたはずの君が誰かに入れ替わっていても

気付かぬまま不器用に愛してしまう

僕は

不誠実だろうかと問うと

きっと君は優雅な笑みを浮かべるのだろう


時間をとめてと真っ直ぐ進む光に願った

秋の空は真空よりも濁っているから

僕まで光は届かなかった

天網は粗くすぐに漏れ出してしまう光も雪も

秋にはまだまだ遠く

元気よく明けた紅い空に涙を撒き散らして

終わらない秋

巡らないひととせのシンボルにすると

僕がひとりで決めたのだった

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