思いつきで死ねるほど軽いなら或いは笑え
1
帰ろうよと袖を引く子供
恐れに覆われ眠れぬ夜に僕は
映画の主人公にはなれず
脆く崩れる岬の灯台
光のない静謐な世界で
頑張って
と無責任な言葉が
ポップに弾ける
木曜日の雨を眺める
2
愛してると同じ温度で死にたいがあった
ぴぴーぴーざざ
ざーーぴーざぴざざざぴざ
SNSとSOSの境界線からお伝えします
ねじけた君の心を温めました
電子レンジじゃまだ足りません
その周波数では届きません
夏の匂いと雨の匂いの
区別がつかないくらいに君は遠いのです
だから僕は
だから君は
今日死ぬのが良いと思います
明日生まれ変わればいいのだから
さようならマイアカウント
悲嘆に暮れて部屋に見つけた
窓から漏れる月明かりに
祈る明日の雨音
いらっしゃいただいま
おかえりありがとうごめんなさい
それしか言葉のない世界に
生まれたかった君と僕
愛を失った空はもう
空虚な鳥たちを抱くことはない
喪失消失SOSのSNSの境界線上に見える光は
三千年も前からきっと
助けてって言っていたのに
誰も聞く耳持たず深海に潜水して
太陽から逃げていたんだ
3
天が悪を余さず捕らえて
善人たちのみが闊歩する理想郷に
降り立ったのが
君なのだ
だから泣かないでよと
雨がささやく
唯一の悪人である君がいなきゃ
善人は
善人ではいられないのだから
だから
だから泣かないでよと
雨がささやく
冷やかすように
数多の雨粒が微笑んで
君という悪にあぐらをかいて夢を見る
遅いおそい落下速度は
万有引力の証明でも
ニュートンの見た世界を見られない君には
弧を描く虹より軽く
いつかは忘れられる命なんだ
4
足元ばかり見てるから堕ちるんだ
と笑った天使が二度も堕ちた
まぶしくひかる雨を縫って
ひらひら光をまたたかせながら
朝を求めて空をさまよう蛾のように
こっそり溢れた東雲の星屑のように
脆弱も怠惰も許さぬ純真さで
あったはずの過去を揺さぶるのだろう
空に浮いて
空に願って
君への思いを
電信柱の下で吐き出して
昨日のピンク色の吐瀉物は
雨に洗われたから
魂の根底にある
忘れられた水平線で
君はもう一度
ビー玉みたいにころころと軽やかに
ミルキーウェイを歩くのだった
終わりは訪れる
知らずとも
祈らずとも
願わずとも
君がそこにいても
僕はまだ
そこから逃げ続けているけど
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