鋭く刃を研いでおいてね

平らな道を歩いているはずなのにふらふらする

やるせない僕の行く先に君はいないのかな

タイヤがグズグズ擦れながら鳴く軽トラが僕を追い越し

やがて前を歩くヤギをも追い越して

坂を下って消えていった

荷台には大きな麻袋が一つ載っていただけで

他になにもなかった


もちろんこの世のすべてが夢で

赤い糸の幻想だけを頼りに何度も血を流してきた

愛や恋という言葉の香気に誘われて酔う夜の

月より甘い光に吸い取られた魂たちよ

終わりへの決断を迫られてもなお

まだいつか渡されたはずのナイフを

隠し持ったままなのか


役に立つか立たないかだけで断じられてきた

僕達だから

過去に執着しないのだと

ジェンガみたいに過去から未来へと

抜いて積んでを繰り返す人々を笑った

はずなのに

はずなのに君は真っ先に崩れて落ちた

今がそこにあるはずなのに

今を生きているはずなのに

砂糖菓子みたく甘い夜にかどわかされたのだった


谷底の沢は乾き切って痛いほどの死が流れていた

西の空から降る焦燥を僕は一時的に浴びて濡れた

手紙を君に書くと約束したはずが

いつしか僕は僕にしか

手紙を書いていなかった

左足が痛い

ずっとずっと左足が痛い

痛みの原因を探して歩き続けるのに

見上げた空はまだ青い

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