思いつきで死ねるほど軽いなら或いは笑え


帰ろうよと袖を引く子供

恐れに覆われ眠れぬ夜に僕は

映画の主人公にはなれず

脆く崩れる岬の灯台

光のない静謐な世界で

頑張って

と無責任な言葉が

ポップに弾ける

木曜日の雨を眺める



愛してると同じ温度で死にたいがあった

ぴぴーぴーざざ

ざーーぴーざぴざざざぴざ

SNSとSOSの境界線からお伝えします

ねじけた君の心を温めました

電子レンジじゃまだ足りません

その周波数では届きません

夏の匂いと雨の匂いの

区別がつかないくらいに君は遠いのです

だから僕は

だから君は

今日死ぬのが良いと思います

明日生まれ変わればいいのだから

さようならマイアカウント

悲嘆に暮れて部屋に見つけた

窓から漏れる月明かりに

祈る明日の雨音


いらっしゃいただいま

おかえりありがとうごめんなさい

それしか言葉のない世界に

生まれたかった君と僕

愛を失った空はもう

空虚な鳥たちを抱くことはない

喪失消失SOSのSNSの境界線上に見える光は

三千年も前からきっと

助けてって言っていたのに

誰も聞く耳持たず深海に潜水して

太陽から逃げていたんだ



天が悪を余さず捕らえて

善人たちのみが闊歩する理想郷に

降り立ったのが

君なのだ


だから泣かないでよと

雨がささやく

唯一の悪人である君がいなきゃ

善人は

善人ではいられないのだから

だから

だから泣かないでよと

雨がささやく


冷やかすように

数多の雨粒が微笑んで

君という悪にあぐらをかいて夢を見る

遅いおそい落下速度は

万有引力の証明でも

ニュートンの見た世界を見られない君には

弧を描く虹より軽く

いつかは忘れられる命なんだ



足元ばかり見てるから堕ちるんだ

と笑った天使が二度も堕ちた

まぶしくひかる雨を縫って

ひらひら光をまたたかせながら

朝を求めて空をさまよう蛾のように

こっそり溢れた東雲の星屑のように

脆弱も怠惰も許さぬ純真さで

あったはずの過去を揺さぶるのだろう


空に浮いて

空に願って

君への思いを

電信柱の下で吐き出して

昨日のピンク色の吐瀉物は

雨に洗われたから

魂の根底にある

忘れられた水平線で

君はもう一度

ビー玉みたいにころころと軽やかに

ミルキーウェイを歩くのだった


終わりは訪れる


知らずとも

祈らずとも

願わずとも


君がそこにいても

僕はまだ

そこから逃げ続けているけど

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る