花が美しく咲くことが耐えられないから僕は

君が生きたことを無駄だと嘲るように

遠くのシリウスが笑った

長いあいだ眠れなかった永遠に来ない約束の日を

いつでもいつまでたっても明日も

待ち続けるみたいな

時間が光とこんがらがって溶けるみたいな

そんな一瞬を数えるうちに散る君が見せた後ろ姿は

不十分なCPUで処理できない物憂さとともに

軽い笑い話で捨て置きたいのに

さようならさようならさようならってなんど泣いても

君の後ろ姿は君の後ろ姿は君の後ろ姿は

僕の瞼から消えないのだ


凪いだ空に夜の匂いを探し

秋にだけある冴えた空気に光が漏れた

細かな粒子が宙を漂い息もできずにもがいてる

どこにもいない君はきっと

そんな光に閉じ込められて

雨上がりに咲いた柘榴の花のように

からだに赤いあかい愛を隠しているのだ

鮮やかな愛を隠しているのだ

聞こえない声をあげて泣き出すのだ


子供たちの笑い声が幾重にも連なるようにほら

もう聞こえなくなるようにほら

なにを笑っていたのかも思い出せないくらいに笑った

あの日のアイスの味を忘れたようにほら

僕は君の声が歌だと思うんだ


なのに


計算可能な数々の未来の断片が僕を笑う

笑顔のなかに君だけが欠けていて

数多の鏡を余すことなく割って拒む

未来などいらない君のいない未来などないから

可能性と確率に支配された世界のありとあらゆる言葉は

ばらばらにされて風に飲まれて

そらになった雨になったそれはいつかの君だった

つんと澄んで淑やかに振る舞う君がどうして

泥にまみれて土にうもれて未来をなくして

呼吸を落として鼓動を壊して

それでも路傍に花が咲くことに

もう僕は耐えられそうにない

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