みつからなくて

虹色の空をぎこちなく舞う雲に似て

宙を彷徨う僕は無意味な空白

遠くの建物が大きく見える

記憶の逆遠近法の世界で

なぜかいつだって君だけが近くて遠い

足音だけは聞こえる

夢を諦めて

目に映る光景のなかだけに

君をさがしている証


夥しい数の石榴が降る夜の君の鼻は

濡れて濡れて犬みたいで泣きすぎだよ

と僕は笑った

記憶を捨てることに決めた

ここに君はいない

もう君はいないからここには

奥歯をギュッとかたく掴んで

澄んだ空に願いだけを投げて飛ばす

どこか物足りない日常に不平不満を垂らさぬように

目の前にいる人々が君と比べて醜く見えないように

紙とペンを持って

何度も何度も

否定する過去と君と僕と


未来の希望はあるかと問うても

視線の先の光るなにかの隙間に

ピンク色に沈みこむ花のような陰鬱な明日が

いつだって待っている

湖の底から届いた手紙を

読む日を夢見て

とうに埋葬されたはずの君の声で

海でカモメが鳴いた


そこにはない


限界を目指して地平線を睨む瞳

欲から生まれる物語の果てにいる君を羨んで

僕は恨んで

記憶から剥がすことのできない天邪鬼と遊んで

未来も過去も時間も

牢獄に閉じ込めた夜に君は歌う


愛とは

死とは


歌をうたうほととぎす

絶えるまで

たどり着くまで

滝になっている赤い地平線へと

淵へと落ちる赤い地平線へと


魚が泳ぎながら呼吸するみたいに

とまったらきっと君は僕は

死んでしまうのだろう

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