猫を生かすために
蝙蝠傘の黒い布を剥いで
金属の骨になったそれをいたずらに振り回す君
白い腕がしなやかに揺れながら闇に残像を残す
淡いあわい花びらの色のように
容易には虫や人を惹きつけないから
夏の残り香をはなに感じながら足を滑らせ池に落ちた
冷たい水がはねて虹になって秋になって空が冴えた
どこまでも続くような青だけが君を思い出させる
猫はとぼとぼ路傍を歩いて行き着く先を知らない
君と僕だけが太陽の青い光を待ちわびている
猫は少し急ぎ過ぎて相対論をリアルに生きているから
猫だけが歳をとらないはずだったのに
君もいつしか相対論に飲まれてしまって歳をとらない
彼岸花の放つ紅が夕暮れ空を染める頃には
きっと僕は君とも猫とも遠ざかって
家の中で秋が来るのを待つのに
金木犀はとうに散ったのに
それはまだ来ないらしい
言葉の硬度を変えるためにいくらか雨を混ぜてみた
甘いと雨と天はどこかにていて
快楽と空虚が同居している小さな宇宙の小さな銀河
きらきらちりぢり
誰もが孤独な真っ暗な海を泳ぐ君の行き着く場所と
まだ死んでいないのに歳をとらない猫のその場所とが
近いことをなんとなく祈っているのだ
粒々と降る流星に耳を澄まして声を聞いて
そこに君の甘い淡いふるえる声が混ざるのを期待して
そんなわけないのに夜だけが僕の救いに思えた
角砂糖は夜に沈む
甘味は天に向かって曖昧に溶ける花火のように舌にひろがり
永遠の眠りを模倣しようと
まどろみたちがささやき誘う
もう眠っても良いかと問う猫
食べ切れないほどの世界の色彩を
ひとところにまとめあげたら
核融合をはじめた星たちに尋ねたい
君は今どこにいますか
幸福ですか満ち足りていますか
あの猫もきっと一緒にいるのでしょうね
じゃなきゃ星は
もっと汚くなくっちゃね
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